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言うよねー

 翌日、私達は漆黒の塔、という場所へ移動した。

 アラクネが大喜びするはずで、そこは居住区の屋敷からかなり離れた暗く、ひび割れや蔦で囲まれた淋しい塔だった。

「ここの地下には牢屋があり、最上階には身分のある者を隔離しておくような部屋にしてある。ノイルとサンドラは別々の部屋に軟禁。あと家令とメイド、それにコックを地下に」

 と侯爵が説明してくれて、ようやくクラリス達の事を思い出した。

 

 塔に一歩入ると、「キエエエエエ」「ヒイヒイヒヒヒヒ」とか妙な声が響いていた。

 私達は石作りの螺旋階段をせっせっと登り、「もーまとめて地下に入れておいてくれたらよかったのに、ドレスでヒールで石の階段を最上階までって、どんな罰ゲームよ」と思いながら登った。



 ノイルとサンドラは別々の部屋に軟禁されていたので、まずノイルに合いに行くと侯爵の顔を見て、「兄上、違うんです!」と言った。

 言うよねー、違うんだってセリフ、何も違わないんだけど、何かやましい事がある人間ってまず「違うんだ」って言うよね。

 侯爵はノイルのセリフを無視して、

「もうすでに顔は合わせているだろうが、正式に紹介しよう。我が妻に迎えたリリアンだ。侯爵夫人としてお前の義姉になる女性だ。敬い大事にするようにな」

 と言った。ノイルは私を見て、そして少し頭を下げた。

「義姉上……どうぞ、よろしくお願いします……」

「あら、私をガイラス様の妻と認めてくださるのね? 嬉しいこと。ノイル様、お兄様がご無事でよろしゅうございましたわね?」

「は、はい……あの……義姉上、私の過ちは謝罪いたします。ですから、どうか、ここから出していただけますよう……」

 

 過ちを謝罪します、と言っただけで、謝った気になってるのは何故かしら。

 過ちを謝罪します、ごめんなさい、までで完成形なんじゃないかしら。


「ノイル、ここは静かでゆっくり過ごせるだろう? 話相手なら、隣の部屋にサンドラがいるはずだ」

 侯爵の合図に執事達がサンドラを部屋に連れて来た。

「ノイル様!」

 と言いながらノイルに駆け寄ったが、ノイルは自分の保身で精一杯だった。

「あ、兄上、お願いします。ここから出してください。私はこれからは兄上の力になれるように精一杯働きます! サンドラが余計なら実家へ戻しても構いません!」

「ノイル様! そんな!」

 確か先代侯爵の末弟の末娘だって白爺が言ってた。

 ノイルと結婚して侯爵夫人になる気満々だったらしいから、今更帰れないわな。

「兄上……」

 ノイルはガイラスの足にしがみつくようにして頭を下げた。

「ノイル、父上がご存命のうちにお前が少しでもウエールズ領地について関心を持ち、学び、領民と我が領地の事を考えていたなら、ここを継ぐのはお前でも良かった。だがお前は遊び暮らし、王都まで出かけてはクラブやパーティに顔を出し、賭け事をし、方々に借金まである。これではいつお前の借金の形代に領地が取り上げられるやもしれん。我々は侯爵家に生まれた者の責務としてこの大地を守り、民を守り、全てを子孫へ繋いでいかなければならないのだぞ! 分かっているのか!」

 と侯爵がきつい口調で言った。

「もうしわけ……ありません」

「サンドラ、お前もだ。ノイルと一緒になって遊び暮らしてどうする! 幼いころよりここで暮らし、侯爵家としての領地への責任が重大なのは承知しているだろう!」

「は……はい、申し訳ありません」

 ノイルは頭を垂れ、サンドラも俯いてしゅんとなってしまった。


 しばらくの沈黙の後、

「兄上、許していただけるのならば、私もサンドラも兄上に忠誠を誓い、あなたの元でウエールズ侯爵家の為に生涯、尽くすつもりでございます」

 とノイルが言った。


 侯爵はふうっと息をしたが、私の方へ振り返り、

「君は承知しかねるかもしれないが、この二人はこれで許して欲しい。これからは私がここを管理する。私も長い間、留守にして騎士団での活動に重きを置いていた。侯爵家の事も、領地の事も放置していた責任は私にある」

 と言った。

「ガイラス様がそうおっしゃるなら、私に異議はありませんわ」

 そう言うとノイルとサンドラが今度は私に跪き、よよよと涙ながらに感謝の意を告げた。

「だがお前達はもう二、三日、ここで反省していろ! 罰せなくてならない者はまだいるようだしな」

 と侯爵はそう言い、ノイルとサンドラは素直に、

「兄上の仰る通りにいたします」

 と頭を下げた。

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