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乙女なカレーの隠し味

 野外学習一日目。今日の夜ご飯は自分たちで作るカレーライスだ。

 男女三人ずつの六人一班でカレーライスを作る。私たちのグループは男子が炊飯を、女子がカレー作りを担当することとなった。


「暦、例のものはちゃんと持ってきた?」


 にんじんの皮を向いている私に萌ちゃんが聞いてくる。彼女の方を見ると期待に満ちた双眸を私に向けていた。


「うん。今ポケットに入ってる」

「さすがは暦。優等生は忘れ物をしないね」


 私たちはカレー作りでとある作戦を企てていた。それは私のポケットにある『恋叶チョコ』を隠し味として、カレーに入れること。


 恋叶チョコは巷で話題になっているチョコだ。好きな人と一緒に食べると恋が成就するという言い伝えがあるのだとか。


 私たちは二人で協力して、ひとつ五百円の恋叶チョコを買った。あとはチョコをカレーに入れて、みんなで食べるだけ。相沢くんを含めた私たち班のみんなで。


「それでタイミングはいつにする?」

「ルーを入れるタイミングにしよう。ルーもチョコも同じ直方体をしているからルーをチョコと同じ大きさに刻んでバレにくくする。チョコの色が少し濃いのが難点だけど、一瞬のことならバレないと思う」

「そこまで計算してるんだ。暦、本当に相沢くんのこと好きなんだね」

「あんまり声に出して言わないでよ」


 私は萌ちゃんの口を手で押さえると周りを見渡した。幸い、目の前にいる優ちゃんにしか聞こえていないみたいだ。優ちゃんは私たちの様子をにこやかな表情で見ていた。

 安堵で息を吐くと萌ちゃんから手を離す。


「変な言動は見せないこと。先生や他の子たちに怪しまれるかもしれないから」

「ごめん、ごめん。了解しました」


 私たちは互いの与えられた作業に戻る。萌ちゃんは豚肉と湯沸かしを、優ちゃんは玉ねぎとジャガイモを、私はにんじんとルーを担当する。にんじんを切り終え、ルーを手に取る。左右を確認し、こちらを見ているのが優ちゃんだけだと分かるとルーを三つに切り、ポケットから恋叶チョコを間に挟んでラップで再び包む。特に誰かに声をかけられることはなかった。優ちゃんは私の行動が面白かったのか声に出さないように笑う。それを見て何だか恥ずかしくなった。


 とにもかくにも準備はできた。にんじんは優ちゃんに託し、二人でかまどに向かう。

 かまどには相沢くんの姿があった。私は思わず息を飲んだ。落ち着けと心で唱える。


「お待たせ。材料持ってきたよ」

「ほいさ。じゃあここに入れて!」


 優が萌の用意した鍋の中に材料を入れて炒める。その様子を相沢くんと隣同士で見る。心臓が高鳴るのを密かに感じた。


「完成が近づいてきたな。それはルー?」


 相沢くんが指さす先は私の持っていたラップだった。バレないように両手で見えなくしていたので気になったのだろう。


「ルーだよ」


 見せることなく、ただ質問に答える。相沢くんは「そうか」と言って、特に追及することはなかった。


 水を入れ、煮込んだ後にルーを鍋に入れる。チョコは瞬時に沈んで姿は見えなくなった。だから誰も気づくことはなかった。

 無事カレーが完成し、ご飯の盛った皿にルーを入れる。湯気の立つ暖かくて美味しそうなカレーライスが出来上がった。


「いただきます」をしてカレーをいただく。

 これで相沢くんと恋叶チョコを一緒に食べられる。そう思うとなんだか一気に緊張が走る。スプーンを持つ手が微かに震えていた。


 すると突然、耳元で羽の音がした。虫に気づいた私は追い払うために腕を振るう。振るった腕は運悪く自分の皿に当たり、ズボンを介してカレーが地面にぶちまけられた。

 ズボン越しにくる熱さで肌に痛みが走る。しかし、自分の心の痛みが凄まじく気にはならなかった。せっかくの相沢くんとの恋叶チョコが台無しになってしまった。


 先生に連れられ、施設に戻って着替えをする。一日目からついていない。悪いことをしたバチが当たったのだろうか。

 着替えを終え、涙目状態の最悪な気分で戻ると相沢くんが自分の席で待っていた。彼の前には手をつけていないカレーがある。


「おかえり」

「ただいま。それは?」

「何も食べねえとお腹空くだろ。だから半分こしようと思って。一緒に食べないか?」


 相沢くんの言葉に空いた口が塞がらなかった。そうだ。だから私は相沢くんのことを好きになったんだ。私は相沢くんに向かって力一杯の笑顔を見せた。涙は消え、心の傷はすっかりと癒えていた。


「うん! 一緒に食べたい!」

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