採寸、ウサギ狩り
翌日から本格的な準備が始まった。
画用紙をつぎはぎして巨大な一枚の紙を作り、そこに唯が下絵を描いていく。
二枚目の廊下の絵だ。
下絵ができると今度はクラスメイトたちが唯の指示のもと、寄ってたかって色を塗っていった。
私も刷毛を両手に参戦する。
一人が派手に制服を汚してからは、みんなジャージに着替えた。
私と佳代は衣装づくりのために採寸された。
スリーサイズだけでも恥ずかしいのに、肩幅や股下、二の腕の太さなどいろいろなところを測られる。
田中美穂(手芸部の女子で、役割分担のさいに「衣装は私に任せろ」と言ってのけた剛の者)は個人情報の保護を約束してくれたから周りに知られる心配はないけれど、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
測られている間、暇だったので衣装の完成図をみせてもらった。
アリスの衣装は水色を基調としたフリルのついた可愛らしいもので、ハートの女王の衣装は深紅の落ち着いたドレスだ。
その絵を見た唯は「私より断然上手い」と評した。
美穂は照れながら「服の絵だけだよ」と謙遜した。
測り終えた数値を見せてもらう。
スリーサイズ以外の基準がよくわかれなかったから、佳代と比べ合いっこした。
それが間違いだった。
コールド負けだ。
とても最後まで見ていられなかった。
特に股下の長さが絶望的で、実力差のあるバスケの試合の点差くらい開きがあった。
落ち込む私に美穂が、
「お、おっぱいは勝ってるじゃんっ。ギリギリだけど!」
と慰めの言葉を贈る。
「佳代はぺったんこだから嬉しくない」
「おい」
佳代が睨み付けてくる。
ドスの利いた、とまでは言わないけれど、声にも迫力があった。
けれどやさぐれた私に怖いものなど何もない。
睨み返し、
「なんか文句でもあんの、貧乳」
と真正面から喧嘩を売った。
「あら、どうやら死にたいようね」
「お、落ち着いて二人ともっ」
唯が慌てて仲裁に入ってきて、火花を散らす私たちの間でわたわたとする。
(この小動物にはさすがに……)
そう考えながら顔を上げると、佳代と視線が交わった。
彼女もまた、私と同じことを考えていることがわかった。
私たちは合図もなく唯を羽交い絞めにする。
「美穂!」
私が呼ぶと、美穂は喜々としてメジャーを掴んだ。
「よしきた!」
彼女は唯のトップとアンダーを手際よく測り、紙に記入した。
用済みになった唯をぺいと投げ捨て、美穂から紙を受け取る。
そしてそこに書かれた数値を目にし、唖然とする。
隣で佳代が、
「な、何よ、これ……」
と震えた声でつぶやいた。
唖然としていた唯が我に返り、顔を真っ赤にしながら憤る。
「も、もう、何するのっ」
私はそんな小動物の皮をかぶった猥褻物を睨みつける。
「この、裏切者がぁ!」
「えぇ!?」
怒鳴りつけても怒りは治まらなくて、私は感情のままに喚いた。
「私たちを欺いて心の中で笑ってたんでしょ。最低ね、唯がそんな子だとは知らなかった。もう絶交よ!」
「え? え?」
唯は取り乱し、救いを求めるように視線をさまよわせた。
「ね、ねえ佳代。有子、どうしちゃったの?」
すがるように佳代の腕を掴む。
その手を佳代は冷たく振り払った。
「触らないでくれる? 隠れ巨乳がうつるわ」
「か、佳代っ!?」
美穂がくつくつと笑いながら口を挟む。
「隠れ巨乳がうつるのは、いいことなんじゃないの?」
私たちはハッとし、両サイドから唯にひしっと抱きついた。
私たちの間で唯が苦しそうに身をよじる。
「い、息が……」
「我慢しなさいっ」と私は唯を叱り付けた。「そんなことより、どうすれば胸が大きくなるか教えて。何か特別なものとか食べてるんでしょ」
「と、特別なものなんて食べてないよ」
「嘘おっしゃい」佳代がぴしゃりと言う。「さては独占するつもりね。そうはさせないわ」
「だ、だから知らないってっ」唯は涙声だ。「そ、そもそも、私はそんなに大きくないよ。B寄りのCだし」
その言葉が、私と佳代の逆鱗に触れた。
「寄る辺のないAの私たちに喧嘩売ってるの?」
「殺すわよ」
「二人とも目が怖いよっ」
私は舌打ちする。
どうやら白状する気がないらしい。
「……こうなったら」
目配せすると、佳代は神妙に頷いて、
「ええ、唯を食べるしかないわね」
「なんで二人は私を食べようとするのっ!?」
身の危険を感じたのか、唯が暴れだす。
怯んだ一瞬の隙をつかれ、教室の外へと脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「くそ」
「待って、有子」
唯を追おうとした私を佳代が引き止める。
「冷静になりましょう。私もあなたも、ちょっと熱くなりすぎてるわ」
ふぅと大きく深呼吸してから、佳代は落ち着き払った声で言った。
「唯はああ見えて足が速いから、闇雲に追うべきではないわ。私が待ち伏せるから、有子はそこに追い込んで」
「オーケー」
楽しいウサギ狩りの時間だ。
それから私と佳代は、小一時間ばかり唯を追いかけ回し、号泣させてしまう。
さすがに反省した私たちは真面目に作業に取り組むようになった。
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