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8 野バラが王宮にきた理由

翌日から野バラの教育は始まった。

始まったからと言って野バラはいつもの生活習慣を改めるわけではなく、朝起きたら湯を浴びてゆっくりとフルーツや花を食べ、スアラに身支度を整えてもらっている間に読書をする。


しゃっきりとした意識になると講義を受ける部屋へ向かい、スアラが扉を開けるとこれでもかと顎をあげたサブリナが待ち構えていた。


「遅い!今日からマナーを始めると言ったはずです!」

「いつから始めるかなんて聞いてないもの、だったらいつでもいいじゃない」

「教えを乞う者であるならが敬意を見せなさい!まったくこれだから得体の知れぬ蛮族は」


ぐちぐちと文句を言いながら「そこに座りなさい」と椅子を指したサブリナは、今後の予定を話し始めた。


「今後1ヵ月、必要最低限ではありますがマナーと教養を教え込みます。一月後公爵家へ向かいご挨拶をすることが叶います、光栄に思いなさい。本来あなたのような未熟な平民が顔を合わせていい方々ではないのですがね」


じゃあ挨拶しなくてもいいじゃない、と内心文句を言いつつもこれも体験よねと野バラは気軽に考えていた。




「背筋が曲がっています!もう一度」


ひたすらにお辞儀をさせられた野バラは早々に飽き飽きしていた。サブリナの手本を見て同じようにするも違うと怒鳴ら再度させられる。このマナー教育から抜け出すことができないでいた。


「飽きた」

「無駄口を叩くんじゃありません!お前は言われた通りにすればいいのです。あなた、王宮に入るのですよ、あなたが酷い有様では公爵家が恥をかくのですからね!」


正直そこはどうでもいいと思っている野バラは話半部に聞いて、とにかく早く終わらせようと必死にやり続けた。


「よろしい、では小休憩のあと、次は歩く際の足運びについてです」


(足の動かし方まで学ぶの……)


体験とは言うが、やっぱり逃げるべきか。もんもんと迷いながらも意外と真面目に続け、1ヵ月たったころには「はぁ、このレベルでは本来表には出せませんが……」とサブリナは言いながらも一応の合格を出したのだった。





そうして王都にある公爵家へ向かう時になって、野バラはイルミネの研究室にやってきていた。


「やっと王都へ向かえるね!楽しみだなあ、あっちの仲間たちに君を紹介するの」

「……そう」

「俺はこっちを引き払う準備をするから、後で向かうからね。向こうでのんびり待っててよ」

「本当にのんびり待てるのかしら」

「君を丁重に扱うようにって伝えてあるから!大丈夫、問題ないよ」


そう言ってやってきたはずのサブリナは酷い態度だったわけだが、イルミネは気付いていない。基本的に下の者が自分に悪意を向けるはずがないと思っているのだ。


「じゃあ、あなたにはわたくしたち喰花族が抱えている最後の秘密を教えてあげるわ」

「え⁉そんなものがあるの⁉」


目を輝かせるイルミネに向かってにっこりと笑った野バラは、ぱっと両手を上に舞い上げた。


「……今、いったいなにを……!!?」


不思議そうに首をかしげていたイルミネだったが、突然目を見開いたままバタンと床に倒れ込んだ。ピクリとも動くことができない体に驚愕している様子を野バラはしゃがんで覗き込み、きゅっと前髪を握って上に引き上げた。


「わたくしたちはね、植物から毒も薬も創り出すことができるの。逃げようと思えばこれをばら撒いてあなたの前から消えることは簡単だわ。でも逃げない。なぜだかわかる?」


野バラはイルミネの顔にぐっと顔を近づけてにやりと背筋が凍るような笑みを浮かべた。


「人生を台無しにしたこと、許してないから。あなたもあなたの家族も国の中枢にいる人たちも、みんな仕返ししてやろうと思って」


前髪から手を放すとがくりとイルミネの体が落ちる。痺れ粉は全身くまなくしびれる代物で、しばらくは食事もしにくいし声も出しにくいだろう。


「心配しなくてもその症状は数日間でもとの状態に戻るわ。だからってあなたの実家や王宮に余計なことは伝えないことね、手が滑って致死毒をばら撒いてしまうかもしれないもの。いい?邪魔はせずにいることよ、そしてわたくしのようなおかしな生き物に手を出したことをせいぜい公開してなさいな」


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