アラクネの帰還
「アラクネ?」
そういやいたっけ蜘蛛魔獣……
私が手を振り払ったもんだから、アラクネはどさっと地面に落ちた。
小さな小さな蜘蛛の姿のままで、赤くピカピカな腹もとげとげのトゲも色悪くしおれていた。
「サガシタンダヨーーーーーーーーーー」
と小さな声で小さな蜘蛛が言った。
「コンナトコニイルナンテーーーー」
と八本の足を振り上げて小さな蜘蛛は怒っているような身振りをした。
「アラクネ、久しぶりね、どうしてたの?」
「マホウダマチョーダイ!」
「あ、ああ、どうぞ」
手のひらに小さな魔法玉を差し出すと、アラクネはそれにぴょんと飛びつき、囓り始めた。
やがて満足したのか、アラクネはその場でウトウトとし出した。
「あら、あら」
「リリアン様、お肉が焼けました」
とサラが肉片をこちらへ差し出すと、アラクネがぱっと目を開いて、
「ニク!」
その肉片に飛びついた。
「あら、あら、お腹がすいてたのね、サラ、アラクネにもたくさんあげてね。あなた達もちゃんと食べてね。食べながらでいいから話を聞いてちょうだい」
オラルドがサラの隣にどさっと座り、ナイフで肉を切り分けた。
それをサラが皆の皿に乗っけてから皆に配った。
「リリアン様、お話しというのは?」
オラルドが肉にかぶりつきながら言った。
予想はしていて、彼はきっと反対するだろう。
「……探索を終わりにしましょう」
「何故ですか」
「みんな酷く疲れているわ。オラルド、あなたが一番、大変な目に遭ってる。私は魔獣を倒すくらい出来るけど、あなたはそれらを解体して料理して、さらに野営の見張り番までして、いつも先頭を行き、私達を危険にさらさないように気を使ってる。私は自分の力を過信してました。聖女に匹敵する魔力が余計に魔獣を惹きつけて皆を危険に巻き込む。私は魔法が使えるだけで、冒険者としての経験も知識も何もない。あなたにおんぶで抱っこで迷惑を掛けてる。そしてこの森の瘴気と厳しい季節、もう終わりにしましょう」
「いいですよ」
とオラルドが言った。
一人でも侯爵を探すつもりだった彼はきっと反対するのだと思った。
「それなら……」
「どうぞ、王都へでも侯爵家へでもお帰りください。ここからは私一人で探索を続けますので」
「オラルド……この寒さ……死んでしまうわ」
「そうよ!」
と言ったのはサラだった。
「野営の時に眠れるのはリリアン様が対物理ナントカの結界と対冷気遮断結界を張ってくれてるからでしょう! だから安心して眠れるのよ! リリアン様の魔法がなければとっくに凍死してるわよ! あなた、剣の腕も立つし強いけど、リリアン様がいなかったらとっくに死んでるわ!」
「そうかもしれないですね、でも、私は侯爵様を見つけるまでは帰りません」
とオラルドは言った。
「コウシャクーーー!」
と声がした。
はっと皆が声の主をみると、肉を食べて回復したアラクネがどどんっと巨大な蜘蛛の姿に戻っていた。
「そうだよ! なんでこんなとこにいるんだよ! リリアン様! 探しちゃったじゃんか!」
とアラクネが言った。
「アラクネ、あなた、どこにいたの?」
と私が言うと、
「何それ! リリちゃんが侯爵を見つけるまで帰ってくんなって言ったんだろ!」
とアラクネが足を地団駄するようにして怒った。
「あ、そうだっけ、ごめん」
「もう! だから一生懸命探したんだよ! 魔法玉、超超特大くれてもいいんじゃないの!」
「「「え?」」」
私とオラルドとサラの声が重なった。
「見つけたよ。侯爵」
とアラクネが言った。




