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役立たずに飲ませる茶はない

ノックと共にサラが入って来たが、顔が怒っているので一悶着あったのだろう。

 ワゴンに乗せたティーセットを押してきたので、暖かいお茶が手に入ったようだ。

「ありがとう、サラ」

 サラは引きつった笑顔でワゴンを私の側に押してきて、そしてカップに湯気の立つ茶を注いでテーブルに置いてくれた。

「お茶を手に入れるのに苦労したの?」

「とんでもございませんわ。リリアン様、隣の部屋が寝室でそちらに荷物が運ばれているようですから、私、それを片付けてしまいますわ」

 と口数少なく、憂鬱な表情ですぐに部屋を出て行ってしまった。

「おっさん、見て来たんでしょ? どんな感じだった?」

 おっさんは姿を現した。

 不思議な事にしゃべらなくてもおっさんとは意思疎通が可能だ。

 おっさんだけど、妖精さんだもの。

 おっさんは窓ガラスの方へ飛んで行って、そのガラスに見て来た事を映し出してくれる。

 それをやるのは疲れるからいつも嫌な顔をするんだけど、今日は特別に大きな魔法玉を作ってやるとおっさんの目は大喜びでシュバッと光を発した。


「リリアン様に暖かいお茶と軽食を用意してください」

 とサラが言っている。

 周囲の様子からしてこの屋敷の台所、厨房だろう。

 だけど、みんなサラを無視している。

 まるでそこにいないかのよう。

 返事もしなければ目も合わせない。

「聞こえないんですか? リリアン様は侯爵様の奥様になられた方ですよ? 出迎えもなければ茶の用意もしていないなんて」

 とサラが再び言った。

 厨房には料理人も数人、台所専用のメイドもたくさんいたが、皆、ニヤニヤしているだけだ。

「おーい、泣き虫の奥様にお茶をいれてやれよ」

 とまだ若そうな料理人が言った。

「奥様って? この屋敷の奥様になられる方はサンドラ様しかいないでしょ。誰よリリアンて。聞いたとこじゃ役立たずの泣き虫お嬢様で、伯爵家からも厄介払いされたらしいじゃないの。そんな役立たずを侯爵様に押しつけるなんて馬鹿にしてるったら」

 と先程のメイドのクラリスが言った。

「サンドラ様とはどなたですか」

 とサラが言った。

「この御屋敷の正当な女主人になられる方よ。幼いころから侯爵様に嫁ぐと心に決めていた方よ。侯爵様だってそのおつもりだったと」

「そうですか、それより、早くお茶を用意してください」

 サラは能面のような顔を崩さず、クラリスにしても長々と問答をしている暇はないのかガチャガチャと乱暴な音をたてて茶器を用意し、

「葉っぱはそこにあるでしょ」

 と言って厨房から姿を消した。

 サラが悔しそうな顔で「湯はどこに」と聞くと、若い料理人が、「ねえなぁ、役立たずのお嬢さんに飲ませる湯なんか」と面白おかしくそう言い、周囲から笑いがこぼれた。

「お願いしますって頭をさげたら湯くらい分けてやるけどよ」

 サラは唇を噛みしめてから「お願いします」と言い、それをみた若い料理人はひゃっひゃっひゃと笑った。

「ほらよ! これつかいな!」

 料理人は乱暴に杓で湯桶の表面を叩き、サラのドレスへぴしゃっと熱湯が飛んだ。

 サラはその湯で私の為に茶をいれて、そしてワゴンに乗せて厨房を出たが、そのサラの背中にもリリアンを笑い者にする言葉が投げつけられ、サラの肩が震えていた。

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