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趣味を聞くのが趣味な女

「お隣よろしいでしょうか?」


 有名カフェチェーンへと赴いた私はレジでコーヒーを頼むと、カウンターでパソコンをいじる気さくな雰囲気の男性に声をかけた。


「良いですよ」

「ありがとうございます。お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ございません」

「いえ。自分はまだ学生なので、仕事とかはしていません。大学の課題が終わったので、今はネットで情報収集しているんです」

「そうだったんですね。どんな情報収集をしていたのですか?」

「えっと……」


 私の発言に彼は戸惑いを見せる。どうやら怪しい人物だと思われたみたいだ。前のめりに聞きすぎたなと反省する。


「出過ぎた真似をしてしまいましたね。すみません。私は人の趣味を聞くのが好きでして、もしよければ教えていただけないかなと思ったのですが……」

「なるほど……今はテクノロジー関係の情報を集めていたんです」


 彼は申し訳なさそうにする私に対し、優しく微笑む。誤解が解けたようで良かった。やはり、見た目通り優しい青年だ。

 私の趣味は『人の趣味を聞くこと』。この趣味を好む理由は大きく分けて2つある。


「テクノロジーとは具体的には?」

「AIとかNFT、あとはBMI等ですね」

「アルファベットばかりで難しそうですね。でも、なんだか凄そうです」


 1つは自分の知らない新たな分野について触れることができること。ネットがあるので、あらゆるものは検索すれば情報を得ることができる。ただ、検索するには『情報の要素』を知っていなければいけない。何も分からない状態では検索もできないのだ。それを補ってくれるのが人の趣味を聞くこと。多種多様な趣味について触れることで世界にはどんなことがあるのかを知ることができる。


「確かに初めて聞くなら難しいかもしれないですね。今の3つの説明をするならば、AIは人間が頭の中で行っていることをコンピュータに模倣させること。『人工知能』といえば理解しやすいかもしれません。NFTは複製を得意とするネット環境で、唯一の作品として存在するもののことを言います。BMIはブレイン・マシン・インターフェイスの略で脳と機械を繋げる技術のことです」

「脳と機械を繋げる……なんだかとても怖そうな技術ですね」

「聞く限りでは恐怖を抱くのはしょうがないと思います。でもですね、とても有用な技術なんですよ。例えば、脳卒中で腕が麻痺してしまった時に、BMIの技術を使えば腕を動かすことができるようになるんです。まず脳と腕にマシンをつけてですね……」


 自分の興味のある分野について話す時の彼の目はとても輝いていた。身振り手振りを使って、必死に私に想いを伝えようとしてくれている。


 これこそが、私がこの趣味を愛するもう1つの理由だ。大抵の場合、話をする時は『悩みや愚痴』といったネガティブなことが多い。だが、趣味のみに焦点を絞ると必ずと言っていいほど相手はとても楽しくポジティブに会話をしてくれる。私は誰かの楽しい姿や喜んでいる姿を見るのがとても好きだ。


「すみません、長い話に付き合わせて」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。気づけば30分ほど経っていた。時刻は14時30分を示していた。


「いえいえ。とても面白い話を聞くことができて私としては嬉しい限りです。それに今日は特に予定もないので、お気になさらず。逆にそちらは大丈夫でしょうか?」

「実は15時からバイトがありまして。すみませんが、退席させていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい。この度はとても丁寧で楽しいお話をありがとうございました。また、どこかでお会いできることを願っております」

「こちらこそ。それでは」


 彼は荷物を片付けると再度こちらにお辞儀をして店を後にした。私は先ほどの話に想いを馳せながらコーヒーを口にする。

 テクノロジーは日々進化している。今日は良い情報を得ることができた。

 黄昏ているとポケットに入ったスマホに通知が入る。見ると上司からメッセージが送られていた。


『例の組織の居場所がわかったので、情報をリークする。これより潜入捜査を実施せよ』


 短く端的に文章は綴られていた。

 私の職業はスパイ。敵の情報を取得するプロ。仕事柄、常に人の邪悪さを目の当たりにしている。だから私は『人の趣味を聞くこと』を趣味としている。プライベートくらいは人の善良さに触れていたいのだ。

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