妖精のおっさん
ルミカは目玉が飛び出そうなほど大きな目を見開き私を見た。
甲高いルミカの悲鳴はドアの外で待機しているメイドにも聞こえたらしく、
ノックとともにドアが開いた。
「リリアン様、いかがいたしました!?」
と侍女頭のルイーズが飛び込んできた。
「ルミカ様が具合が悪そうなの」
とだけ私は言った。
ルミカは驚愕の表情だったが、私を見てルイーズを見て、
「よ、妖精様がいたわ! ほら! リリアンの手の平の上に!」」
と言った。
ルイーズは眉をひそめてから私を見た。
ルミカはそれで自分がとんでもない事を口走ったと顔を真っ赤にした。
妖精を見るのは賢者か魔法使いほどの魔力を要するのはこの国の常識で、その魔力がない哀れなリリアンの戯言だとさっきまで信じていただろうから。
自分まで妖精が見えるなどと騒いでは自分も嘲笑の的になると察したのだろう。
それを理由に今までさんざんリリアンをいじめてきたのだから。
「ルミカ様はお疲れのようですわ。お泊まりになるなら部屋をご用意してさしあげて?」
と私は言った。
侍女頭のルイーズは「かしこまりました。すぐに」と言い頭を下げた。
そしてソファに腰を抜かしているルミカに声をかけて、手を貸すと「気のせいよ。そう、私は何も見なかったわ」と呟きながら部屋を出て行った。
妖精のおっさんが心配そうな顔で私の周りに集まって来たので、
「ごめんなさいね。うるさくして、あなた達、騒がしいの嫌いよね? 魔力を少しだけ開放するから、どうぞ、満腹になるまで堪能して行ってね」
手のひらに集めた魔力を少し大きいボール型にしてソファのクッションに置くと、わらわらと妖精が集まってきて魔力のボールに集った。
「私はもう寝るわ。明日も誰かと戦わなきゃならないんですもの。本当にこの世界の人間は虚栄心やら何やらばかりで、魔力があるとかないとか、そんな事だけで親兄弟の間でも冷たい亀裂が簡単に入るんだもの。全く何て世界に転生したんだろう」
そう言いながらベッドに入ると、妖精のおっさんが数十匹、魔力のボールからこちらを見て冷やかすように笑った。