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百聞だけで済ますんじゃねぇ。  作者: さんまぐ


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第15話 見て知る。

綿堂商事の入谷は、自分の一存で取引を停止させることも、停止を撤回させる事も出来ないとしたが、誠実な対応は貰ったと言ってくれた。


山田のひたいには真っ赤な痕がついていて、それ以上に新人の田村大地の両頬が腫れていて、気にしたところで雨空晴が頭に来て殴った事を伝える。


思わず笑ってしまった入谷は咳払いと共に、「そこまでしていただけて、誠実さはもらいました」と言う。



だが、コレで済むわけでもなく、「ビル名に関してはオーナーはどちらでもいいと言っていたのですが、御社に以前からお願いしてある挨拶状や封筒、案内も含めて『ウイ』で用意していたので、無断で勝手な事をされては困ります」と言い、ふりがなに関しても「新人ではなく勤続10年の社員で、しかも名前が一般的な千葉太郎で原稿にあるからなんて、理由になりませんよね?」と言ってきた。


返す言葉もない。

挑発的に振る舞い、この状況を招いたのは田村大地だが、還元していけば会社対会社になる。


山田と雨空晴はキチンと頭を下げたが、田村大地は打算的に「このくらいでいいだろう」と頭を下げていて、入谷に見破られる。


入谷は「あなた、自分がやった事の重大さが、まだわからないみたいね?」と厳しい口調で田村大地を責める。


「私も責任問題になるのよ?まだ使う前に見つけられたけど、今日って日に間に合わない。その結果は揺るがない。OKを出してから原稿を変えられた。だけど問題が起きれば『そんな事をするとは思わなかった』なんて通じない。『勝手な真似をするな』と言って、釘を刺さなかった私のミスになるの。あなたは私の生活を支えられて?私はコレから上司に報告。ありのままを説明して処罰を待つわ」


一気に言うと、「山田さん、明日朝には間に合いますか?」と山田に聞く。


再び土下座をした山田は「必ず明日朝にはお持ちいたします!」と言い、頭を下げた雨空晴は「今、社内で優先的にデータ修正と校正をやり直しています。ご安心いただく事が難しいのはわかっていますが、ご安心してお待ちください」と謝って謝罪は終わった。


山田は「俺はこのまま印刷所に向かうよ」と言い、雨空晴は「ここからならアタシは定期で戻れるから、一人で先に帰って作業に入る。ウンチクンを印刷所に連れて行って皆の顔を見させてよ」と言って田村大地を任せてしまう。


田村大地からしたら、事務の仕事も午後のデザインの仕事もあるのに、外回りなんてやっていられないのだが、雨空晴にはその言い訳もわかっていて、「野田さんとアタシでやってやるから安心しろ」と先に言う。


田村大地はそれこそわからない。

それなら自分がいる意味とは何なのか…。


「馬鹿野郎、アタシ達はただのパーツだよ。アタシの代わりは堀切さんもアンタもやれる。アンタの代わりも野田さんやアタシが出来る。そうして会社ってのは回って行くんだよ。じゃなきゃインフルエンザで働くか?アタシは嫌だよ」


田村大地にその考えはなかった。

その考えはないくせに、風邪を引いたら平気で仕事を休む。

権利だけは主張していた。


田村大地を外に出したのは雨空晴なりの優しさだった。

社内の空気は最悪で、会議スペースでは三部長が落とし所を思案していて、綿堂商事に切られた時のことを考えて頭を抱えている。


デザイン班は全員で校正をして、秋田にいたっては3回も校正している。

そこに素直に謝れない田村大地の存在は邪魔でしかない。


それは事務も営業も一緒だった。

印刷所から戻った山田のひたいには更に赤い痕が広がっていて、そして田村大地はこの世の終わりのような顔をしていた。


印刷所の人間も、常に納期と戦っていて、割り込まれる事をよしとしない。

本来なら知った事ではない。

自分たちのミスで刷り直しならまだしも、下版後に勝手に直した輩のせいでやり直しなんて言語道断だったし、その戦犯が目の前にいるとあれば黙っていられない。


聞こえるように田村大地に向かって、「最低だ」、「ありえん」、「常識知らず」と悪態をつくならまだしも、「刷り直し?ふざけんな」、「お前が刷れ!」と直接文句を言いにくる連中も居た。


これを雨空晴の悪意と取りたい田村大地だが、山田から「雨空に感謝しなよ」と言われて聞き返す。


「今社内は戦場になってて空気も最悪。全員が立候補して校正してくれてて、それで遅れる分を、俺たち営業が自分のお客様に謝り、許してもらう。そこに居たら居た堪れなくなるから、まだマシな方に行かせてくれたんだよ」


そう言われると、眉唾物だが血の気は引いてしまった。


会社に戻るとそれは本当で、射抜くように睨まれて動けなくなると、「早く戻れ馬鹿野郎!部長達に謝って報告したら、野田さんと進捗の確認!こっちはアタシが片した!」と雨空晴が怒鳴ってくれた。


部長達は「処分は綿堂商事さんの対応次第だ」のみで済み、事務の方も野田が片付けていて、「今日はデザインの席に行ってて」と言われてしまう。


居場所のない針のむしろの中、やる事が無くなると途端に綿堂商事の入谷の顔や言葉、印刷所の連中の顔と言葉が思い浮かんできて怖くなる。


一向に綿堂商事からの連絡もない。

印刷所に連絡をする山田の電話の声が聞こえてきて、印刷は終わり、乾燥待ちで断裁はまだだとわかる。


怖くてどうにかしたいのに、何もやる事がなく、周りの人達も話しかけて来ない。

死刑を待つ気分のようだった。


だが周りからすれば、田村大地は「手伝います」のひと言も発せずに、席で項垂れている風に見えてしまい呆れられている。


雨空晴は仕方ないとため息をついてから、「ウンチクン。とりあえずやれる事を考えてやれ」と指示だけ出すと、田村大地は少し悩んだ後で山田の所に行って、「明日の納品に連れて行ってください」と言った。


部長達や雨空晴、野田の脳内は「なんでそうなる?」だったが、それはそれで面白そうなので山田に頼み込むと、「ええぇぇぇ」と言いながらも山田は帯同を許し、田村大地は印刷所で「感謝しろよ!」、「二度とつまらないミスすんなよ馬鹿野郎!」と怒鳴られ、綿堂商事で入谷から「あら、あなたが来るなんて思わなかったわ」と驚かれていた。

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