第18話 (最終話)バッドエンドで耐性を…。
嫌に素直で気持ち悪い。
何があったんだ?
そう思った時、なぜか急に忘年会をした時の佐野結衣と鈴木海斗の顔が思い出され、これはまさか、恋愛対象にされてる?と嫌な予感が全力で近づいて来る。
マズイ。
逃げなきゃ。
話を逸らさなきゃ。
急に勝気な雨空晴は乙女の顔で慌てふためく。
どんなに慌てようが逃げようが、田村大地は横にいて、明日も明後日も顔を合わせる。
その証左のように「あの、少しお時間をいただけませんか?」と田村大地が話しかけてきた。
もう駅までは、あと百数メートル。
大きな信号を越えれば駅に入れる。
雨空晴は上擦った声で「ぁ?どぅしった?」と聞き返してしまう。
「あの…、ずっと前から決めていたことがあります!」
聞きたくなかったがそれは告白だった。
「最初はいい印象は無かったんです」
ならそのままでいてくれ。
「でも、キチンと仕事に向き合うようになって、雨空さんの仕事ぶりを見て、関わってみて自分のダメさ加減がよくわかりました」
あ…、初めて雨空って呼ばれたかも、じゃなかった。ようやくダメってわかったのか、勘弁してくれ。
「それで、半人前と認めて貰ったら、交際の申し込みをしようと思っていました」
思わないでくれ。
てかそこは一人前だろ?
なんで半人前で思うんだよ。
雨空晴は辟易とした顔をしないように気をつけながら、最低限の礼儀とマナー、心の問題として田村大地の言葉を最後まで聞いた。
駅に向かう酔っ払いの冷やかしが鬱陶しい。
あまりよくないが、雨空晴は田村大地を見ながら一つの確信を得ていた。
告白の言葉に気持ちが乗っていない。
心がこもっていない。
何故かうまくいくと思い込んでいる。
ああ、これも蘊蓄か、何処かで仕入れた知識だな。
話し終わり、OKを待つ田村大地に向かって、雨空晴は「パス」と言った。
「………はい?」
「パスだよパス。お断りだ」
「な…何故ですか?」
何故という返事に肩を落とす雨空晴。
「とりあえず断られたから、仕事辞めるとか思うなよな。まだまだ払った分に見合ってないからな」
田村大地はその言葉に、「なら理由を教えてください」と言い、理由が聞けないと仕事を辞めると雨空晴を脅かし始めてきた。
クッソめんどい。
その思いを頑張って隠しながら話す雨空晴。
「まあそもそも恋愛対象じゃない事は抜きにしたとして」
そう前置きをしてから、「言うんだから辞めるなよな」と釘を刺す。
田村大地がうなずいてから雨空晴は理由を説明した。
「とりあえず言葉に本気が感じられない。気持ちがこもってない。またどうせ何かで仕入れた蘊蓄みたいな奴だろ?そんなのはアタシには響かない。後は断られる事を考えてないのが丸わかり。監督、主演男優、演出、全部ウンチクンの作品みたいなのが伝わってきた。生と生のぶつかり合いじゃない。お前の告白は映画で、アタシが求めるのは勝敗がわからないボクシングの試合だ。ボクシング映画に興味はない」
一気に説明すると唸る田村大地。
言い返さないのは、図星か成長か…。
真面目な顔で「わかりました」と言った田村大地は、「確かに恋愛映画を見て学びました」と言う。
「だろ?百聞は一見にしかずだ。聞いて知った気になるなよな。じゃあな」
話を切り上げて帰ろうとする雨空晴だったが、「なので!沢山の経験を積みます!是非ご一緒してください!そして今年一年をキチンとやり切ったら、来年またチャンスをください!」と懇願されてしまった。
雨空晴は辟易としながら、搾り出すように「とりあえず断られる事を想定しろ」と言うと、「わかりました!ではまた明日!」と言ってようやく解放された。
雨空晴は一人で混乱する前に、急いでホームに向かい急いで電車に乗る。
告白や恋愛には縁がない。
だが憧れくらいはある。
とりあえず田村大地はそれではない。
だが初めての事で心は混乱していて、あのまま押し通されたら気持ちもないのに、いい返事をしてしまうかもしれなかった。
雨空晴は帰りの電車の中で、1人ため息をついてスマホを構え、狭山和美に[どうしてこうなった?]と送る。
[どうしたの晴?]
[誰にも言わないでくれ。あ…寛容さんにならまだいいんだ]
「うん。言わないよ]
信じられる。
狭山和美は信用できる友達。
変なことにはならない。
その思いで[ウンチクンが告白してきやがった]と送ると、既読が付いてから一駅分待たされ、もうすぐ東十条だぞという所で[ふぁいと]と書かれたあの可愛らしいスタンプが届く。
コメントから逃げないでくれ。
[なんか言ってくれ]
[晴?大丈夫?]
[ダメだっての。助けてくれ和美]
[助けるって…、断らなかったの?]
[断ったら仕事辞めるとか言いやがるし、とりあえず今日の所は断れたけど、今年一年頑張るから、来年またチャンスをくれって言われて解放された]
またしばらく既読無視になり、東十条について家を目指すと狭山和美から返事が来た。
[寛容に話したけど、寛容がすごく心配してたよ?]
だろうな。アタシも同じ立場なら心配するよ。それが人の道だよ。
雨空晴が辟易とした気持ちで歩いていると続きが入る。
[寛容がね。告白とかもどうせ恋愛映画とかを観て学んだはずだから、今のうちにバッドエンドモノの恋愛映画とか見せて耐性付けさせとけって言ってるよ]
そ れ だ。
もう雨空晴は混乱していた。
今なら下着姿で0時ちょうどに、部屋の真ん中で踊りを踊りながら呪文を唱えて、神に祈れば救われると言われれば実践していただろう。
[助かる!そうする!]と送った雨空晴は必死にバッドエンドの恋愛映画を探しながら家を目指していた。
(完)




