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超いじめられっ子ヒロイン

「リリアン・ローズデール伯爵令嬢」が今朝、起きてからの私らしい。

 これが今流行の異世界転生、それはすぐに理解した。

 だって私の周りに羽の生えたちっさいおっさんがふわふわ飛んでる。

 え、何、これ、妖精? 妖精ってちっさいおっさんだったんだ。

 自分でも剛胆だとは思う。思わなきゃやってられないぞ、こんな状況。 

 もちろん、脳の半分に今まで生きてきた伯爵令嬢の記憶はある。

 消したい記憶。

 超いじめられっ子て。


 そしてこれは「グランリーズ王国物語」という本の話だ。

 だからこのリリアンというヒロインが愚図で泣き虫で気弱な娘だって事も知ってるし、良い点はリリアンの美貌と聖女並の魔法力。だけどそれを良い方向へ使えない女、リリアン。びっくりするほど自己肯定力が低く、何も出来ない泣き虫を自負する女。

 そして物語は完結していないどころか、まだリリアンとモブしか登場しておらず、この先どんな展開なのかは私にも分からない。


 私は本を読むのが好きだった。

 図書館で本を借りて読むしか楽しみのない前世だった。

 その世界の中では本を読んでしか私は息をつけなかった。

 前世の私は30歳で仕事、家事、夫の浮気、悪気のない姑のいびり、舅の介護、子供が出来ない事へのヒソヒソ話に耐えかねていた妻で嫁で正社員で、そしてとても疲れていた。

 それから逃げ出したかった。

 ブラック企業も真っ青だ。

 息抜きのはずに選んだファンタジー小説は最悪。

 リリアンが自分の言いたい事を我慢していてうじうじしてるのがイライラの限界、もう読むの止めようと思ってた頃、普段からの無理がたたって自分が過労で倒れて死んだんだっけな。

 やれやれな人生だった。



「おはようございます。お嬢様」

 と侍女が湯おけとタオルを運んで来た。

 記憶からするとお付きの侍女のサラ。

 ブロンドでほっそりしたよく働く娘だ。

「おはよう」

 と言ってサラの顔を見ると、めっちゃびっくりしている。

 そりゃそうか、

 メイドに「おはよう」を言うだけでも呼吸困難になるような女、リリアンだ。

 湯で顔を洗うのから肌、髪の毛の手入れ、着替え、そしてようやく食堂へ行く為に自分で動き出すといういい身分。

 鏡の前で座り、髪を結い上げてもらったリリアンは素晴らしく美しいが、目線がオドオドしててイラッとする。

 こんな生まれたての子犬みたいなリリアンを続けるのは私には無理だ。

 だからここで私がリリアンなら、せめて人並みな令嬢にして目指そうハピエン。

 サラは私をまじまじと見た。

 大きな声で「おはよう」なんて生まれて初めて言ったんじゃないかな。

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