見知らぬ誰か
「ガイラス様、よくぞご無事で……」
と私が言ったが、侯爵は首を傾げただけだった。
「この人らは?」
と侯爵が第一村人の老人に問いかけた。
「さあ、知らんな。旅のお人らだろうが、この村には宿屋も武器屋もないぞ、帰ってもらえ」
と老人が言った。
「ガイラス様! 私達が分からないのですか! 一体、どうなさったのですか? 何故こんな村に? 何故、領地にお戻りにならないのです!」
と言うオラルドにも反応せず、侯爵は私達を不思議そうに見ただけだった。
「……俺の事か? すまんがあんた達の事は分からん。なんせ……」
と言いかけたガイラスに、背後の女が、
「あんた! 早く獲物を解体してくんないと、日が暮れるよ!」
と遮った。
「あ、ああ、すまん。エルダ、すぐやるよ」
侯爵はそのまま背を向けて井戸の方へ戻って行ってしまった。
「ガイラス様!」
「あんた、何者が知らないけど、あの人はあたしの旦那でダンってんだ。人違いしてるんだよ。帰ってくんな」
と侯爵がエルダと呼んだ女が私を威嚇し、そして背を向けた。
「ガイラス様! ガイラス様! 待って、話を!」
と追おうとしたが、いつの間にか増えていた村人達に前をふさがれた。
『鑑定!』
私は背中を向けた侯爵に鑑定のスキルを放った。
『*イラ*・ウエール* レベル*** HP**** 剣豪 記憶障害』
「帰れ! あの男はダンだ! わしの娘のエルダの夫で、孫達の父親じゃ!」
「そうだ! 帰れ!」
「帰れ!」
村人に武力を行使するわけにもいかず、追い出された私達は途方に暮れながらも村から少し離れた森の中で休憩をとった。
日も暮れかけていて、オラルドとサラが野営の準備を始めた。
私は火をおこし、積もっている雪の山をどさどさっと集めてかまくらを作る。
中で寝ると暖かいからだ。
風魔法で雪の山を作り、火魔法で中を溶かしながらくり抜く。
大人三人が寄り添って寝れば結構暖かい。
ちなみにアイスドラゴンのヤトは寒い方が調子が良いらしく、外で見張りをしながら寝てくれるので安心だ。
それでもやっぱり長い戸外の生活は身体に負担がかかる。
「あの方は侯爵様に違いありません」
とオラルドが肉を焼きながら言った。
「そうね」
「オーラが侯爵様やった」
と火の側に座っているおっさんが言った。
「オーラ?」
「そうや、戦いの神に愛されてるあんな凄いオーラ二人とおらん」
「そっか、実は鑑定したんだけどね」
「なんや、鑑定できるんかい」
「うん、でもね……」
「でも、まるで私達の事を覚えてないようでしたね」
とサラが肉を切り分けながら言う。
「そうね……そうなの。鑑定したから分かったけど、侯爵様、記憶喪失だわ」
「ええ!」
オラルドとサラとおっさんとかりんおばちゃんが合唱した。
「ほんなかいな」
「そうなの。鑑定したら記憶障害ってなってた」
「な、治らないんですか?」
とサラが言い、オラルドはため息をついた。
「記憶障害で医者にかかる人間はいるが……魔法や薬で治るものではないと聞いた事がある。生活や行動はそのまま覚えているのだから、生きていく事に支障はなく、そのまま暮らしていくしかない。そしてある日突然、記憶が戻る事もあるそうだ」
「でも、このまま村で暮らすのがいいとは思えないわ。元通りの生活をしなくちゃ記憶だって戻らないんじゃ」
と私が言うとオラルドはうなずいた。
「ええ、力尽くでも侯爵様を連れ戻さなければなりません」




