糞を投げつけられる
侯爵を奪いに来た者として村全体が私達を敵視していた。
「村には一歩も入れん!」
と侯爵をダンと呼び、娘のエルダがその妻で侯爵は孫の父親であるとい主張していた老人が先頭切って村の入り口で立ちはだかった。
続々と村人達が駆けつけ、私達に罵詈雑言を投げつける。
「あんた、何様だか知らないが、うちの人を連れて行くなんて許さないからな!」
とエルダが言った。
今日も子供を背中に背負い、両手で子供の手を繋いでいる。
子供達も私達を睨むような目をしている。
「ここでの暮らしがどんなもんか知らないくせに! お前らみたいなチャラチャラしたよそ者に暮らせるはずがねえ!」
「そうだ! ダンはこの村のもんだ! 帰れ、帰れ!」
「では侯爵様……貴方が言う所のダンさんとお話しをさせてください。別人ならそれでいいんですわ。でもあの方が侯爵様ならこちらも退くわけにはまいりません」
ビチャッ。
そう言った私の顔に何かが飛んで来て当たった。
すぐにぷんと臭い匂いが鼻をついた。
動物の糞の匂いだ。
「お前なんか糞でも被ってろ!」
と声が飛んで来て、エルダが、
「おっちゃん、もったいない事をしないでよ。クソは大事な肥料だよ。ププッ」
と肩をふるわせながら笑った。
「リリアン様!」
とサラが慌てて、布を出して私の頬を拭いてくれた。
怒りがガーッとわき起こり、これで怒らないほど私は人間出来てないけどいいよね、そして意識しないうちに私の右手には怒りの為に発動した火炎の気が集まっていた。
けど次の瞬間、「何をやってるんだ!」と声がした。
見ると侯爵が子供を一人抱えて、こちらへやってきた所だった。
それで私は右手の火を慌てて消した。
「あん、あんたぁ。何でもないんだよぉ。すぐに追い帰して朝飯にするよぉ」
とエルダが侯爵の腕を取って、しなだれかかった。
「村に来た旅人を追い返すのか? 何もないが休憩でもしてもらったらどうだ?」
と侯爵が言った。
「行きずりの人間を暖めてやる無駄な薪なんかない!」
と老人が言い、村人もそれに肯いた。
「薪不足ですか? それなら少し手持ちがありますから融通しましょうか?」
とオラルドが言った。
そしてオラルドの右手の先がシュッと消え、また現れて瞬間、
地面に薪の束がどさどさっと降って落ちた。
「オラルド、あなた、アイテムボックス持ちだったの?」
「ええ、まあ、容量は小さいですけどね」
とオラルドがにやりと笑った。
やっぱりアイテムボックス持ちだった。
いつも荷物がコンパクトだなぁと思ってたんだけど。
仲間なのにそんな事を内緒にするって!
「薪だ!」
と村人が目の色を変え、何人かが薪に飛びついた。
「やめろ! みっともない事をするな! ダンが連れてかれてもいいのか!」
と老人が言ったが、薪に飛びついた村人はもう薪を抱え込んでいた。
「う、うちの子供が寝込んでる……暖めてやらないと死んじまうんだ!」
と男はそう言って、薪を抱えて走って行こうとした。
「リリアン様、子供を診てあげては? 熱冷ましの薬草もありますし、食べる物も提供出来るでしょう。まあ、村に入れてもらえないならどうしようもないですけどね」
とオラルドが言った。




