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いざ、ウェールズ領へ

 一ヶ月後、大聖堂で慌ただしく結婚の誓いをした。

 役立たずの伯爵令嬢が醜い死神将軍に嫁ぐというので私は見世物のように着飾り、侯爵も招待客の期待に添うよう鎧を被ったままだった。式の間中、私達は言葉も交わさず、鎧を被ったままなので視線も合わずじまいだった。娘が嫁ぐという晴れの日だと言うのに、両親は侯爵に夏のバカンスに行きたいだの、良い馬があるのだが資金繰りが、だのと金を寄越せを少し上品にした言葉で言っていた。兄は兄で贔屓の吟遊詩人を連れて来ていて、侯爵にせっせと推しを推薦していた。侯爵家に召し抱えられれば吟遊詩人でも時の人だ。うまくいけば王宮にも出入りし、後世に名が残る場合もあるからだ。

 一人娘を役立たずと散々罵っておいて、いざ嫁入りには嫁ぎ先に金銭をねだるとか、恥はないのかな。貴族ってそんなもんかな。


 そして私は馬車に乗って一路ウエールズ領へと向かう。 

 ウエールズ領は北にあり、今の季節でもかなり朝晩が寒くなってきていると聞いた。

 馬車は休憩に一度止まっただけだった。

 長い行程を何のいたわりもなく、優しい言葉をかけてもらうでもなく、馬車に揺られて行くのは若い娘の身体には辛かった。

 ウエールズ侯爵は一足先に出発し、私は侍女のサラと二人で馬車に乗り込み、後は護衛の騎士団が馬で数人。

「大丈夫ですか? リリアン様、もう少し労ってくれてもよさそうなものですけど。馬車で長距離の旅などこちらは経験ないんですからね」

 とサラが揺れる馬車に閉口しながら言った。

「そうね、私はあまり歓迎されていないようだしね。それよりもサラはいいの? 王都の伯爵家から離れて一緒にウエールズ領へなんて、あなたが気が進まなければ帰ってもいいのよ?」

 と私が言うと、サラはにやっと笑って、

「私がリリアン様にお仕えして何年だと思います? 泣くか、毛布にくるまって出てこないか、のリリアン様の最近の変わりよう。まるで人が変わったかのようです。ご主人様や奥様、エドモンド様へも一歩の退かないお嬢様が侯爵家でどんな若奥様になられるのか楽しみで仕方ありません」

 と言った。

 サラは良い子だった。

 私つきの侍女だが、よく働くし、優しい。

 ウジウジ泣いてばかりのリリアンにも精一杯優しく接してくれた。

 両親や兄、さらに家政や大勢の侍女、メイド、召使い、伯爵家にはたくさんの人間がいたけれど、リリアンに対して優しく、役立たずと言わなかったのはサラだけだと思う。

 彼女だけはよいお婿さんを探してあげたいんだけどなー、と思う。

「リリアン様、見えてきましたわ!」

 サラが馬車の外を指した。

 広大な領地のまだ遠くの方に、王宮かと思うほどの巨大な城が建っていた。

「凄い……何て大きな……確かに、国王に次いで広い領地を所持していて、他にも侯爵の地位を持っている貴族はいるけどれど、規模も資産も太刀打ち出来る者はいないらしいわ」

「へえ、凄いですね。奥様が小躍りして喜ぶはずですね。あ、すみません」

「いいわ、本当だもの。まさか役立たずと罵ってきた娘がこんなお金持ちの所へ嫁ぐなんて思ってもみなかったでしょうし。でも、まあ、それもいつまでかしらね。あなたも聞いてるでしょ。鎧の中は悪魔将軍ですもの。すぐに離縁されるかもしれないわ」

 と私は予防線を張った。

 それこそが私の目的で、ここにいる間はせっせと金目の物をみつくろって、今後の生活の為にいろいろするつもりだ。 

 もっと魔法も使いこなしたいし。



 やがて馬車は門をくぐったが、大きな城はまだはるか向こうの方だった。

 街路樹を通って、花園を横に見て、そして噴水の池をぐるりと回ってから、馬車はようやく止まった。

 馬車の扉が開き、騎士の一人が私の手を取った。

 長時間の馬車で疲れ切っていたが、そこは意地で、私は笑顔で馬車を降りた。

 だが出迎えの人間はほんの数人だった。 

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