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夢にみる

作者: 黒瀬真葛

 こんな我が身に、何ができようか。こんな我が心に、あの人を愛することなどできようか。

 幾度となく、そう思った。そうして同じように幾度となく、こう思いもした。

 彼の人は、私が愛するに足りうるだろうか。彼の人を愛して、私は幸せになれるのだろうか。

 そうして今宵、夢をみたのだ。彼の人の出てくる、幸せな夢。

「私は、貴女と結ばれることができません」

 彼の人を想うことは、罪だろうか。私の愛は、愛し続けていることは、彼の人の邪魔になるのだろうか。

 そして私は、本当に彼の人を愛しているのだろうか。あるいは恋や愛といったうつくしいものではなく、利己的で自己中心的な執着なのではなかろうか。

 愛していると言ってしまって、良いのだろうか。

 こんなふうに何度も自分を疑いながら彼の人のことを想い続けて、私は幸せになれるのでしょうか、誰にともなく、いや、自分自身に何度も問い続けた。答えはいつだって、否だった。私は、幸せになれない。

 それでも私は愚かにも、彼の人を想い続けている。彼の人を、忘れられずにいる。

 あの人に、心を通わせた人はいないから。たとえあの人に想う人がいたとしても、互いにたった一人と決めたような方は、いないから。だからもう少しの間だけでも、私のこの恋心を持っていても良いのではないだろうか、許されるのではないだろうか、と。

 はた迷惑にも、いまだに貴方を想い続けている。

 夢にまで、みるほどに。


 夢らしく、整合性も現実性もない日常の中で、彼の人は私の横を通り過ぎていった。私は思わず振り返って、手を伸ばした。

 伸ばした手で裾を掴むことはせずに、彼の人の背を追い掛けた。

 彼の人は昔と変わらずに笑い、昔と変わらない調子で応じた。

 暫くの間、私は彼の人と談笑しながら歩いて回った。笑顔で彼の人を見つめながら、私は彼の人に夢中になっていた。彼の人と笑い合えることが嬉しくて、変わらない態度に少しの残念さと幸せを感じていた。

 楽しいひとときはあっという間に駆けさって、昔と同じように至極あっさりとした調子で、私は彼の人へ別れを告げたのだ。


 彼の人は、私を愛してはいない。

 彼の人は、私の心をかつて受け取ってくれたけれど、同じものを返すことはなかった。あれから四度も春を超えたというのに、褪せない想いが燻り続けている。熾火のように、ずっと。

 私にはこれが恋なのか愛なのか、執着なのか判別がつかない。けれども、これだけは判然としている。私は、彼の人の傍にいたいのだ。彼の人と言葉を交わして笑うことができたのなら、きっと幸せなのだ。

 軒先にぽかりと浮かぶ欠けた月を見上げながら、静かに目を細めた。

 私は、彼の人は、幸せになれるのだろうか。

 私はどのような道を辿るべきだろうか。


 正解へと続く道は、きっといつまで経っても私には見えない。



——私が愛してしまった貴方へ

——貴方を想い続ける私から

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