第2話 怒号の理由。
新郎の狭山寛容は事の経緯を聞いて頭を抱えた。
迂闊といえば迂闊だった。
妻の和美、旧姓 入間和美の大学時代の男友達が、高校時代の女友達にアプローチをかけ始めた。
高校時代の友人達は「寛容と和美に止められているのは、田村大地が問題を起こさない為で、別に私達が男の子達とお友達になるのはOKじゃない?」とやりだした。
いい訳はない。
バックドアになりかねない。
だがまあわからなくもない。
二次会が出会いの場になる事もある。
それは気をまわせなかった新郎新婦の自分達にも問題はある。
事態を話してくれた友人達に謝られた時、「いや、俺達も知り合いに勧められて、飲んでいて気が回らなかったし」、「ビンゴ大会が盛り上がっていたから、平気だと思ったの」と言うしかない。
大学時代の男友達と高校時代の女友達が仲良くなれば、その逆もアリだろうとなる。
男友達は田村大地に「大地、変な真似すんなよな?」と、釘だけ刺して終わらせてしまう。
それで【あの田村大地】が大人しく着席して酒を飲むわけもない。
逆に言えば、そのまま着席をしていたら、田村大地は和美の男友達と高校の同級生から殴られていたかも知れない。
和美の大学時代の男友達が高校組の座席に来て、高校組の男子陣が大学時代の女友達の座席に移動していた。
確かに、そこに大人しく座る田村大地は邪魔でしかないし、ナワバリ意識でも出して、振る舞えば反感を買う。
それに田村大地も出会いを求めているので、女友達を求めて席替えの波に乗る。
そして空いている席に座ると、目の前にいた雨空晴と会話をする事になる。
話を聞いていた和美は、「晴は田村くんみたいなの嫌いだよ」と言う。
雨空晴に会った事のある寛容は、雨空晴を思い出して「だよなぁ」と漏らす。
新婚2日目にして、なんでこんな思いをしているのか、面倒臭いったらない。
和美は雨空晴に電話をして、一通りの謝罪と共に何があったのかを聞いてみた。
事の経緯は簡単だった。
今年30歳前後を迎える同級生達は、皆仕事をしていて、仕事の話を聞いて、知らない情報は「うんうん」と真剣に聞き、知っている仕事には知識自慢をしてうわ被せてくる。
だが、それは素人の間違った知識で、新郎新婦の友人相手に祝いの席で、いちいちツッコミを入れる気はしないが、面白くない。
だが被害者以外は皆新しい出会いに必死になっていて、田村大地を止める者はいない。
そんな中始まったビンゴ大会。
ビンゴ大会は賞品も立派なもので、夢の国なんて遊園地のチケットの時には、田村大地が蘊蓄と知識を披露して、女の子が「あ、ランド好きなんですか?シーですか?」と聞いても、「俺は何年も行ってません」と返して空気を悪くするし、詳しい人が聞けば確かに間違った知識もある。
目の前の雨空晴はだんだんとイライラしてしまう。
もう、何を話しても「詳しいんですね。その仕事されてるんですか?経験があるんですか?」からの「ないですよ」(or間違った知識)の連続で、黙っていてほしいのに本人は嬉々として話し始める。
だんだんと我慢できなくなる雨空晴が、田村大地に「なあ、アンタはなんの仕事してんだ?」と聞くと、急にモニョモニョと歯切れが悪くなり、追求なんてしたくないが、してみるとようやく口を開くと事務員だった。
別に個人がどんな仕事をしていても、真っ当であれば否定する気もない。
悪くいう気もない。
だが、散々特別感を出してしゃべり散らした田村大地相手だと、つい口から侮辱罪だと言われかねない言葉が出てしまいそうになる。
その気持ちを、「ここは友人の和美のお祝いの席」と呟いて我慢した雨空晴だったが、自身の関わる部分に、田村大地が入り込んできた時に我慢できなくなっていた。
それはビンゴ大会の賞品で、「次は高級コンパクトデジカメです!」と言われ、同じ参列者の子が「いいなぁ」と言った時に、田村大地が蘊蓄を披露する。
まだ田村大地の蘊蓄は間違っていないが、キチンとわかっている人間のそれではなかった。
だが知りもしない人間が適当な事を言っているのは明らかで、デザイン会社で仕事をしている雨空晴からしたら、間違った知識でマウントを取られるのは不愉快千万。我慢ならなかった。
そんな雨空晴の脳内は「和美のお祝いの席」、「寛容さんの為」で、何度も念仏のように唱える事でアンガーコントロールに専念し、我慢していた。
とりあえず我慢ならなかったのは、詳しくない横の友人が「詳しいんですね」と田村大地を誉めてしまい、「いえいえ、そうでもないですよ。これくらい普通です」なんて言い出し、雨空晴が「本当だな。詳しくねぇな」と思わず言いそうになる中、「高級コンデジなんて使わなくても、スマホで十分に綺麗ですし、最近のポスターなんかもスマホのカメラで撮られた写真が使われてますよ」と言った事だった。




