女郎蜘蛛
「どうしてこんな危険な場所に盗賊は来たのかしら。普通なら奴隷売りや繁華街の女衒に女を売るでしょうに」
ヤトが低空飛行で湿地の森を飛んでくれるが、サラの纏った魔力の気配はどんどん淋しい魔素の濃い森の奥へと続いているようだ。
「リリちゃん、ここらで途切れた」
ヤトが草の上に降りたので、私もヤトの背中から降りた。
「なんかあるで」
おっさんが指した方向に朽ちかけた屋敷があった。
「家……誰か住んでるのかしら?」
門とおぼしき場所から中へ入る。
草や樹木の蔓、白骨化した獣の残骸が山のようにあり、侵入者を拒んでいる。
ようやくドアへ辿り着き、ノックをしてみる。
返事はなく、仕方なくぼろぼろのドアを開いてみた。
ギーーーーーーーーーーと軋む音がして、ドアが開いた。
「誰かいませんかーって聞いた方がいい? 魔女とかいたらどうしたらいいの?」
「魔女て、魔法が使える者を魔女と呼ぶならあんたも魔女やろ。しかも最強の」
とおっさんが言った。
「え、でも、悪い魔女だったらどうしたらいい?」
「サラちゃんが無事ならええやろ。そこは交渉してみたらええねん」
「分かった、こんにちはーお邪魔しますよー。サラを迎えに来ましたー」
と言いながら中に入ると中もボロボロで埃と蜘蛛の巣と、枯葉とゴミが積み重なっている。
「サラ! サラ! どこにいるの!?」
次の部屋への扉を見つけ、そこを開けると「うげげ」
そこには盗賊と思われる男達がいた。
しかもみんな白い糸のような物にぐるぐる巻きにされて意識を失っているようだ。
「あー、きっとあれね、ヒントありすぎ、分かった。この家の主は女郎蜘蛛ね。しかも巨大なんでしょ。よくあるやつ。ああやって糸でぐるぐる巻きにして弱らせてからね、中身を溶かしてすするのね。蜘蛛ってさ」
「よく分かっわたねぇ!」
とおばあさんみたいなしゃがれた声がした。
はっと気がつくとすでに巨大な蜘蛛が天井一杯に張り付いていた。
デカい腹に赤く長い足が四本、そして腹から上は女性でしなびたおっぱいにしわくちゃの顔だった。
「でっかいなー、婆さん」
とおっさんが言い、蜘蛛は気分を害したような顔をした。
「うちのメイドがお邪魔してると思いますけど、返してもらえます?」
と私が言うと、蜘蛛はケッケッケと笑った。
「若い娘はもう食っちまったけど?」
「炎爆!」
「ギャアアああああああ! ちょ、危ない!」
「サラを食べたですって? 本当に?」
「本当だったら?」
「燃やす、壊す。足一本も残さない。焼き尽くしてやる! 炎爆! 炎爆! 炎爆!」
私はかっとなって炎の玉を乱発した。
サラを食べたなんて許さない!
「ぎゃあああ、やめて! ちょっと! 嘘だから! 食ってないから!」
「ええ?」
隅っこの方に縮こまった蜘蛛のばあさんを睨むと、
「く、食ってないよ。あれは囮にしようと思ってさ」
「囮?」
「そうさ、あんな上玉の魔力を纏ってるんだ、さぞかし上級魔術師のとこのメイドだろう? あのメイドを助けに来るあんたみたいな魔術師の魔力を食ってやろうと思って」
「炎爆!」
「ぎゃ! だから食ってないって言ってルだろ!」
「じゃ、返して」
「……」
「炎爆……」
「分かったよ……代わりにさ、あんたの魔力をちょっと分けてもらえない?」
じろっと睨むと蜘蛛のばあさんはしょぼんとなって、
「だって腹が減って動けないんだよ。狩りに行くにも死霊王がこの近くにいるって話だしさ」
「死霊王って」
「そもそもあたしは人間なんか食わないよ。人間なんか腹の足しになるもんか」
私はいつもおっさんや妖精達にあげるような魔法玉を作ってぽんっと投げた。
蜘蛛のばあさんは嬉しそうに長い足でそれを受け取り、ちゅうちゅうと吸い始めた。
「おっさん、ヤトとサラを探して来て、どこかにいるはず」
「よっしゃ!」
「分かったー」
とヤトとおっさんが姿を消した。




