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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

作者: 壱原 一

死期が近い方に羽が見えます。


今まで私が経過を辿れたこの目に羽が見えた方は例外なく近々亡くなったので多分そうだと思います。


雨が降っても濡れはせず、風が吹こうが靡かないので、現実の物ではないでしょう。羽でもないのかも知れません。


ただこの異物が見える方は近い内に亡くなるようだから頭の中で連想して羽と処理しているのかも知れないです。


こう、天使とか、そういうものを連想して。


羽が生えて天に飛び立つみたいな。


ちなみにご覧になれますか。


ですよね。いえ、分かってました。


見えていて意味が分かったら平静じゃいられないですよね。


私も物心つく頃から当たり前に見えていなければ意味が分かり始めてきた時にしんどかったかも知れません。


この点わたしは最初から死期が近い方にこれが見えたので、そうっぽいと分かると共にすんなり受け入れられました。


動物の毛並みが荒れて痩せたり、高齢の方に白髪や皺が増えたり、その類と同じ位置付けです。


だから今まで一度だってこれをどうこうしようと思ったことはありません。


なかったんです。一回も。


この人とお会いするまでは。


心から愛しているんです。傍に居られるだけで幸せ。


大らかで芯が強くてちょっと捻くれてる所もあって、この人にふさわしくあろうと日頃から心掛けていたら、自然に背筋がしゃんとして、前向きに、向上心が持てて、私生活も仕事も順調で、明るくなったと言われました。


とっても満たされていました。この人が私の全てです。


なのでこの人に羽が見えた時、


もう直ぐ死んじゃう人にしか見えない薄黄色の粘液塗れの透けた茶色で煮溶けたようなくちゃくちゃ汚らしいゼリー質の蠢く羽が見えた時、どうして、どうしても堪えられなくて、掴んで引き抜いちゃったんです。


抜いちゃったんです。この人の羽。


咄嗟に、無我夢中でした。


全然予想していなかったですが、凄くしっかり根が生えてて、後頭部と項と背筋から、葉脈みたいにずるずる抜けて、あちこち千切っちゃいました。


お魚の内臓みたいに、柔らかく弾力があって、伸びてぬるぬるの感触です。取っちゃ駄目だって直ぐ分かって、慌てて押し戻して擦り込みましたが、べちゃべちゃ塗り広がるだけで、効果はありませんでした。


抜いた途端がくがく震えて、仰向けにしたら、泡を吹いてて。ひゅんひゅん息が激しくて、目玉がぐるぐるしていて、声を掛けても、頬を張っても、返事がありませんでした。


つまり、この人がこうなったの、全部わたしの所為なんです。


妄想なんかじゃないんです。


私に責任があるんです。いえ、羽を抜いちゃった責任です。


警察の方が仰るような、ストーカーして、負担を掛けて、ストレスで倒れさせたなんて、そんな責任じゃありません。


私達お付き合いしてたんです。ご存じですよね、この人、ちょっと捻くれた所があるから、意地悪で通報していただけで、本心では喜んでくれていて、少し素直になれた時は、ちゃんと反応してくれました。


違います。目撃者も居るでしょう。


突き飛ばしたんじゃありません。羽を引っ張ったんです。この人には直接さわっていません。


この人が倒れちゃったのは、ストレスでも、突き飛ばされたんでもなくて、私が、この人の羽を、思わず抜いちゃったからなんです。


…分かります。信じられませんよね。


私も、お父さんお母さんには…いや、そもそもこの人にだって、羽のことは言っていませんでした。結婚しても、一生、言わないつもりで居ました。


心配かけたくなかったからです。誰よりも愛しているので。


ねぇ、お父さん、お母さん。正式なご挨拶がまだでしたし、事情が込み入ってしまって、私を信じられないのも、重々承知しています。


ですがこうなった以上、面倒を見る人が必要でしょう。私に任せてください。不躾な話になりますが、遠くに住んでらして、お仕事があまり芳しくなくて、この人、仕送りしていましたよね。


さっき申し上げた通り、わたし近場に住んでいますし、経済的にも時間的にも十分余裕があるんです。


この人を心から愛しています。傍に居られるだけで幸せです。


反射的に羽を抜いちゃった責任を取らせてください。


お考えいただけませんか。


いかがですか。ぜひ…


ええ。うん。


そうですか。


じゃあ、はい。ええ。


ええ。ええ。


そうしましょう。


それでは。ええ。参りましょう。


じゃあ、行くね。


愛してるよ。



終.

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