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不安な気持ち

「死霊王との戦いで何らかの被害を受け記憶障害を起こし、逃げた先でここの村人に助けられ、まるで以前からこの村の住人だったように生活を始めて、あの女性と夫婦のように暮らし、きっとあの女性の子供達を自分の子供のように錯覚して育て、今に至るって感じですかね」

 とサラが言って、私とオラルドはぽかんと彼女を見た。

「そうね、あの子供達が侯爵様の子供じゃないのは確か……よね?」

「ええ、侯爵様が今まで二重生活を送ってらして、実はあの村で所帯を持っていた、という事実がなければ」

「そ、そんな事あるわけないでしょ! ずっと王都で騎士団の任務を……」

「リリアン様?」

 

 私が侯爵と結婚したのはほんの数ヶ月前で、その前は何をしていたのかなど知らない。

 王国騎士団の団長を務め、災害や魔獣討伐、盗賊や悪徳商人の取り締まり、それ以外にもたくさんの任務を抱えていたと聞いている。

 聞いているだけで、実際はどうだったかなんて知らない。

 大聖堂で結婚式を挙げて、そして一緒に過ごしたのも数週間だ。

 任務と言われれば侯爵がどこで何をしようと私には分からない。

 負傷した足で退役のはずがそれも私が治療してしまったから、また騎士団にとどまっているし。

 私に会いたいと、愛していると甘い手紙は届くけど、その手紙を書いてない時はどこにいるかも分からない。

 私は実は侯爵の事を何も知らない。


 魔獣討伐で辺境の地まで遠征することはあるだろうし、あの村まで騎士団が足を運ぶのも考えられる。そしてあの女性と出会い、そういう関係になる可能性もある。

 それは私と結婚する前の出来事だろうし、侯爵は元々私との結婚は皇太子に無理矢理させられた強制結婚だったし、私の事は魔術師の家系なのに魔法が使えない役立たずだと思っていたはずだし。


 侯爵は見るからに強い男で、外見も整ってるし、例え一夜でも関係を望む女性がいるかもしれない。そして長く辛い遠征の間に男性は欲求が溜まるもんだろうし。そして得体のしれない男の子供ではない、王国の騎士団長の子供だ、例え未婚になっても産む一択だろう。

 さらに、記憶障害は事実だけど、もし、記憶を失った侯爵が私の事は忘れたけど、あの女性のことだけを覚えていて、自ら村へ戻ったのだったら? とまで考えた時、


 私の頬をアラクネの固い足がぴんっと弾いた。

「痛っ」

「なんかろくな事考えてなさそうだけど、大丈夫?」

「アラクネ……ええ、だ、大丈夫よ」

「リリアン様?」


「私もサラの言う通りだと思いますね。ざっと見た感じでは、この辺境の村には若者が少ない。村にしたら、記憶を失った若い男なんて降ってわいた幸運ですよ。侯爵様の事ですから、記憶がなくてもそんじょそこらの魔獣に引けを取るとも思えません。狩りもお上手でしょう。女子供や老人に出来ない力仕事だって簡単でしょう。村人達はそこにつけ込んで侯爵様をあの女の旦那に仕立て上げて縛ってるんですよ。あの女の本当の旦那がどうなったのかは分かりませんが、子供に父親が帰ってきたとすり込ませて、父ちゃんって呼ばせれば記憶がない侯爵様はそれが本当の事のように思い込むはずです。それが間違いであるという事を伝えなければなりません。そうしないと侯爵様の中で疑問は疑問でなくなる。今の生活を受け入れれば、永遠に真実が埋もれてしまいます」

 とオラルドも肯いた。

「そうね……真実が知りたいわ。本当の事が」

 と私は言った。


「わしらでちょっと様子を見てくる。カリン、行くで。ヤトとアラクネはここでリリちゃんを守るんやで」

 とおっさんが言い、立ち上がった。

「よっしゃ、いこか」

 とカリンおばちゃんもおやつをポケットに入れてから立ち上がった。


「おっさん……」

「そんな心配そうな顔しなさんなって。大丈夫やって。侯爵はりりちゃんだけのだんなさんやで」

 とおっさんが言った。 

「そうやで、りりちゃん。侯爵様はほんまりりちゃんを愛してるで。毎回届く手紙は甘い甘い匂いするやんか」

 とカリンおばちゃんも言った。

「うん。お願いします」


「よっしゃ、行ってくる」

 二人がふわっと消えた。

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