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転生したらいじめられっ子のヒロインの上に醜い死神将軍に嫁がされたんだが、聖女に匹敵するこの魔力は内緒でモブに徹したい。  作者: 猫又


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赤い蜘蛛、怒る

「あんた~~あんた~~」

 今出てきた小屋よりは大きいが、やはり家と言うには粗末な建物の前でエルダは大声で叫んでいた。父親の村長が彼女をなだめるようにその肩を押さえていたが、エルダは頭を振り回しながら嫌だ嫌だと泣き叫んでいた。

「エルダ、どうした!」

 と侯爵が駆け寄って行くと、ぱっと顔を上げて侯爵の胸にすがりついた。

「あんたぁ、あたしと子供を捨てないでよ~~あんたがいなくなったらあたし達は生きていけないよ~~」

「エルダ、落ち着んだ。俺はここにいるだろう」

 侯爵がエルダの両肩に手をやって、優しく笑いかけた。

「とうちゃん……」

 エルダの子供達も侯爵の周りに寄り添って、彼にへばりついた。

「大丈夫だ、お前達」

 侯爵は子供達の頭を撫でてから優しく笑った。

 エルダはそんな侯爵に抱きつき、そして、私の方を見てにやっと笑った。

 侯爵も私の方へ振り返ったが、そのままエルダの肩を抱いて子供達と一緒に家に入って行った。


「リリアン様……」

 振り返るとサラとオラルドがいた。

「物資、どうなった?」

「村長の家に置いておきました。村人には平等に使うようにと言っておきました、侯爵様の事はともかく、村の為にはきちんと使うでしょう。村人が食うや食わずで苦しんでいるのを見るのが一番辛いのは長と名が付く立場の者ですからね。それからリリアン様が滞在する間は村長の家を使わせてもらう事になりました。今、部屋は余っているそうですし、診てもらいたい者はそこへ来るでしょう」

 とオラルドが言った。

「そう、ありがとう。あなたたちが戻るまで私もここで医者の真似事でもするわ。オラルド、バナナ探しにサラも連れて行ってくれない?」

「リリアン様! 私はお側でおります! リリアン様を置いては行けません!」

 とサラが行った。

「いいえ、私、みっともない真似をしてしまうかもしれない……それを見られたくないわ。あなたやオラルドの前では……平等で全てを許して……全てを受け入れて……」

「リリアン様!」

「お願いよ。サラ、オラルドと行って頂戴」

「でも!」

「分かりました。我々は直ちにバナナ探しに行きましょう。ダゴン氏、アラクネ、リリアン様を頼む。カリンさん、サラ、行くぞ」

 とオラルドが言った。

 私はその場で彼らを見送った。

 サラは心配そうな顔で何度も私を振り返りながらオラルドについて行った。


 ドラゴンに姿を戻したヤトが空に飛び立つのが目に入るまで、私はその場から動けなかった。そのうちに各小屋の煙突から煙が上がり始めた。

「昼餉の時間だ。あんたに貰った食料で久しぶりに肉が食えるよ」

 とエルダの父親である村長が後ろから声をかけてきた。

「すげえな、あんたの仲間、初めて見たよ。アイテムボックスってのか? あんなにたくさんの物が入って、便利だな……そんでありがてえって言うと思うか?」

「え?」

「あんたらは気まぐれでやってきて生活をかき回し、わしらからダンを連れてっちまう。肉や薪をばらまいて、施しをして気分がいいか? あんたらがいなくなった後の村のもんの絶望を考えた事があるか?」


「ふざけんな!」

 と言ったのはアラクネだった。

 寒がりだから冒険者みたいな格好の上にもっふもふのグレートウルフの毛皮で出来たコートを被っている。

「施しして満足だろ? テメエ、こっちだってそんなもんで腹が膨れやしねえんだ! うちらが命がけで蓄えてきた全部をこの村に置いてってんだぞ! 侯爵を探してどんだけ旅して来たと思ってやがんだ! あたしらがいなくなった後の事だと? 村にこもってじっとしてるだけしか脳のねえお前らの事なんぞ知るか!」

「アラクネ」

「だいたい、リリちゃんが死霊王を倒さなかったら、こんなチンケな村、餌食にされてみんな今頃は死霊王の腹の中で立派なグールになってたに違いないんだぞ! それをテメエらリリちゃんに糞なんぞ投げつけやがって!」

「アラクネ、ありがと」

「ったく、ガキの病気だって診てやったじゃねえか。だから人間は嫌いなんだ!」

「アラクネ……」 

「……ちょっと頭冷やしてくるよ。ダゴンのおっちゃん、リリちゃん頼むね」

 そう言ってアラクネはボスボスと積もり始めた雪の上を歩いて行ってしまった。 

 


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