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頭顱寄集団塊 その1

「はぁ、はぁ」


暗い夜道を一人の女性が走っていた。

急いでいるのではなくなにかから逃げるように命を削って走っていた。

その女性の後ろには赤い液体でできた細い道ができている。


彼女の背中は大きな刃物で切られたのか大きな切り傷があった。

赤色だけではなく白色や桃色のよくわからないもの、いや理解したくないものまで見えている。

今すぐ倒れてもおかしくはないほどの重症だった。


だが彼女は走り続ける。

その足が止まったとき、自分の心臓もまた止まってしまうから。

何が何でも止まるわけには行かない。


彼女は、死にたくない、と大声で叫びたい気分だった。

だが叫ぶことができるほどの余裕はなかった。

ただ走り続ける。誰かに会うために。

アドレナリンによって緊迫していた思考に余裕ができたからかのんきにも、あった誰かができれば知人じゃないといい、彼女はそう思った。

今自分を追いかけている存在は常識外の、生身の人間を簡単に殺すことができる化け物。

誰かに会ったらソレを押し付けるつもりだった。

自分を囲っていた男どもは簡単に殺されてしまった。

大の男がいともたやすく殺された時点で彼女は自身の手でソレをどうにかすることができないことを理解した。

ちらりと後ろを振り向き、やつがいるのか確認する。

後ろには真っ黒な闇と自分の血が溢れている道しかない。

少しの安堵と不安感を感じながらも前を振り向いたその時、


ぬちゃりと前から何かが落ちる音が聞こえた。


先程までの余裕が消える。

体力を温存するために減速してしまった足を無理やり動かす。

足が軋む音が聞こえたような気がした。

足はもう限界だった。

だが止まるわけには行かない。

恐怖が体を突き動かす。

前へ前へと体を押し出す。

走って、

走って、

走って、

走って、

走って、

走って、

走って、

走って、気づいた。

目の前に血が垂れてできた線があることに、気づいた。

前に自分と同じように怪我をした人間がいると愚かにも夢想してしまった。

しかし彼女は理解した。

その血が自分のものであることに。


よく考えればすぐに気づくことだった。

1時間は走っているのに誰にも会わない、それどころか曲がり角すら当たらない。

最初から逃げることなんてできなかった。

その事実に気づいてしまったが故に彼女は折れてしまった。

足が一歩も動かなくなった。


ひたりと液体が落ちる音が聞こえた。


彼女は目を閉じた。

もう何も感じたくなかった。

少しでも楽に死ねるように、自分の死に様をその目に焼き付けないために。

ズルリと何かを引きずるような音が聞こえる。

ゆっくりと近づいてくる。

しかし彼女は動かない。

諦めていた。生きることを諦めていた。


「大丈夫ですか。」


女の人の声が聞こえた。

心が安らぐような他者を心の底から心配しているようなそんな声が。

後ろには化け物がいるはずなのに、女性の声が聞こえた。


「そんな怪我しているのになんで走ってるんですか?」


何故、女性が後ろにいる。

彼女の心に疑問が浮かんだ。

だがそれ以上に安堵が心を包み込んだ。


「ずっと、追いかけていたのに全然追いつけなくて。」


涙が溢れ出す。

感情が溢れんばかりの涙となって出てくる。

自分の逃げた時間は無駄ではなかったと心の底から安堵した。

彼女は思わず振り返ってしまった。

振り返ってしまった。


「デモ追イツイタ。」


くるくると回る。

視界が、感覚が、体が、くるくる回る。

何もかもがくるくる周り、落ちた。

体から何か大事なものが抜けていく感覚。

あれ?私の身体はどこ?

最後に見えたのは頭がない人の体と...

彼女の意識はそこで途絶えた。





















「私の姉を探してほしいんです。」


駅に近くも遠くもない、都会と田舎の境目のような所に一つのビルがあった。

3階建てでところどころ汚れがあり築何年か経っていることがわかる。

そのビルの一階にある神崎探偵事務所。

探偵事務所の応接間で12歳くらいの少女が声を出した。


「姉、ねぇ...」


その声に反応するものがいた。

身長は170cmはあり、白髪の美形、モデルのような体型の女性が椅子に座っていた。

なんとなく不安感を感じるように微笑み、余裕を見せるかのように足を組んで座っている。

なぜだかわからないが、その姿からはなんとなくこの人なら大丈夫だと信頼感を感じてしまう。


「ダジャレですか?」


その後ろから男性の声が響いた。

女性より少し高い身長、黒髪、一般的な顔つき、少し引き締まった体、少しだけ目つきが悪い。

この女性と比べると些か平凡に見える容姿を持っている。


「別にそういう意図があったのではないんだがねぇ。」


「そうですか、つまんないですね。あ、粗茶ですがどうぞ。」


「ああ、どうも」


少女は緑茶を受け取った。

緑茶は煎れたばかりなのでまだ熱く、猫舌である少女は少しだけ口に含んでからテーブルに置いた。


「ああ、自己紹介がまだだったね、私は佐々波天狐。そこの探偵の助手をしている。」


「どうも、探偵の神崎蓮です。よろしくおねがいします。」


二人が自己紹介をした。

その内容に少女は少し驚いたようだ。


「え、あなた助手だったんですか?てっきり探偵だと思ってました。」


少女は堂々としたた佇まいから佐々波が探偵であると考えたらしい。


「まあ分かるとも、ここに座っているからそう思ったのだろう?」


少女にニヤリと笑いかける。


「この椅子は私が買ったものだからね、こうやって堂々と座れるのだよ。」


佐々波は椅子を軽く撫でながらニヤニヤとしながら語る。


「私の財布からですけどね。」


神崎が軽い嫌味を言う。

だが佐々波はまるで気にしていない。


「まあ誕生日プレゼントというやつさ、椅子がほしいと言ったら彼が10万わたしてきてね、自分で買ってこいといったんだ。」


佐々波はやれやれと言わんばかりに首を振る。


「ムカついたから買った椅子を床に固定したんだ、だからわたしがここに座っているのだよ。」


「はぁ、そうなんですか。」


神崎の話に少女はあまり興味がないらしい。


「ああ申し訳ない、話題がそれてしまったね。えっと君はお姉さんを探してほしいんだっけ?」


「はい。」


「ちなみに理由をお聞きしても?」


人探し...簡単には言うが個人情報の流出は犯罪につながる。

ストーカーや詐欺、様々な犯罪に使われる。

犯罪に加担しないためにもしっかりとした理由や証拠が必要だ。


「姉が、一週間前から連絡がつかないんです。」


一週間連絡がない、そこまで心配することだろうかと神崎は考えた。

連絡がつかないからといって、わざわざ探偵に依頼するほどのものなのかと。


「姉ですか、あなたを見る限り、あなたのお姉さんは成人に近い年齢に思えますが。」


「わざわざ依頼する必要があるのかね?」


佐々波も疑問に思っているようだ。


「まあ連絡がつかないことはよくあるんですが、今はタイミングが悪くて...」


少女は気まずそうに話す。

身内に連絡がつかないことがよくあるという事実に恥ずかしさを感じているようだ。


「タイミングってのは?」


神崎はタイミングについて尋ねた。


「母が病に侵されまして、医者が言うにはもう長くはないと。」


少女は神妙な顔でそう言った。

対して二人はそのことに対して興味がないようで、


「ああ、死ぬ前に見舞いに来いってことね。」


「医者にはいつ言われたのですか?」


冷静に返答した。

少女は二人の反応をあっさりとした反応を見て、少し驚きながらも返答する。


「1週間前です、その時に連絡したのですがずっと返信が来なくて、既読にもなっていないんです。」


「一週間より前から連絡が取れなくなっていた可能性はありますか?」


神崎が冷静に推察する。

少女は少し考えてから、スマホを起動しSNSを見る。


「最後に連絡を取ったのは9日前です。」


「わかりました。」


神崎は少女の話の内容を手帳に書き始めた。


「OK、OK、事情は分かった。君の依頼を受けようじゃないか。」


ニタニタと笑いながら佐々波は少女に話しかける。


「本当ですか!」


少女は勢いよく顔を上げる。

だが次第に勢いが弱くなる。


「依頼料はどれくらいかかるんですか?」


相手の機嫌を伺うように少女は尋ねた。

そんな様子をあざ笑うように佐々波は、


「そんなにかからないよ、探すのは我々二人だしね。」


子犬を落ち着かせるように声をかけた。

神崎は手帳の紙を一枚破り、少女に手渡した。


「これが大体の依頼料です、料金内容もできる限り細かく書きました。」


少女は神の内容をまじまじと見て、安心したように肩を下した。


「想像していたより安くて安心しました。」


「一応それで最高金額です、捜査が早く終わればもっと安くなる場合もあります。」


神崎は少女の様子を見て、あまり裕福な家庭ではないことを確信した。

それなのにもかかわらず探偵に依頼するということはよほど切羽詰まっているのだろう。


「なるほど...わかりました。」


少女は少し考えてから、


「お願いします、姉を捜索してください。」


神崎探偵事務所に依頼することに決めた。

佐々波はにやりと頬を釣り上げて、


「契約完了だ、どんな形であれ、あなたのお姉さんを見つけよう。」


そう語りかけた。


「まだ契約していませんよ。こちらが書類です、内容の確認とサインを。」


神崎が冷静に答えた。

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