早速、縁談
「おはようございます。お父様、お兄様、お母様、」
食堂で入り、すでに席についている両親に挨拶をすると。
「うむ」
と娘の顔も見ずに父親が言い、
「おはよう、リリアン、今日は少し顔色がいいわね。今日は少しは食べられる?」
と母親が言った。
父の隣に兄がいるが、黙ってうつむいている、というかふてくされている様な顔だ。
兄のエドモンドも美しい青年である、という設定だ。
兄妹揃ってプラチナブロンドで、白い肌、大きな瞳は宝石のような美しいブルーアイ。 小さい頃は揃って「グランリーズに舞い降りた天使」とか何とか言われたもんだ。
「はい、お母様。よく眠ったようでとても空腹ですわ」
と笑って言うと、父親も母親も驚いたような顔をした。
沈黙の中、食事をしていると、父親が咳払いをしてから、
「リリアン」
と言った。
「何でしょう、お父様」
「お前のウエールズ侯爵家への輿入れが決まった」
と父親が言い、私はは? と考えた。
ウエールズ侯爵って誰だ。
そんなの私の設定にないんだが。
ああ、そうか、物語が進んでしまったんだな。
「ウエールズ侯爵?」
「そうだ、ガイラス・ウエールズ侯爵。前侯爵様が亡くなり、最近、侯爵家を継いだ方だが、グランリーズ国王軍の騎士団長様でもある」
「軍人ですか?」
「そうだ、アレクサンダー皇太子からのご提案だ。ありがたくお受けするようにな」
アレクサンダー・グランドル皇太子、最高級の金持ちでイケメン。幼馴染みであるルミカ・エリアノ伯爵令嬢と婚約している。ルミカは優しくおしとやかな娘で白い肌。いつもなんかうるうるした瞳に小さくて華奢な身体。けど、この娘がことのほか意地が悪く、ヒロインなのに悪役令嬢を兼ねている凄い娘だ。
なんせ口と演技がうまい、生まれながらの大女優だ。
リリアンも皇太子妃候補だったんだけど、ルミカの策略でリリアンは皇太子には嫌われてしまったのだ。病弱で役立たず、薬代ばかり嵩んで魔法も使えない、社交性も皆無。
誰からも嫌われて、しかもうじうじ泣いて妖精さんとお話ばかりしているリリアン。
ここまで読んだ記憶がある。
皇太子にも親にも厄介払いされてしまったわけで、こうなったら否とは言えないわけだ。