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いざ、謁見

 そして謁見の日がやってきてしまった。

 朝早くから起こされ、顔中塗りまくられ、着せ替えをされ、頭を結い上げられて、そして侯爵が我が家へ馬車でやってきた。

「お初にお目にかかります。リリアン殿」

 その立ち振る舞いで、ああ、この人も嫌々結婚させられてるんだ、と思った。

 だって鎧兜を被っている。

「初めまして、ウエールズ侯爵様」

 巨大な鎧野郎にお愛想笑いだけして、私はそうそうに馬車に乗り込んだ。

 侯爵もまた馬車に乗り込んできたが、私は窓の外を見ていたし、侯爵も私に話しかけもしなかった。


 無言のまま馬車はシャンシャンと城へ到着し、侯爵は無言のまま私の手をとって謁見の間へ向かった。

 謁見の間では国王とともにアレクサンダー皇太子とその横にルミカが白いドレスで立っていた。

 以前のリリアンがどう思っていたかは分からないが、どうしてもアレクサンダー皇太子がそんなに魅力的とも思えなかったし、どや顔のルミカに対しても何の感情も浮かばなかった。陰気で人付き合いの苦手なリリアンと社交的でお洒落なルミカでは戦う以前の問題だ。だからリリアンが王宮で好奇の目で見られるのは致し方ないとは思う。

 私はそんな事は全てどうでもよく、一日も早くウエールズ侯爵家へ嫁いで、さらに魔術の実践をしてから、離縁されて市井でひっそりと生きる、という目標があった。

 国王が何か言葉を発し、鎧兜のウエールズ侯爵が何か答えて、そんで謁見は終わるはずだったのに、最初っから最後までニヤニヤしていたアレクサンダー皇太子がこう言った。

「ウエールズ侯爵、その兜を外しなさい。国王の前で無礼にもほどがある」

 その場がざわっとした。

 謁見の間には宰相や大臣、そして警護の者も大勢いたから。

 そして私の記憶では騎士は国王を守る、いわば防御の壁のような存在。

 いちいちその武器を置いて鎧兜を脱いでいては任務にならない。

 騎士団長であるウエールズ侯爵にしてもそれをしなければ有責というほどでもないが、今日は自らの結婚報告で自分が王に謁見を願い出たのだから兜は取った方がいいんじゃないかなぁ、と私も思っていた。

 けど醜い顔らしいから、嫌なんだろうな。

 アレクサンダー皇太子もルミカ嬢も役立たずのリリアンが醜い男へ嫁ぐのを見たいのだろう。そして素顔をさらせない醜い男には役立たずの娘を押しつけてそれを楽しむという寸法だろう。

 誰にも素顔を見せたことがないというのだからとんでもなく醜いのは本当かもしれない。私にはどうでもいい事だけど。

 目指せ、愛想を尽かされて離縁! なんだから。


「申し訳ございません。それでは失礼して」

 とウエールズ侯爵が言った。

 間近で聞くその声は低いバリトンで耳心地のいい声だった。

 カチャカチャと音がして、兜を外した顔が表で出る。

 ふんげぇ!

 黒髪に黒い切れ長の瞳、薄い唇。いつも兜を被っているわりには日焼けした肌。

 私はちらっとルミカ嬢を見た。

 唇を噛んでる。ウケる。

 思いの外、イケメンで見るからにアレクサンダー皇太子よりも精悍で整った顔をしていたのだ。私を醜い男に嫁がせてという目論見は崩れ去ったようだ。

 国王は意外そうな顔もしなかったし宰相や大臣、警護担当の騎士達もざわざわとはならなかった。という事は鎧の騎士の事を知らなかったのは、日中に開催される暇な貴族達のサロンパーティで無責任な噂を鵜呑みにした皇太子とルミカ嬢だけだったという事だ。


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