昔々。
これは、大きいビルも無ければ、綺麗に舗装をされた道路も無く、
生き急ぐ人も居なければ便利な文明の機器もない太古昔の話。
その時代は、森は果てしなく広がり、水は澄みきって流れ、
すべての生きものが調和のうちに生きていた。
心の豊かさがあって、立派な村とは言えないけどみんな頑張って、時には協力して助け合いながら生活をしていた。
風が心地よく、草花はふわり揺れ、空は薄く白い雲が小魚の様に泳いでる。
もうすぐ秋がやってくる。
秋は年に一度の祭りがある。
そう、収穫祭といったもので‘‘山神様‘‘への感謝を込めて供物を捧げる祭り……。
さて、今年の供物は……。
この村には「伝説」がある。
山の奥深くに鎮座する“山神様”であった。
見た者は喰われるという村人たちが代々口伝として受け継がれていってる。
‘‘山神様‘‘の御姿を見た人はいないが、それは恐ろしい見た目で、腕は丸太の様に太く、胴は大きな岩山の様で、家を潰せる様な大きな足で、目は大蛇の如く黒い眼で瞳孔が開いていて、口は横に引き裂いて人を一人丸呑みしてしまう……。
そんな御姿と語られていた。
村人が‘‘山神様‘‘を恐れ、そして頭を垂れ崇めるのか……。
それは、どんなに恐ろしい「伝説」があっても今ある命は山神様があってこそ。
一方、そのような噂がある‘‘山神様‘‘は静かに、村を見つめていた。
「山神様ねぇ……。俺ってそんなに怖い存在なの?」
遠くを見つめながら悲しげに言葉を落としていくこの青年こそあの山神様と恐れ崇められてる人物だ。
いつからここにいるのか、なんでここから離れられないのか……。
そう、この山神様は山にある鳥居の先から通れない、いや、通してくれないのだ。
通ろうとするとバチッと弾かれてしまう。
「どうしたもんかねぇ……。どうしたら通らしてくれるの?」
もちろん答えなんてない。
だって、もう何百年もこれだ。
たまに俺の存在に気付いて遊んでくれる子供もいたけど、子供が大人になると俺の事が見えなくなり、次第には記憶から消えてしまう。
また、独りぼっち。
感情さえない山神様はただ、佇むことしか出しなかった。
空を見上げれば鱗雲が自由に泳いで、木々の隙間からは少し冷たい風が秋を知らせてくれる。
「もう、あの時期か。」
そう、人は感謝と言いながら供物を渡してくる。
米と野菜と、そして幼さが残る少女を……。
天災がないのは山神様が平和に暮らしてる証拠で、天災があると山神様がお怒りになってると言う、人間が勝手に決めたこの空想のせいで毎年一人生贄として少女を捧げる。
ふざけた話だ。
「俺は人を喰わん。勝手に捧げられても困るんだよ。」
山神様はただ、この山に囚われているだけの人の形をした何かであって供物、生贄を貰っても意味がなく山に住む動物たちへ全てあげていた。
勿論、生贄にされた少女も……。
罪悪感なんてものはなく、腹を空かした動物たちが満たされてくれるならそれでいい。
悲鳴が聞こえようが、助けを求められようが、人間から視えない山神様はどうすることも出来ない。
「俺って結局は何者?山神様ってなんだ?俺はいつ自由になれるんだ?」
そう呟くと山がざわめきだした。
動物たちも身を潜め始める。
夕焼けが燃える空には月が顔を出そうとしていた。
‘‘山神様‘‘と呼ばれる男はただ虚しく空を眺めていた。




