第6話 誰の為に謝るのか?
だがまあ、そうそううまくいかない。
宮田蓮達は田村大地を、渡辺咲良側は雨空晴をよく知らない。
仲直りの会なのに何も話さないの?という声が双方からチラホラと聞こえてくる。
だが雨空晴は「アタシは翌日に和美と寛容さんに騒がせた事を謝ったよ」と言って自分から動く気はないし、田村大地は今日も蘊蓄の収集と披露に忙しく、そもそも謝る気なんて微塵も感じない。
田村大地は謝罪と仲直りの場と聞かされて呼ばれても、謝る気も何もなかった。
今後の為に顔だけ出して、なあなあで逃げ倒す気満々で、ただ飲み会にやってきているだけだった。
まだ田村大地を知っている渡辺咲良達は、雨空晴に対して同情的で「“また”田村大地が怒らせた」と思っていた。
だが、田村大地を知らない宮田蓮側は、田村大地に対して不満を募らせてしまう。
よくない流れだった。
ここで狭山夫婦の不満と疑問になるが、年々田村大地は成長体験を重ねて悪化していく。
そして縁は残り続ける。
できる事なら今この段階でキチンと終わらせて欲しい。
縁が切れるなら切れて欲しいし、雨空晴のようにキチンと真正面からぶつかってくれる人に矯正して貰いたい。
自分の番でトラブルはごめんだった。
完璧に悪い方に流れが変わる。
トイレに行った雨空晴が戻ってくると、席替えがされていて、自然と前に田村大地が座る風になっていた。
露骨に嫌そうにする田村大地と雨空晴。
そもそも謝らずに蘊蓄しか言わない田村大地。
それが遠くから聞こえてきて苛立つ雨空晴。
今日の雨空晴は宮田蓮のお願いで、狭山和美の為に顔を出していた。
筋は通した。
それ以上は無かった。
周りから「そろそろ、一度は謝る風の空気にさせて、謝った事にしてしまおう」と仕向けられていて。
それとなく聞こえるように「晴、謝りなよ」、「雨空」と言われ、それは田村大地も同じで「大地」、「お前が悪いんだぞ」と声がかかるが、田村大地は無視するようにスマホとメニュー表に逃げてしまう。
その態度に苛立った雨空晴が、「よぉ、蘊蓄述べ太郎のウンチクン」と声をかけると、田村大地を知る連中は、蘊蓄述べ太郎のウンチクンに小さく笑ってしまう。
雨空晴は、そんな事にはいちいち反応しない。
「アタシはあの場を騒がせてしまった事を、キチンと和美と寛容さんに謝ったぞ。お前は連絡したのか?謝ったのか?まさか今年30歳になる癖にシカトなんてしねぇよな?」
この声に渡辺咲良が、「田村君、どうなの?和美と寛容に謝ったの?」と聞くと、高校組は「謝れよ大地」と言うが、それこそ田村大地の嫌う展開で、心を閉ざして誤魔化してしまう。
心を閉ざした田村大地はメニューとスマホに逃げて、遂には宮田蓮の男友達に「あ、ここは生ハムの盛り合わせがイチオシなんですね。生ハムの原木って凄く管理が難しくて、気をつけないとカビたり食べられなくなったりするんですよ」と蘊蓄を披露しはじめる。
話を振られた男友達が困惑を超えて混乱してしまう中、キレた雨空晴が立ち上がり、「テメェ!クソ蘊蓄野郎!何シカトしてくれてんだコラ!そのクソ態度が問題だって言ってんだ!」と怒鳴り上げるが、田村大地はそれすら無視して、未だに生ハムの原木の話を横にいる男友達に話している。
「スペイン産もいいですが、イタリア産もよくて、あ、日本産もいいですよ」
無論、言うまでもなく産地の違いなんて田村大地にはわからない。
産地の違いを蘊蓄レベルで仕入れただけに過ぎない。
そんな事を言われた男は、自身の悪酔いを疑い水を飲んでしまう。
【ブチッ!】
そんな音が聞こえた気がした。
後に渡辺咲良はそう言った。
立ち上がった雨空晴は「テメェ!」と怒鳴り上げ!田村大地の胸ぐらを掴んだ。
「テメェの蘊蓄に礼儀作法や人付き合いはねぇのか!失礼すぎんぞコラ!痛みで思いしれ!」
そう言って田村大地をフルスイングで殴り飛ばした。
拳を摩り、手首を動かしながら「クソ痛え」と言った雨空は財布から五千円札を出すと、宮田蓮に「宮田。アタシは和美と寛容さんにも謝ってある。キチンとこの場にもきた。筋は通した。後はあのウンチクンの問題だ。アタシと和美達を巻き込むな」と言いながら「足りるはず。足りなかったら今度出すから言って。釣りはいらない」と五千円支払う。
宮田蓮の横にいた渡辺咲良には「宮田はいい奴だから、良かったら付き合ってみてよ。これで流れたら責任感じちゃうからさ」と言って振り返らずに帰ってしまう。
起き上がった田村大地は鼻血が出ていて、「訴える」と小さく呟いたが、周りから止められて諦めていた。




