死
冒険者のパーティは四人が鉄板だと思っていたけど、違った。
ヤトで降下し、彼らに近づいた私にリーダーらしい男が近寄って来たが、その彼に従う者が十名いたので、大きなパーティなのだろう。
「なんだ、あんた」
「私はリリアン・ウエールズ、何か手助けが出来ないかと思って駆けつけました」
と言うと、冒険者達は一斉に笑った。
「あのな、本気か、相手は死霊王なんだぞ。あんた、その服装からして貴族だろ? 邪魔以外の何者でもないし、あんたを助ける余裕も義理もないぞ」
リーダー格の男は大男で背中に大きな剣を背負っていた。
イケメンでワイルド、強そうだ。
「そうそう、邪魔なのよ。あんた!」
私の肩をつんとついた女は見るからに魔法少女のような格好で杖を持ってるから、魔法使いだろう。
「邪魔はしません。回復が使えるので何かお役に立てればと」
と言った瞬間、魔法少女に肩を突き飛ばされた。
「気取ってんなよ、貴族がぁ! 邪魔だって言ってんのが分かんないの!?」
その瞬間、ヤトが私の前に飛び出し、彼ら威嚇した。
危険指定魔獣αは魔力を持っている。
だから賢いヤトは普段は少年の姿をしていて、人間に混じって暮らしている。
けど、私をどついた魔法少女に怒ってドラゴンの姿に戻ってしまった。
「ド、ドラゴン!」
「大丈夫よ、ヤト、そんなに怒らないでいいわ。冒険者さん達、私は戦いに参加したいと言ってるのではないの。万が一、あなたたちが負傷して、助けが欲しい時に手伝いたいだけなの。ですから気にしないで下さい」
「ドラゴンをテイムしてんのか……あんた、すげえな。かなりの魔力持ちだな? 俺はこのパーティ。「銀の翼」のリーダーでジンク、剣士だ」
とイケメンの剣士が言った。
「リリアンよ。あなた達の邪魔はしないわ。どうぞ、戦ってらして」
「そうするよ、と言いたいが」
「問題でも?」
ちなみの死霊王は私達から距離的に言えば一キロ先にいる。
何をしているのかは分からないが、少しずつ移動はしているようで調べによると一日に動く距離はせいぜいが二キロくらいらしい。
あまり意思もなく、ただ何でも飲み込みながら動く、という感じだ。
100メートルまで近づくと瘴気を感じるようになり、小動物などはこてんこてんと倒れていく。
「結局の所、死霊王を倒せるのは聖魔法だけだ。切ったり叩いたりでは話にならない」
私は魔法少女のその後ろにいた僧侶というか尼さんを見た。
密かに鑑定した結果、聖魔法も持っているけど、そのレベルが低い。
このパーティ「銀の翼」自体は冒険者としてはベテランのレベルだけど、僧侶の彼女だけがやたら低く、何か挙動も不審だ。
びくびくとした様子で、彼女は好んでこの戦いに来たのではないという感じだ。
「聖魔法で死霊王を叩く勝算があるからここへ来たのではないの?」
と私は僧侶少女に聞いた。
僧侶の少女はびくびくと私を見て、
「あ、あの」
と言ったが、すぐに下を向いた。
「駄目だね、そいつ、使い物にならねえよ」
と言ったのは大きな盾を構えている大男で、いわゆるタンクという防衛専門の兵隊だろう。
敵の攻撃を一手に引き受けて……だったかしら。
「そいつは聖魔法使いの賢者が連れていたただの助手だ」
「賢者がいるなら安心ね?」
「いや、もういない」
「いないって?」
鎗使いの男が死霊王を指して、
「とっくにあいつの腹の中さ」
と言った。
「俺達はこれから戦うんじゃない、すでに戦って賢者が敗れ、逃げ出す寸前なのさ。賢者のアリアスには悪いが、被害が一人でまだましなほうだ。他にもパーティがいくつか来て、皆張り切っているが、俺達はもう撤退する」
とリーダーのジンクが言い、皆がうなずいた。
「そうなの……賢者の方にはご冥福を……」
そう言うしか言葉がなかった。
「やっかいなのはこれからさ。賢者を喰った死霊王は聖属性に耐性がつく。聖魔法での攻撃がどこまで効くだろうな。この助手が持つ低いレベルの魔法では痛くも痒くもないだろうう」
「そうなのね」
「大丈夫だよ! リリちゃんの聖魔法は死霊王の穢れを癒やすくらいだから!」
と言ったのはヤトだった。
「あちゃあ」
とおっさんが私の肩の上で額を押さえながら言った。
「聖魔法使えるんですか!」
と助手の僧侶少女が食いついた。
「え、ええまあ、でもちょこっとだけね? 賢者が破れるくらいの相手にとても通用するとは思えないわ。だからせめて回復だけでもと思って……それに人を探してるの。騎士団長のガイラス様を探してるんだけど……」
冒険者達があ、と言う顔をした。
「もしかしてガイラス様を見たの? どこで?」
「ガイラス様って死神将軍と呼ばれている王国騎士団のあの方ですよね?」
とジンクが言った。
「ええ、そうよ。知ってるの?」
「ええ……あの……その方も……死霊王に喰われてしまって……」
「嘘……」




