第3話 間違った知識の結果。
確かにカメラをキチンと使って撮った写真が届くことは近年減り続けている。
原稿で貰った写真のExifデータを確認すると、二眼、三眼が自慢のスマホで撮った写真が多く、ひと昔前の携帯のカメラからしたら、確かに大きな進歩を遂げたが、その写真でポスターなんかを作る仕事の雨空晴からしたら、まだキチンとしたカメラで撮られた写真の方が、細かい部分のディテールはキリッとしているし、色の深みも違う。
画面用の3色から、印刷用の4色に置き換えて、色調整を行えば、そういう点は一目瞭然だし、仕上がりも違う。
友人が鵜呑みにしないか気になってしまったし、この手の輩が増えてしまっては、この世の終わりだと思った。
そんな時、「AIも凄くなってるじゃないですか、人を消したり簡単にできますし、もう、今じゃスマホの方が、パソコンより良い仕事ができますよ」とドヤる田村大地に、雨空晴は耐えられなくなっていた。
「はぁ?何言ってんだ?あんな消したのバレバレにしかならないもんより、職人技ってのがあるんだよ。速くて簡単ならいいってもんじゃないだろ?CMしか見てないのか?あれでもマシな写真選んでんだぞ?それでも目立つんだぞ?人が消える花畑のCM見たか?あんな同じ花を使い回してるから、横の景色がそのままきてんだぞ?」
一気に言い放つと、田村大地は呆れ顔で雨空晴を見る。
そして謝ればいいものを、「はあ?そうなんですか?俺には十分消せていると思いましたよ。あれで十分でしょう?タダなんですよ?」と言った。
それは正に雨空晴が仕事先で言われて嫌な事だった。
安かろう悪かろう。
AI補正の、話に出した花畑の写真のように、周りの花をコピーして貼り付けたような写真で構わないなら、人物でポスターを作る時、目の中の写り込みを消したりする、キチンと説明出来ないが、どうしても目を目と認識、理解できないAIの消し方では違和感が残る。だがそれでいいなら、構わないなら割り切って使う。
デザイン会社でデザインをしていても、作品を作るのではなく、依頼に沿って制作物を用意するだけだ。
だが、田村大地みたいな客が増えた。
スマホアプリで簡単に消せるから、アプリならタダで消せるから、そんな理由でタダでやれと言う。
人の手で丁寧に消しているから料金が発生していると説明しても通じない。
それどころか、人の手で行うなら完璧にやってみせろ、だがアプリならタダだから金は払わないと言う、雨空晴に言わせると【泥棒】が増えた。
聞き捨てならない雨空晴は田村大地を理詰めする。
盛り上がるビンゴの中、一角だけ盛り下がる空気。
今更、田村大地がやらかした事に気付いた同級生達は、どうしようもない空気に手も足も出せない。
田村大地を誉めてしまった子は、雨空晴が投げ捨てたビンゴシートを拾っていて、代わりに穴を開けて「リーチだよ晴!」とか声をかけるが意味はない。
「美優がやっといて、今アタシはこの蘊蓄野郎と話してんだ」
雨空晴はそう言って、目の前に座る田村大地に「なあ、詳しいんだろ?アタシに教えてくれよ」と言って挑発的な顔をした。
この場合の田村大地の正解は、「気分を害してしまってごめんなさい。あなたこそ詳しいですね。どこを間違ったか教えてくれませんか?」だが、楽しみたい気持ちだけで、インフルエンザを隠して飲み会にやってきて、パンデミックを引き起こして、謝らずに予防についての蘊蓄をたれ、知識自慢をした田村大地には不可能な話だった。
もっと言えば、今でこそWindows defenderが機能していてウイルス対策ソフトが標準で備わっているが、以前のWindowsで「マシンが遅くなるから」という理由だけで「パターンマッチング方式に意味はない」なんてロクに知りもしない上辺知識を言って、セキュリティソフトを導入せずに、ノーガードでネットサーフィンをやり、蘊蓄自慢のために人の家にパソコンを持ち込み、ネット回線に接続して大規模感染を引き起こしたのに、明確な証拠まであるのに、友人の家族にまで迷惑をかけても謝らなかった。
その田村大地が謝る事はない。
雨空晴も、この段階で謝罪の一つでもあれば、「おう。気をつけろよな」で済ませたが、出てきた言葉は「ええ、いいですよ?何が聞きたいんですか?」だった。
余裕綽々、飄々とした田村大地の顔に苛立った雨空晴は、言葉で殴ってやるという気持ちで、「なあ、詳しそうだから聞くけどよ。JPEGの劣化問題ってさ、深刻だろ?あんたならどうやって防ぐ?」と質問をしてみる。
同じ仕事をしている人間なら、皆早い時期に問題にぶつかり、先輩達から注意点を教わる。
容量が軽くて済むJPEGは、確かに入稿面、データの移動面では好まれるが、それだけでしかない。
一度くらいならまだ保存に耐えられるが、それ以上は劣化が進むので、数度の上書き保存は勧められないし、そもそも雨空晴は一度の保存すら嫌で、即座に別形式にしてしまう。
その為に容量が圧迫してしまう事も致し方ない事と割り切って仕事をしている。
わかる訳がない。
それはその通りだった。
そして田村大地は、適当にそれらしい事を言って誤魔化す事が正解だと信じきっていた。
「え?最近のパソコンは性能も良くなりましたから気になりませんよ。ほらグラフィックボードも良くなりましたし、マイニングとかご存じないですか?」
そんな訳あるか。
そもそもコイツはパソコンのパの字から理解していない。
なんでグラボが良くなって、JPEG劣化問題が解消されるんだよ。
コイツは本格的に何もわかっていないのに、ドヤ顔で知識自慢をする蘊蓄野郎だとわかった時、雨空晴はテーブルに備え付けられていた紙ナプキンの束を掴んでいた。
「もう一度聞くぞ?そんな訳ないだろ?ソフトウェア側の問題がハードウェアの処理速度だけで解決できる訳ねーだろ?お前、わからないんだろ?知らない癖に知ったかぶりしてんだろ?」
そう聞いた時、田村大地は逃げた。
雨空晴を無視してビンゴカードに向かい、険悪な空気を無視して、雨空晴の横に座っていた美優と呼ばれた子に、「ビンゴは何番と何番が言われましたか?」と話しかけていた。
次の瞬間、雨空晴は「おいコラ!エセ蘊蓄野郎!逃げんな!答えろよ!」と言いながら紙ナプキンを田村大地に投げつけていて、直後に美優をはじめとする女の子達が雨空晴を止めながら、男連中に愛想を振り撒き、男連中は「大地!お前また!?」と注意をしながら、雨空晴を含めた女の子達に「ごめんね。悪気はないんだけど、人を怒らせやすいんだよねコイツ」と言って、なんとか縁が切れないようにしていた。




