味方の内訳
侯爵家の物は何一つ持ち出してはいないけど、結婚に際し侯爵から贈られた品は残らず持って来た。
宝石類はもちろんドレスや靴、髪飾りなんかの装飾品は根こそぎだ。
もちろんこれは売って換金する為だ。
そしてその役目は……
コンコンとノック音がし、開いたドアからオラルドが入ってきた。
「リリアン様、換金を済ませました。この先、使わないだろう品は全て売らせていただきました。それで金貨300枚になりました」
侯爵家にいた時はタキシードみたいな服装でぱりっとしていたのに、今はちょっと高価そうな冒険者用の耐久性の強そうな上下衣服にマント、革靴、そして腰には剣という出で立ちだった。
品のある眼鏡男子がちょっとワイルドになっていた。
「ありがとう。オラルド」
「はい、では今から、装備を揃えに武器屋や道具屋を回ります。その後、冒険者ギルドで登録しましょう。登録料金貨三枚と試験があります。リリアン様は魔術師として優秀らしいですし、強力な眷属もいるからまず間違いないですが、メイドのサラに冒険者は無理でしょう。見たところ冒険者として何の適性もないようです。それでもサラを連れて行きますか?」
オラルドの声は冷たく厳しかったがサラは、
「行きます! わ、私だって、自分の身くらい自分で守ります。ご迷惑はかけません!」
と震える声で言った。
「リリアン様が連れて行くと仰るのなら私に異存はありませんが。足手まといなのは自覚して来るように」
オラルドはちらっとサラを見てからため息まじりにそう言った。
てかオラルドが一緒に来る事の方がアレなんですけど?
家令として侯爵家でノイルを教育するものだと思ってたら、さっさと身の回りを整えて第二執事のサイモンに後の事は任せたので、と言って出てきたらしいのだ。
侯爵家では染み一つない制服に髪の毛もきっちり、ふわっと良い匂いを漂わせ、眼鏡に指紋一つついていない潔癖すぎるこのイケメン家令、持つのはペンと算盤くらいだろうに冒険者なんて出来るのかしら?
サラも少しはそう思ったらしく、
「オラルドさんだって冒険者なんて出来るのですか? 森にだって入った事ないでしょう? 私は薬草の見分けくらい出来ます!」
と少し涙目で言い返した。
だがオラルドは、
「は? 私は冒険者ランクAですが」
眼鏡をくいっと上げながらオラルドが言った。
「ええええ! だ、だって、あなた王都でも文官でお城勤めだったんでしょう?」
と言う私に、
「ええ、城に文官見習いとして入った時は二十で、それ以前に私は十二歳から冒険者でしたから、城に上がってからはそうそう外にも出ていませんが、ランクは維持しています。いつかガイラス様のお供が出来る日が来る事を考えて身体も鍛えてましたし」
「そ、そうなんだ」
そう言えばこの人、常々の言動が侯爵のファンっぽいんだよね。
侯爵推し、みたいな。
「お疑いならこれを」
首にかけた鎖の先には銀色のカードが吊ってあり、確かにランクはAと記されていた。
職種も剣士とある。
「剣士なんだ。すごい。頼りになるわね」
「まあリリアン様には強い眷属がついてますし心配はないと思いますが、登録してすぐはFランクの見習いのような立場から始まります。そして任務をこなしランクを上げていきます。あなたの目的が何であるかによってやり方も変わると思いますが」
とオラルドは真顔で肯いた。
「目的?」
「ええ、貴方がなんの為に冒険者を目指すのか、ですね」
「何の為に?」
「たいていは金ですが、中には強くなる為、どうしても手に入れたい物の為、家族の為、村の為、様々な理由があります」
「理由……オラルド、あなたは? 侯爵家の家令という立場を捨ててまで」
「私はガイラスを探す為です」
とオラルドが言った。
「ガイラス様を?」
「ええ、これは私の勝手な理由なので、お気になさらずに。私はガイラス様が生きていると考えておりますから。ただ、連絡がないのは困難に落ちいっている状態かもしれません。ですから探しに行きます。例えリリアン様がノイル様に嫁ぎ城に残ったとしても、私は最初からこうするつもりでしたので」
きっぱりと言うオラルドに私は嬉しくなった。
「ガイラス様はお幸せね、あなたみたいな人がいてくれて。私もガイラス様は生きてると信じてるわ。だから私も探す。それともっと広い世間と真実をこの目で見てみたい。貴族のお嬢様という人生で、私はこの国の事すらもよく知らない。だから知りたいわ。それにせっかく魔力を授かり、魔法が使えるのだから困っている人を助けたいわ。それが私が冒険者になる理由よ」
「十分ですよ。そう言えば、城下では死霊王を倒した魔術師を探しているようですよ。詳細はダゴン氏から聞いています。国が選んだ聖女ですらかなわなかった死霊王を倒したのですから名乗り出れば、報奨金と新たな聖女の地位がいただけますよ」
「い、嫌よ、聖女だなんて」
「変わった方だ」
とオラルドが言い、ふっと笑った。




