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試験前放課後の教室は、勉強する場所?いや、そうではない。

作者: 五筒赤

「猿田くん。ここ、分かるかな?」


放課後、テストに向けて勉強をしていたある日、突然、話しかけたことのない女子に話しかけられた。


「え、ああ、ここは……」


女子とは話すことがない訳では無いが、恋愛的な関係になった事など1度もない。

もはや最近は、自分の謎のプライドで彼女なんか欲しいとは思わない。


「すごい!ありがとう。また、聞きに来てもいい?」

「ああ。別にいいけど」


素っ気なく返したが、この時は1ミリも思っていなかった。

この女子に恋をするなんて。

テストに支障が出るほど、彼女に振り回されるなんて。


***


猿田紫耀(さるたしょう)


 眠たくて今にも閉じてしまいそうな目を擦りながらベッドから起き上がる。

 いつも通り学校に行く準備を始める。


「はぁ」


 ワイシャツに腕を通しながらそんなため息が出る。

 最近、俺には悩み事がある。


 どうやら、俺は恋をしてしまったらしい。


 歯を磨いて、ご飯を食べて、寝癖を直す。

 前まではこれで朝の準備は終わりだった。

 でも、今は少し髪の毛をセットしてみたりしている。

 そんなセットをしてる時も、好きな人のことが頭に浮かんでくる。

 そんな自分にウンザリしていた。

 恋愛なんて、バカバカしい。俺はそうやって生きてきたのに。

 でも、無意識に考えてしまうのだ。


 先日、そんな話を、友達である文月楓(ふみづきかえで)に相談してみた。


 そんな俺の気になる相手は鴨志田葉月(かもしだはづき)

 黒髪ポニーテールで、クラスでは割と大人しめである。


「おはよ!猿田」


 家を出て学校まで歩いていると、後ろから声を掛けられる。


 楓だ。

 俺と柊の家お互いに徒歩で学校に行ける距離で、たまにこうして朝一緒に行くこともある。


「楓。おはよう」

「ん?なんか考え事か?」

「そう見える?」

「まあ、なんか、うん」


 楓は今みたいによく核心をついてくる。


「気にしないでくれ」


 この前、楓に相談したわけだが、もう恋愛の相談なんてしたくない。

 俺は、プライドが高く、自分が恋をしているということにあまり納得していないのだ。


「そうか。分かった」


 こういう時の楓は、いつも大人しく引いてくれる。

 相談した時は、よく考えて相談に乗ってくれるし、楓はいいやつだ。

 なぜだかいつも無表情だけどな。


 いつも通りゲームの話やアニメの話をしながらその後は学校に向かった。


 *


「席替えするぞ〜」


 そんな一言が突然先生から告げられる。

 それと共に歓声がクラスから巻き起こる。


 今俺の席は前から3番目で、真ん中の列。

 場所的にもメンバー的にも決していいとは言えない。

 席替えはくじ引きで行うらしい。

 順にみんな先生の持った袋に手を入れ、そこから先生自作のくじを引いていく。

 そしてそこに書かれた番号と黒板に書かれた座席表がリンクしている所に名前を書く。


 鴨志田が、くじを引く瞬間が訪れた。

 鴨志田が自分の名前を黒板に書く。

 その様子を無意識に目で追ってしまうしまう俺。

 そして、鴨志田の隣の番号を見てしまう俺。

 その番号は8だった。

 そして、そこの席はまだ空いている。

 俺が8を引けば隣になることができる。

 俺の番が来るまでにそこに誰か来るなんてこともなかった。

 そして、俺がくじを引く番に。


 そこに書かれた数字は、8だった。

 高揚する気持ちを心の中に留める。


 そうして席を移動すると、確かに隣に鴨志田葉月が座っていた。


「よろしくな。猿田」


 突然声をかけられるが、相手は鴨志田ではない。

 後ろの席の楓だ。


「お前が後ろか。やったな」


 恥ずかしいことに隣のことしか考えていなかった俺は後ろが友達の楓なことに気が付かなかった。

 友達も近くにいて大当たりの席だ。


「応援している」


 そう後ろから囁いてくる楓だった。


 ***


「ああああああもう」


 俺は今、自分の部屋の勉強机に向かってテスト勉強をしている。

 定期テストがもうすぐだからだ。

 そんな中、俺は頭を抱え、他の部屋にいる親に聞こえない程度のボリュームで嘆いている。

 わからない問題があったとかそういうわけではない。

 実はテストのことで鴨志田とメールでやり取りをしているのだ。

 勉強に集中するためにスマホは邪魔なものということは十分に分かっているが、どうにもスマホが、いや、鴨志田のことが頭から離れない。

 通知の音に飛びつく俺。

 しかしその通知はしょうもないものだった。


「はあ。だから、俺は恋なんてしないって……」


 そう決めたはずなのに、心は言うことを聞かない。

 てか、なんでこんなに鴨志田は返信スピードがいつも違うんだ?

 早かったり遅かったり。


「考えるな。集中。集中」


 そう覚悟を決め、また机に格闘するが、すぐにまた通知が鳴る。

 今度こそ鴨志田だった。

 さっきまで話していた話題の返答が来た。

 そしてさらにもう一件返信がくる。


「明日、一緒に勉強しない?」


 ***


「待った?」

「いや、今来たところだ」


 テスト前最後の休日。

 休日は最後だが、平日はまだ1日ある。

 テストまで残された猶予はあと2日というわけだ。

 鴨志田と合流をし、カフェに向かう。

 正直、勉強は一人でした方が捗るだろう。

 だが、今の俺は一人でしてもどうせ鴨志田からの通知を待って集中できない。

 そのことを考えれば、鴨志田の側で勉強する方がよっぽど集中できそうだ。

 そう思っていたのだが、そう上手くはいかない。

 実際鴨志田の隣に座ってみれば、勉強なんて手につかないからだ。

 何か話すべきか?

 いや、勉強しにきたんだもんな。話すことなんて……。


「猿田くん」

「うわ!あ、すまん」


 考えすぎている最中に突然声をかけられて、つい変な声を出してしまった。


「この問題、分からなくてさ」

「ああ。えっとこれは……」


 教えるのは嫌いではない。むしろ好きだ。

 好きな人に対してなんだから、尚更。

 でもやっぱりまだ自分が恋をしていると言うことを認められない。いや、認めたくない。

 それほど自分のプライドが高いのは自分が一番よく分かっている。


 ***


 鴨志田葉月(かもしだはづき)

 私は最近、猿田くんに勉強を教えてもらっている。


 テストは前日となる。今日の放課後はもちろん勉強だ。

 隣の猿田くんを誘い、二人で机をくっつけて勉強を行う。


「ちょっとトイレ行ってくる」


 そう言って猿田くんは教室を出てトイレに向かって行く。

 当然、一緒に勉強していた私は一人になる。


「鴨志田さん。テスト勉強は順調ですか?」

「霜月さん。そうだね。頑張ってるよ」

「最近猿田くんに教えてもらってるのでしょう?」

「そうだね。猿田くんは頭いいから」

「そうなんですか。私は頭いい友達がいないので、羨ましいです」


 すると、一瞬後ろを向いて冷たい眼差しを向けてくる霜月さん。

 そこには猿田くんの友達の楓くんがいます。

 楓くんは頭が良くないということなのかな?


「鴨志田さんと猿田くんは付き合っているのですか?」

「え?いや、全然そんなことないよ。最近仲良くなったばっかりだし」


「それもそうですね。失礼しました」


 霜月さんは敬語だけど、私がタメなことから分かるように、霜月さんとは初対面ではないし、一緒にいることもよくある。

 霜月さんは、基本誰にでも敬語だから、誰に対しても初対面のような話し方に聞こえることも多い。


「あ、猿田くん」


 猿田くんがトイレから帰ってきた。


「あ、すいません猿田くん。少し鴨志田さんとお話をしてました。じゃ、鴨志田さん、これで失礼しますね」


 そう言って霜月さんは席に戻る。

 少しその様子を見届けてみると、霜月さんは楓くんにツンツンと触り、話しかける。

 それに少し耳を傾けてみる。


「なんだ?」

「楓くん……私たちも、あれやりません?」

「あれ、って?」

「席くっつけて勉強しません?憧れちゃいました」


 もう私もだけど、みんなテスト前日に何やってるのよ。教室は勉強する場所でしょう?

 こんなんじゃ、1ミリも勉強に集中できないじゃん。


「どうした?」

「いや、勉強疲れたなって」

 「頑張ろ。明日だからね」

「うん。そうだね」

「テストが終わったら、何かしたいことある?」


 したいこと。ねえ。


「今、してるよ?」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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本編に出てきた『文月楓』を主人公とした話を連載しております。本編主人公の猿田くんも出てきますし、そちらで猿田と鴨志田の恋愛も終わらせるので良かったら読んでくださると嬉しいです

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