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寒波到来

 それから暖炉に火は途切れず、朝晩には暖かいお茶が運ばれ、食事もそれなりな格好の物が運ばれてくるようになった。

 新しいメイドとか料理人とかは正直どうでもいい。

 その後の彼らの働きが真面目だったらそれでいい。

 どうせここは侯爵の縄張りなのだから、私がどうこう言っても仕方ないし。

 ただクラリスだけは顔を見せなくなったし、サンドラとは結局顔を合わせていない。


「寒いわね。いくら北の領地でもこんなに寒いのある?」

 あまりの寒さに暖炉の前から離れられないくらいだ。

 屋敷というよりも城に近い規模のこれだけの住居を暖める暖房費も馬鹿にならないだろうと思う。

「それが今年はありえないほど寒いそうですわ。こちらの領地でこれほどの寒波は近年稀だとか」

 とサラが私の髪を梳きながら言った。

「そう、あら、何?」

 妖精のおっさんがふらふらとやってきて私の膝に止まったのだが、もじもじした様子が何かいつもと違う。

「おっさん、何? 何かあるの? あなたも白爺みたいにしゃべれるんでしょ?」

「えーと、あのー、魔法玉をもらえへんかと」

 おっさん、前世は関西人だったのかしら。

「魔法玉? おやつが欲しいの?」

「そんでな、ちょっと大きいのが欲しいねん」

「大きいの?」

「そやねん、これくらいの」

 と言って小さな両腕で大きく輪を作ってみせた。

「いいけど、これくらい?」

 私は野球ボールくらいの魔法玉を作ったが、おっさんは、

「惜しい!」 

 と言った。

「何、惜しいって、もっと?」

 今度はソフトボールくらいを作ったが、

「もう一声!」

 とおっさんが言うのでバスケットボールくらいにしたら、満足そうにそれを抱え込んだ。

「そんなに食べるの? あなたの身体より三倍は大きいじゃない」

「ちゃうねん。あのな……これ内緒やねん。そやからすまんけど教えられへん」

「あっそ。まあ、いいわ。どうせみんなで食べるんでしょ。仲良くしなさいよ」

「うん、まあ、そんなもんや」

 と言っておっさんは魔法玉を抱えて姿を消した。


「本当に魔法をお使いになられるんですねぇ」

 サラが関心したように言った。

 この部屋には私の魔力が流れ出して溜まっているので、そこに現れる妖精達をサラも見ることが出来る。サラは喜んでこの部屋では白爺達やうちのおっさん妖精達ともすっかり仲良しだ。


「妖精って話上手で賑やかでいいわね」

「でも大食らいでおねだりが多いじゃないですか。リリアン様がお優しいから次々にもらいに来るんですもの。お疲れじゃありません?」

「大丈夫よ、これくらいの魔力」

「ならいいんですけど」

 サラは私の髪を梳き上げて、綺麗にまとめてくれた。

「いつみても綺麗な御髪、手触りも絹みたいで、本当に素敵ですわ」

「そう? ありがとう」

「それにしても侯爵様はいつこちらへおいでになるんでしょうか。リリアン様をこんなに放っておいて、新婚なのに」

「新婚ったって、私はいつでも離縁していただいて冒険者への道を……あら?」

 コトンと音がした。

 そのレンガの壁の方へ私が目をやると妖精のおっさんがいて、だけど身体が半分はまだ壁の向こうにあるようだ。

「おっさん? 何してるの?」

 おっさんは一生懸命何かを引っ張っていて、それが少しずつ壁を抜けてこちらへ出てくるのだけど。

「まあリリアン様! あれ……なんでしょう」

 とサラが口に手を当てて恐ろしそうに言った。

「あれは……ドラゴンじゃないの?」


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