第1話「勇者を殺してくれますか。」
第一話
「あーあ…またクリアしちゃったよ…」
モニター画面には、魔王にトドメの一撃を与える勇者の姿。
「俺の休日の楽しみがまたひとつ消えちまった…
ありがとう…"デーモンズクエスト"」
ゲーミングチェアの背もたれにもたれかかり、山積みになったクリア済みのゲームソフトを見つめる。
そのどれもがRPG作品であり、基本ソロプレイ。
積まれるたびに、友達の少なさが視覚で感じる。
「レベル上げて魔王倒して、世界平和……
世界の救世主っていうのも、もう飽きてきたな…」
画面にはエンドロールが流れている。
初めはエンドロールをも楽しめたが、
今はただ、退屈な時間である。
「あぁー、腹減った…」
ゲーミングチェアから立ち上がり、
食糧調達のためにリビングへ向かう。
大量にストックしているカップ麺を手に取り。
やかんに水を入れ、コンロの火をつける。
沸騰するまでの虚の時間を埋めるかのように、テレビをつけた。
テレビの明かりと共に
ニュースキャスターの声が、部屋に響き渡る。
「続いてのニュースです。現在、全国で原因不明の行方不明事件が相次いでいます。警察によりますと、ここ数日だけでも失踪者は数十人にのぼり——」
画面には、次々と切り替わる失踪者の写真。
「なお、現時点で事件性は確認されていませんが、警察が共通点を調べたところ、失踪者の多くが直前まで“あるゲーム”をプレイしていた可能性があることが分かりました」
「ゲーム中に行方不明って転生でもしたのかよ…」
グツグツと沸き上がる音が聞こえ、火を止める。
あまり熱すぎるのは好きではない。
もう今年で32だ。
人生においての熱も若い頃に置いてきてしまった。
「あーあ、俺もしてみてぇー…転生…」
熱を求めているのかもしれない。
ゲームをしている時のみ、体温を感じる。
レベルアップの高揚感、戦闘時のハラハラ。
…ゲームは俺の生きがいだ。
カップ麺にお湯を注ぎ、ゲームという俺の温もりに戻る。
モニターの画面には、未だエンドロール画面が流れていた。
ゲーミングチェアに座り、麺を啜る。
いただきますのモーションは、もう省くことにした。
食事はただ生きるための栄養摂取。
なるべくゲームに時間を費やしたい。
「あ、エンドロール終わった…」
モニター画面は黒くなる。
麺を啜る男が反射し写っている。
ブッサイクな面…。
面が良かったら、もっとマシな人生だったか?
モニターに文字が浮かび上がる。
———
勇者によって魔王は倒され、世界に平和が訪れた
———
「はいはい、最後の語りね…
もういいよ、同じ様なのもう何百回と見たよ」
続いてモニターの画面が切り替わる。
———
@/&☆!?!!@#!?
▶︎はい
いいえ
———
「なんだなんだ?最後の最後でバグか?
冷めるわー、勘弁してくれよ」
文字化けが徐々に読める文字へと変化する。
———
勇者を殺してくれますか?
▶︎はい
いいえ
———
勇者を殺す。
本来結びつくはずない文字に一瞬目を疑う。
「何百作品とRPGをしてきたが、これは初めての展開だ…」
徐にスマホを取り出し、検索する。
"デーモンズクエスト 勇者殺す"
何度かスライドし画面を下る。
どれだけ深く検索しても、俺と同じ景色を眺めたプレイヤーはいないようだ。
「チッ、なんだよバグりすぎだろ!
ウィルスでも入ったのかぁ?」
少しの苛立ちから携帯が俺の手から強く離れ机に着地する。
その拍子に、コントローラが机から落ちた。
「やべっ!!」
咄嗟にコントローラをキャッチする。
「あっぶねぇ、壊れてないよな…!
今コントローラ単体で買うのも高いからなぁ…」
コントローラの無事を確認し再度モニター画面に目をやると、ロード画面に切り替わっていた。
どうやらコントローラをキャッチした時に、
○ボタンを押してしまったようだ。
「なんだ?まだストーリーは続くのか?
…って、やべぇ!テレビ消してなか——」
途端に俺の身体は画面に吸い込まれ、目の前が真っ暗になった。
部屋には誰もいなくなった。
ただ、つけっぱなしのニュースの音だけが部屋中を駆け巡る。
「失踪者の多くが直前までしていたゲーム。
その名は"デーモンズクエスト"」
———
ど、どうなってんだ!何も見えない…
身体の感覚も何もない。
状況が全く掴めない。
俺は死んだのか?
いや、死ぬ要素なんてどこにも無かっただろ?
パニック状態な俺の視界に光が差し込む。
ゆっくりと瞼を開くとそこには、そこには少女が立っていた。
とんがり帽子から流れ出る紫色の髪。
肌は白く、耳は鋭く尖っている。
「ほ、ほんとに人が…」
少女は目を見開き驚いた顔で俺を見ている。
この現象は初めてなのか、俺と同じ表情だ。
「あ、あの…ここはどこですか?」
俺は状況把握のため、簡単な質問を投げかけた。
「こ、ここは転生の中間地点。"狭間"です」
「狭間?つまり俺は転生したってこと?」
「いえ、厳密にはまだ転生はしていません。
ここは中間地点です。転生のためのステータス設定をする場所……らしいです。」
「らしい?
あんたが俺を呼んだんじゃないんですか?」
「呼んだのは私ですが、本当に来るとは…」
なんか歯切れ悪いな…
転生ってもっと"おめでとうございます!"
とか"ようこそ異世界へ!"
みたいに歓迎されるものじゃないのか?
なんだ?
もっとイケメンでも来ると思ったのか?
生意気な小娘だぜ…
まぁいいや、とりあえずステータス設定してもらおう
「と、とりあえずステータス設定ですよね!」
「ステータス設定なら私の方でしておきました」
「…は?
普通スキル選んだりとか能力値の割り振りとか…」
「こちらがマオ・ノクスさんのステータスです」
目の前のやたらでかい石盤に、
文字が光り刻まれる。
とても持ち上がりそうにない石盤が浮いている。
それだけでも、転生されている実感が湧いてくる。
俺のステータスは?
どれどれ〜?
――――――――――
Lv.1
名前:マオ・ノクス
種族:魔人
HP:#N/A
MP:#N/A
筋力(STR):#N/A
耐久(VIT):#N/A
敏捷(AGI):#N/A
器用(DEX):#N/A
知力(INT):#N/A
運(LUK):#N/A
スキル:異名コレクター
異名:
――――――――――
名前は"マオ・ノクス"か…
マオの部分は転生前と同じだから特段変化はなしか。
種族が…魔人…。
魔人!?え、いや、え?
ていうか、#N/Aてなんだ?エラー?バグ?
強いかもわかんねぇーよ!
「おい!どうなってんだよ!このステータス!無茶苦茶じゃねーか!」
ウゥゥゥゥ――ン!侵入者、侵入者。
警備の方はすぐに対処してください。
"狭間"中にサイレンが鳴り響く。
視界は赤ランプの光に染まる。
「し、侵入者!?どうなってんだ?」
「と、とりあえず時間がありません。
早くあそこの魔法陣に乗って!」
「あ、あぁ…」
俺はただ事ではないことを察し、指示通り約10m先の魔法陣まで走る。
俺が魔法陣に着いたと同時に、少女の後方から数十ほどの影が見える。
少女もそれを確認したのか焦った表情で魔法陣に向かい詠唱を始めた。
「"理を越え、次元を越え、
彼方の世界へ道を開け。
空間よ裂け、道となれ"」
後方に見えた影は、徐々に姿を確認できる距離まで迫っていた。
金色に輝く羽根、俺の身長よりある。
おそらく天使だろう。
甲冑を身に纏い、その手は槍を握りしめている。
その様から、戦闘系の天使であることはすぐ分かった。
「マオ・ノクス!"ワールドシフト"!」
少女が詠唱終わると魔法陣は光り輝く。
足から徐々に感覚がなくなる。
あぁ、これが転生ってやつか…
俺の第二の人生はゲームの世界とはな…
腰の感覚が無くなる頃にとうとう、天使たちが地面に着地する。
「おい!お前たち!何をしている!
ここは"狭間"!神聖なる場所ぞ!」
そういい、団長と思われる天使の合図で部下たちは少女を取り囲む。
天使たちは少女の腕を掴み拘束する。
「おいやめろ!触んなっ!」
少女はもがき抵抗する。
首から下の感覚が無くなった俺にはどうすることもできなかった。
かなりの大ごとみたいだが、きっとそれなりの大義があってのことだ。
見ず知らずの少女からもらった転生のチャンス、無駄にはしない。
とうとう、天使たちにより、地面に押さえつけられ身動きが取れなくなった少女。
しかし、その目はまだ死んで無かった。
まっすぐに狂気を孕んだ目。
その目線は俺に向かっている。
「勇者を…勇者を殺してくれ!!」
確実に俺に投げかけた言葉だった。
この少女には、俺の第二の人生をくれた恩がある。
いいだろう…
「あぁ、まかせろ!俺が勇者を殺してやる!」
とうとう俺は身体の全ての感覚が無くなった。
視界も真っ暗。匂いも感じない。
身体と魂が分離しているのが分かる。
あぁ、一度死ぬのだな…俺は…
この身体とも今日でおさらば。
次の人生はもっとマシな面だといいな…
———
ま、眩しいっ!
ど、どこ?ここ?
てか、転生成功…?
視界いっぱいに雲一つない青空。
水や肥料を含んだ土臭い香り。
ちょうど良い、のどかな風。
どうやら転生は成功っぽいな…
RPGの基本…散策…
あれっ、あらっ…
これどうやって動かすの?
身体がまだ馴染んでないのか、動かし方が分からない。
初めての車の免許合宿を思い出す。
とりあえず人でも呼んでみよう。
「おぎゃあー!おぎゃあー!おぎゃあー!」
…って、誰か泣いてんのか?
「おぎゃあー!」
え、もしかして俺…?
え…転生って赤ん坊スタートかよ!!
なんだよ!なんもできねーじゃねーか!
微かな振動が頭に響く。
地面を蹴る音が次第に近くなる。
やべえ!誰か来た!
モ、モンスターか?だとしたらやばくねぇか?
リスキルは反則だぞ!!
——ザッザッ
足音は確実に近づいており、目標も俺であることが分かる。
やべえよ!
だ、誰かー!!
「オギャアー!!オギャアー!」
そ、そうか俺喋れねーんだ!
くそぉぉー!
俺は手で顔を隠す。
せめてもの防御のつもりだ。
しかし、結果は予想を裏切り俺は宙を浮く。
頭とお尻の下に固い岩のような感触を感じる。
固い岩のはずなのに痛くない。
優しさすら感じる。
「おい!大丈夫か!?
おーい!みんな来てくれぇー!ここに赤ん坊が捨てられてる!」
屈強な男。
鍛え上げられた身体は鉱物のような信頼を感じる。
髭面だが確実に優しさを感じられる顔相である。
な、なんだ人か…
よかったぁ…
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
「よしよし!怖かったよな!俺が来たから大丈夫だぁ!よーしよし!」
岩のように硬く、優しい手が俺の頭を撫でている。
初めての転生。少女との約束。
整理せねばならないことがたくさんあるが、
とりあえず第二の人生楽しもう!
———
【あとがき】
本作を手に取っていただき、本当にありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら、⭐︎やフォロー、感想をいただけるととても励みになります。
これからも物語を大切に紡いでいきます。
応援よろしくお願いいたします。




