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百聞だけで済ますんじゃねぇ。  作者: さんまぐ


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16/18

第16話 再びの忘年会の怪談。

綿堂商事は今回だけだと言いながら不問に処してくれた。

それだけで皆がホッとしていて、それでも謝らない田村大地に、「謝れ馬鹿野郎」と雨空晴が指示をして、ようやく「ご迷惑をおかけしました」と謝罪が出来た。


今回の事で田村大地が劇的な変化をしたかと言えばNOだが、まだマシになる。

それと今回の事で後ろ暗いやり取りがあり、営業部長も痛みを伴おうと残りの部長から言われてしまい、田村大地を営業にも迎え入れる事となってしまった。

コレも一応理由があって、田村大地の処罰ではないが、クビにしない為にも実施されていた。


名目は【マルチプレイヤー育成計画】で、指導する羽目になった山田は、任せられるクライアントの元に田村大地を連れて行って紹介とアピールをする。


「この田村でございますが、事務職もやれて、デザインもやります。そしてこれからは営業として窓口も行います。今までのような言った言わないが格段に減りますし、印刷所の確保に用紙の手配なんかもスムーズになりますし、弊社に問い合わせをいただく際も、これまでは『営業に確認、デザインに確認、事務に確認』とお手間をとらせましたが、それが格段に減ります」


良いところばかりをアピールするが、正直ただのどっちつかずの器用貧乏が生まれただけで、役に立たない事の方が多いが、これで化けたら儲け物くらいの気持ちでいられた。



・・・



それから3ヶ月が過ぎた。

田村大地はしっかりミスを犯し、雨空晴の手を煩わせ、野田と山田のお世話になる。

だが今までより段違いにマシになったのは、相手の顔が見えて、ミスの全部が自分に被さるので、真剣に仕事に向き合えるようになった事だろう。


この日も雨空晴なら問題ないスケジュールだが、見通しの甘さから田村大地には無理のあるスケジュールを組み、土壇場で間に合わなくなり、雨空晴に頭を下げて手伝って貰い、校正の秋田に残業を頼んでいた。

手抜きはしていなかったし、キチンと日増しに顔色も悪くなっていたので、雨空晴は不満一つ言わずに「指示しろ、過不足なく頼んでこい」と言って手伝った。


秋田に原稿を渡して戻ってきた田村大地は、雨空晴から「キチンと頼めるようになったのは成長だな」と声をかけられて「…はい」と答える。


「その不貞腐れ顔を外でやるなよな」

「…はい」


「まあいいや。なんとか使い物になってきた。もうすぐ年末だ。年末進行も乗り越えて、年度末進行も無事に越えて一年が過ぎたらようやく半人前だな。それで一年が過ぎたらアタシ達と肩を並べる仲間だ。挫けんなよな」

「仲間…」


「んだよ、嬉しくねえのか?事務の方でも資格とか言われてんだろ?キチンとやり切れよな」

「はい」


案外、田村大地は忙しい。

本人も蘊蓄が大好きな事もあり、キチンと腰を据えるとノートPCを新調し、デザインソフトを買って勉強をしたり、事務員としての資格試験の勉強に着手していた。

まだまだ半人前未満で、皆の手を借りているが、それでも1人として機能し始めている。

だからこそ雨空晴はもうすぐ半人前になれるから挫けるなと言葉を送っていた。



・・・



年末進行を乗り越えた12月の年の瀬。

昨年同様に狭山夫妻の家で行われた忘年会には、昨年と同じメンバーが集まり、酒とご馳走を楽しむ。


皆、妙に雨空晴に優しくて、「晴、晴の好きなイクラを買っておいたんだよ」と狭山和美がイクラのおつまみを出してくると、宮田蓮は「雨空、ウイスキーもいつもの角瓶はやめておいたから、これを全部飲んで」なんて続く。

しまいには佐野結衣と鈴木海斗まで「ハイボールを好んでたから、チーズの盛り合わせを買ってみたの」、「ハムとか好き?盛り合わせ買ったから食べてよ」と言って出してくる。


「はぁ?どうしたんだよ和美、宮田?佐野さんも鈴木さんもどしたん?」


そう言いながらもひと口食べては「うめぇ」、ひと口飲んでは「こりゃたまらん」と喜ぶ雨空晴。


狭山寛容が鍋を取り分けて「雨空さん。皆の感謝だよ」と言う。


「寛容さん?」

「大地の奴をクビにしないで育ててくれてて、俺たちは本当に雨空さんからメッセージが入る度にヒヤヒヤしながら読んだり、感謝したり、申し訳なく思ってたんだ」


確かに言われてみると、愚痴を言うように、雨空晴本人は育児日記くらいの気持ちで、田村大地のやらかしや努力の結果を載せていた。


目を丸くして「それがご馳走に化けた」と呟く雨空晴に、佐野結衣が「本当ありがとう。この一年静かで平和だったの」と言って皿にサラダを盛り付ける。


鈴木海斗は「生憎飲み会はあったのに、出会いには繋がらなかったけど、俺達は感謝してるんだよね」と言ってグラスを傾けてくるので乾杯をする。


悪い気はしない。

友達は皆喜びと感謝の顔をしていて気持ちよく飲める。

酒は美味いしご馳走も美味い。


これは会社の忘年会でも似た事を言われていて、皆が田村大地係をしている雨空晴に感謝を伝えてくる。


田村大地自身は雨空晴を避けて男連中で酒を飲んでいて、狭山寛容の話通りなら素人童貞のクセに、前戯とピロートークの重要性を熱弁して周囲を引かせていたが、あの田村大地がキチンと輪に入れたのは良しとして気持ちよく酒が飲めた。


気持ちよくないのは、部長達から「本当に来年度から何人か面倒見ない?」、「今度募集する奴も営業とデザインの掛け持ちとかさせない?」、「それらを指導する雨空係長とかどう?」と持ちかけられた事くらいだった。


そんな事を思い出しながら、「大変だったけど、皆が喜んでくれるなら気分いいや」と言って酒を飲むと、渡辺咲良が「雨空さんて何回くらい殴ったの?」と聞いてきて、「んー…、7回…8回かな?」と言って笑う。


実は綿堂商事の後にも、田村大地は無責任に仕事を取ってきて、やれもしない事を無理なスケジュールで受けてしまい、山田と部長が頭を下げてなかった事にしてもらい、それでもやる場合を考えて、雨空晴が作業について思案すると、全社員がその仕事に向かわなければ話にならず、かと言って他の仕事を止めたり、全社員を使える程の金額でもなく、雨空晴は「キチンと考えろこの馬鹿野郎!」と言って殴り飛ばすと、そのまま殴りながら説教をした。


そのぼこぼこの顔もあって、相手の会社は不問に処してくれていた。


狭山和美は「8回…」と言って唖然としたが、それを聞いた鈴木海斗が「案外喜んでたりして」と言って、ストロングを飲んで「くぅ〜」とか唸っている。


喜ぶ?


「え?ウンチクンって変態なの?」


雨空晴は「キモっ!」と言って身震いしたわけだが、佐野結衣が「違うよ。鈴木と話していたんだけど、田村ってキチンと向き合ってくれる人って今までいなかった…、違うね。居たけど、向き合うことから逃げていたし、逃げたらやられた相手も嫌になって離れて行くのに、殴ってでも助けてくれるのは初めてで、最近は飲み会にも来ないし、催さないで資格の勉強をしたりしてるんでしょ?それって変化で、雨空さんに感謝してたりしてって話したんだよ」と説明をする。


妙に説得力のある佐野結衣の言葉に、雨空晴は再びの身震いと共に「無理っ!」と言ってチーズをひと口食べて、「うまっ」と呟いてから、気持ち悪さを誤魔化すように「恋愛対象未満!アタシはアイツの母ちゃんじゃねぇ!」と言ってハイボールを一気飲みしてしまった。

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