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百聞だけで済ますんじゃねぇ。  作者: さんまぐ


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第4話 幸せな新婚旅行の裏側。

電話で狭山和美に説明した雨空晴は、キチンと「悪い、和美。折角の祝いの席でやらかした」と謝ると、狭山和美は「ううん。仕方ないって。ごめんね」と謝り返す。


「寛容さんにも謝っておいてくれよ」

「ううん。平気、寛容も晴に悪い事をしたって申し訳なさそうだったよ」


新郎新婦の許しを得た雨空晴は、ようやく気が晴れて「よかった」と漏らした後で、「で?ウンチクンは謝ってきたのか?」と聞いてくる。


切り替えの速さは雨空晴らしい。

怒りやすいが、相手の話をキチンと聞くし、筋を通せばすぐに仲直りもできる。

狭山和美はそこが雨空晴の魅力だと思っていた。


「ウンチクンって…」

「蘊蓄述べ太郎と蘊蓄くんで、言いやすい蘊蓄くんが進化してウンチクンになった」


雨空晴の言い振りを聞きながら、万一にも排泄物の方でない事を祈ろうと思ってしまう。


狭山和美は小さくため息をつく。

田村大地は頑として何があったかを語らない。

この場合、立場が悪くなる事のみを気にしていて、雨空晴のように祝いの席を台無しにしてしまった事を気にする事も謝ることもない。


これは狭山夫妻だけが悪いわけではないが、田村大地が過ごした中高の一種の問題で、田村大地を切るのではなく、なあなあで済ませてしまっている間に、更に次の問題に上書きされてしまい、何ひとつ解決させることがなかった。


中高で6年。

更に社会に出ていて、10年から過ぎている。

人生の半分以上がこの流れになれば、田村大地は元の性格に加え、謝らないで済む成功体験を重ねてしまっている。


だからこそ狭山和美が雨空晴に何があったかを聞き、田村大地には聞けずにいた。


そしてこれからそれを伝えると雨空晴は憤慨する。

それがわかっているからこそ、狭山和美は小さくため息をついていた。


「なあ、そのため息って…、もしかして連絡ひとつ無しなのか?」


この言葉に狭山和美が「うん」と申し訳なさそうに言うと、「はぁぁ!?あのウンチクンは偉そうに御高説たれる前に、謝れる人間になれよ!」と怒鳴り上げる。


狭山和美は全くだと思い、否定する事なく「ありがとう晴」と言って話を終わらせた。


聞く事は聞いた。

今までの結婚をした友人達のように、我が狭山家でも田村大地と会う頻度を落として、最低限の付き合い。

上辺だけの付き合いで済ませよう。


そう思っていたのに、そう思っていたはずなのに。


狭山夫妻の思惑を裏切り、周りはロクデモナイ事を始めた。



田村大地と雨空晴に仲直りの機会を与える会。

そして2人で狭山夫妻に謝る会。


通常の思考なら嫌な予感しかない。

うまくいく訳がない。


だが、雨空晴を知っていても、田村大地をよく知らない狭山和美の大学の友達連中と、田村大地の危険性を承知しながらも、無責任に出会いを求める高校の友達連中は、奇跡のコラボレーションを起こしてしまう。

事後報告的に「寛容、金曜日の晩に和美の大学の連中と飲むわ」と夫狭山寛容の元に連絡が、そして妻狭山和美の元には「和美の高校の友達が、晴と高校の友達の和解の機会をくれたから集まるんだけど、晴と旦那さんは来られる?」と連絡が来た。


肩を落とした狭山夫妻は、乾いた笑いの後で「新婚旅行の用意があるから遠慮する」、「できたら中止にしてほしいけど、無理だよね?」と言って話を切り上げると、夫婦の新しい愛の巣で「どうしてこうなった?」、「もうやだ」と言って俯き合っていた。



新婚旅行は次の週末から1週間かけて行ってくる。

仕事の調整がどうしても思い通りにはならず、式から1週間後の新婚旅行になる。

場所は北海道。


「…国外にしておけばよかった」

「電波の通じないところが良かったよね」

「なんで金曜夜に遭うんだよ」

「スマホ見るのやめようよ寛容」

「写真撮るし、お義母さんから写真くれって言われてる」

「…写りますよ買おうよ。お母さんはいいよ」


こんな会話をしながら迎えた金曜日。

警戒し身構える狭山夫妻をよそに、連絡は一切なく、「え!?田村君がいるのにうまくいったの!?晴!ありがとう!」と、なんの通知もよこさないスマホに向かって喜ぶ妻・狭山和美と、「良かったな和美。明日から新婚旅行を楽しもう」と言う夫・狭山寛容。


もう現実逃避を始めていた2人は、「問題なんて起きていない」と決め付けることで、【そんな訳ない現実】から目を背けただけだった。


そう、そんな訳がある訳もない。


新婚旅行から帰ってきた狭山夫妻の元に届いた連絡は、新婚旅行の幸せな余韻を消し去るには十分な破壊力を持っていた。


「…渡辺の奴が、宮田さんって人と付き合ったって…」

「うん…、咲良と宮田君の連絡は咲良と宮田君の2人から別々に来たよ。お似合いだよ」

「で、流血沙汰…」

「まあ…鼻血だけらしいけど…、晴が田村君を叩いたって…」

「殴ったの間違いだろ?佐野からムービー来たぞ、見たか?」

「…こっちには鈴木君からムービー来てるよ。鈴木君のムービー、端にスマホ構える結衣が映ってるからいらないよ」


皆、狭山夫妻に遠慮して、帰還する翌週の土曜日まで連絡を控えていた。


土曜日、新千歳空港を出て、羽田空港に降り立つ頃、スマホには大量の着信。


「なんだぁ?スマホがジャンジャカ鳴ってるぞ?」

「お母さんからお土産の催促かな?ちゃんと白い恋人は買ったのに」


白い恋人を買った時すら、思い出すと新婚旅行は楽しかったので、「楽しかったな和美」と狭山寛容が言えば、狭山和美も「うん。ご飯も美味しくて景色も綺麗で、良かったよね寛容。また旅行に行こうね」と返す。


荷物は先に送っておいた。

なんの問題もない。

後は身ひとつで帰宅して、明日1日で身体を休めて月曜日からの新生活に備えればいい。


そう思って、「帰り、なんか買って帰って食べよう」、「うん。少し疲れてて、料理の気分にはなれないや」なんて言い合い、「店でも探すかな」とスマホを取り出した狭山寛容は開いた口が塞がらなかった。


「寛容?」

「…和美、スマホ…、見てみてくれ」


カタコトの夫を不思議がり、スマホを取り出した狭山和美は夫と共に、先に渡辺咲良と宮田蓮からのメッセージを読んでいた。

お祝いしたい気分の文面の中にある[仲直りは失敗しちゃったんだ]と、[雨空が叩いた]の文字に嫌な予感がしたところで、2人揃ってムービーを見て肩を落としてしまう。


「殴ってる…」

「殴ってるな」

「胸ぐら掴んで怒鳴ってる」

「怒鳴ってるな」


また別の友人から届いたメッセージには写真が添えられていて、そこには雨空晴がキレて田村大地の胸ぐらを掴み殴りかかる所が収められていた。


それをしっかり見てしまっても、狭山和美は「叩いてる」と軟化させようとしていた。


まあ田村大地の怪我は鼻血のみで済んだが、あのキレた雨空晴の顔と怒号は本物で、狭山和美はキレていた→怒っていた。殴った→叩いた。にしてしまいたかった。

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