肉とか肉とか肉
「な!」
とレイモンドが言い、恐る恐る私を見た。
「何なの?」
「……も、申し訳……ございません…お、奥様付きのメイドを伯爵家へ送り届ける為に出した馬車でございます」
「サラが!? サラが乗っていた馬車!? それで? サラは? 無事なんでしょうね?」
「それが……」
と若い執事が俯いて、
「発見された馬車には誰も乗っておらず……盗賊に連れ去られたのではと……」
私がソファから立ち上がりばんっとテーブルを叩くと、ピキピキピキピキとかすかな音と共に凄まじい速度で氷が走った。
ロココ調の可愛らしい花柄のテーブルは真っ白い氷塊になり、それを見たレイモンドは目を見開き、クラリスは口を押さえ、執事は腰を抜かしたようにへたへたと床に座り込んだ。
「ま、魔法……」
とレイモンドが呟いた。
「おっさん! あなたの仲間、どこにでもいるんでしょう!? サラの行方を追えないの??」
と叫ぶと、おっさんがふらっと現れた。
レイモンド達が目を丸くした。
私の魔力が溢れて彼らの目にもおっさんが見えているようだ。
「え? なんて?」
「サラの乗った馬車が盗賊に襲われたの! あなたたちの力で盗賊がどこにいるかわからない?」
「無茶言うなって。その場にいてたんならともかく……あ。待てよ、ドラゴンやったら追えるかもな。メイドについたあんたの気配、魔力の滓なんかを追わせたらええねん」
「ドラゴンて、あのアイスドラゴン? あんな大きいのは」
「ちゃうがな! 子ドラゴンやがな! 親のアイスドラゴンはもうどっか飛んで行ってしもたしな」
「子ドラゴンは親と一緒に行かなかったの?」
「そや、もう旅立ちの時期やったさかいな」
「餌もろくにとれない赤ちゃんドラゴンって言ってなかった?」
「そやから、生まれた時からドラゴンはあれやねん、自立すんねん。ほんのちょこっとの間、親と過ごすだけや。あいつもそろそろ親離れしてもええやろってなってな、こっちに残ってんねん」
「そうなんだ、なんでもいいけど、子ドラゴンならサラの行方を追えるの?」
「そやな、契約してあんたの眷属になれば言うこときくやろうしな。テイムしたったらええねん」
「テイム……知ってるわ。テイムね。うんうん。そっか、いいわ。サラが助かるならするわ。でもドラゴンはそれをよしとする? ドラゴンが嫌がったら駄目なんでしょう?」
「親を助けてもろうてんやから、文句はないやろ」
「そっか、子ドラゴン、どこにいるの?」
三人のおっさんが同時にベランダを見ると、子ドラゴンが窓に貼りついてこちらを見ていた。
「キューン」
私は窓を開け放してベランダへ出た。
「子ドラゴン、サラの行方を追えるの?」
「キュー」
「リリちゃん、名前つけてやらんと」
「え……名前て、そんなこんな急いでる時に名前を考えろなんて……えっと、えっと……じゃあ、ヤト」
「ヤト?」
「そう、ヤトノ神という神様の名前からとってヤト。異世界の神だからあなた達は知らないと思うけど、どう? 私の眷属になって力を貸してくれる?」
と私が言うと、子ドラゴンは「肉くれたら」と言った。
「え、しゃべった! もう~この世界の人は……竜も妖精も……しゃべって……前世じゃ隣の家で飼ってた九官鳥のキューちゃんぐらいよ。じゃ、肉とか肉とか肉をあげるから、眷属になって助けてちょうだい! とりあえず、その馬車が襲われた場所まで行ってみましょう!」




