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天女様と化け物

どれくらいの時が経ったのだろう。

サチは荷車に揺られながら考えていた。

今まで生贄と捧げられた人たちは一体どうなったのだろう。

その後の話は誰一人と口にしなかった。

恐ろしい御姿の山神様は本当にいるのか、それとも空想のモノなのか……。

口伝でしか聞いたことのないこの信仰が急に恐怖へと変わった。

今までは感謝を込めて、来年も豊作になる様にの願いを込めてと言われてたから何ら疑問に思うことなく従ってたが、いざ自分が供物という名の生贄となればまた視点は変わる。

襲われるこの恐怖と表情一つ変えない村長達……。

胸の鼓動が大きく跳ねる。

暗闇の中、松明の炎と薄く広がる悲しげな月の光が辺りを辺りを照らしてくれる。

後ろには蟻の様に小さくなった村の灯。

泣くまいと我慢してる顔が段々と歪んでく。

「サチよ、もう少しの辛抱じゃ。そんな顔をせず胸を張りなさい」

村長にそういわれても無理だった。

たった齢十五の少女にはこの使命は荷が重すぎた。

無言のまま荷車が進むがサチはこの場から逃げ出したくて仕方がなかった。

「村長、山神様は口伝のようなお方なのですか……?」

意を決してサチは震えたか細い声で尋ねた。

村長は渋い顔をしている。

その顔を見たサチは更に恐怖と不安が襲ってくる。

若い男衆達も村長に視線が向く。

村長が重く口を開く。

「口伝ではそう伝えられてる。わしが幼い頃から言い伝えられたいた話でな。

実態を見た者が昔は数人おったが、皆大人になるとその時の記憶は消えてしまう。

幼子の言うことなんざ大人は耳を傾けない。そもそも空想として片付けられる。

わしの息子もそうじゃった。」

そこで話が終わる。

山神様を見たものがいる……?

けど成長と共に消えてく記憶……。

「村長の息子、いいえ若君は幼少の頃なんて言っていたのですか?」

村長はこれ以上教えてくれなかった。

きっとこれを話すと大人にとって都合が悪いのだろうか?

増々恐怖で胸が張り裂けそうなのと、村長の話に不安が走る。



荷車が止まった。

目の前には赤く朽ちた鳥居に大木の木々に覆われる大きな山……。

なんて禍々しいのだろうとサチは心の中で呟いた。

鳥居の先には苔の生えた石の階段が早くおいでと言わんばかりに待ち構えてる。

着物の裾が汚れないようにたくし上げ、男衆達が供物を背負い村長を先導に鳥居を潜る。

鳥居を潜った瞬間、サチは今まで体験をしたことのない感覚に襲われた。

「これは……一体……」

秋風で冷たくなっていた空気が一気に変わり生温かさのある‘‘何か‘‘に包まれた感覚だった。

恐怖と不安で張り裂けそうだった胸の鼓動も静かに脈を打つ。

びっくりして足を止めてしまった。

村長は察したのか「サチは魅入られた」と一言だけ残して先を進む。

魅入られた?何のことだろう。

けど、先程まであった恐怖と不安がなく足取りは軽やかになってた。

とても長い石の階段。

昇ってる途中も不思議な出来事が起こる。

森から小さな囁き声、木から聞こえる水の流れる音。

山からヒシヒシと伝わる言葉に表せない程の大きな、大きな温もり。

心地いさえも感じる不思議な空気。

気付けば目の前には小さな祠があった。

どうやらここが山神様の住む祠で、供物と私を捧げる舞台。

村長は手ぬぐいで祠の汚れを落とし、祠にある鈴を鳴らした。

リーン、リーン……。

何とも可愛らしい音なんだろう。

「わしたちはここまでじゃ。後は山神様に従ってくれ。」

そう言い残して山を下りてく。

その背中を眺めながらサチは「お気をつけて!」と手を振った。

寂しい気持ちもあれば、村に帰りたい気持ちも嘘じゃない。

父母は大丈夫だろうかの心配もある。

けど、なぜかこの山は私の心を癒してくれる。

生贄として捧げられ齢15でこの生が終わろうとしてるのに。




その頃、一人の青年が木の上から様子を伺っていた。

まるで、月から天女が現れたと思うくらいのとても美しい女の子が佇んでいた。

青年は息を飲む。

山、木々、動物達さえもその天女に釘付け……。

その天女は村人が下山するまで手を振っていた。

過去の女達は泣き叫び、山神様に助けを求める。

拝んで頭を垂れ、けどその懇願も虚しく腹を空かした獣に食べられる。

そんな運命だった。

ただ、この天女の様な女は違った。

むしろ、天女が舞い降りた瞬間何かが変わった。

今までの山とは違う……。

獣の様に人を貪り喰う動物でさえ身動きせずその様子を伺ってる。

山全体がふわっと優しい空気に包まれる。

「さて、山神様はいつ来るのかしら」

可愛らしい声で居るはずのない神を呼ぶ。

風が囁いて祠の鈴が鳴った瞬間――。

山神様と呼ばれる青年と、美しい天女の様な少女の視線が合う――。


「貴方様が山神様ですか?」


そう、サチは山神様のことが見えてのだ。


「君は……俺のことが見えるのか?」

動揺を隠しきれない山神様は警戒しつつ少女へ問う。

「えぇ、見えてますよ。」

サチも驚きを隠せない様子で山神様の様子を伺う。

それもそのはず、村の口伝では恐ろしい御姿と言われてたから……。

けど、木の上にいる山神様は全くもって別人だった。


実際の見た目は、透き通る白い肌に、抱きしめれば折れてしまいそうな繊細な身体でスラっとした手足――。

髪はさらっとした絹のような長い黒い髪――。

瞳はまるで光り輝く琥珀のよう――。

人を丸呑みなんて出来ないそのは冴えた美しい色――。

それはまるでおとぎ話の世界から出てきたような容姿端麗な青年だったから……。


お互い見つめあったまま時が止まる。

山神様と呼ばれる青年の琥珀の瞳からは小さな粒が零れた。

サチはそんな青年を見つめたまま微笑んだ。

木々が騒めきだす。

小さな動物達がサチと化け物と恐れられてた青年を囲んだ。

とても、とても温かい気持ちになった。



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