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第7話 実は凄いみたい

 しばらくの間男がはしゃぎ終わるのを待つと、我に返った男が恥ずかしそうに咳払いをした。


「ゴホンッ。…すまない、待たせてしまったね。私はヘルストラム辺境伯の命でこの洞窟で起こった火災事故を調べに来た、ラルク=オールソンだ。」


 ラルクがアナに手を差し伸べたが、アナはその手をじっと見つめて動かなかった。


『…アナ、挨拶しなくて良いのか?』

「…だって食糧をもらったらもうお別れするのよね。挨拶する必要ある?」


 ラルクはアナの言葉を聞くと、差し出した手を引っ込め鞄を渡した。

「あー…これに食糧が入っている。君は、ここに住んでいるのかい?ご両親も一緒?」

「シルバ達と一緒に3人で住んでる。中の食糧があればいいから、鞄は返す。」

「でもどうやって、あ」


 アナは鞄を開け、中から食糧を取り出すと魔法道具マジックアイテムの指輪の中へ収納していった。


「…それは森で拾ったの?」

「お兄様にもらったの。」

「そうか、お兄さんがいるんだね。」

「今はいないわ。」

「…よかったら今晩君の住んでる場所で泊めてもらえないかな?その、この雨で随分と濡れてしまったし、テントはほら。」


 小屋に連れて行くなんて面倒だ、と思ったが、男が指し示したように、ハリーによってテントはボロボロになってしまった。食糧までもらい、その恩を無碍にするのは流石のアナも気が引けた。


「…分かった。でも何もないから期待しないでね。」

「ああ!ありがとう、助かるよ!」


 ラルクがアナの家に行きたがったのはテントが壊れたためではなかった。

 このモンスターがウヨウヨ生息する森に少女がいることも不思議であるが、それ以上にモンスターを従えていること、そして先程の治癒の魔法の正体が知りたかった。またアナが使っている魔法道具マジックアイテムは本来かなりの金額のもので、こんなところに住んでいる少女が持っていることも不思議で仕方がなかった。




「ここ。」

 シルバの背に乗り移動するアナ達をラルクが後ろから走って追う形で、ボロボロの小屋へと戻って来た。


「これは…昔侯爵領の人間が作った小屋か?」

 マクベルド侯爵は欲深い人間で、この森の管理は古くから辺境伯が行なっているにも関わらず、侯爵領側の森の管理が杜撰ということで、侯爵領側の森の一部の土地を譲ったという話を聞いたことがある。小屋から南は侯爵領地になっているはずだ。


「君は侯爵領の人間なのか?」


 アナはラルクの質問に答えることなく小屋の中へと入って行った。後を追い小屋の中に入ると、そこは錆びついた鍋に所々割れた食器、木製のテーブルの上にはボロボロの人形とアナお手製の神様が置いてあるだけだった。


(こんなところにこんな幼い少女が住んでいるのか?一体どうして?)

 ラルクの疑問は募る一方だったが、アナが質問に答える様子はなかった。


「濡れてるから一緒に乾かしてあげる。」

「え…」

『ふぁ〜アナ、ありがとう!』

『うむ、風の使い方が上手くなったな。』


 アナがドライヤーの要領で小屋の中を暖かい風で包み込むと、先ほどまで濡れていた髪も服も一気に乾いていった。


「これは凄い!君はまさか、妖精なのか!?」

「??…多分、普通に人間。」

「だが君は妖精の力を意図も簡単に使っているじゃないか!」

「なんで???」

「なんでって…」

 空いた口が塞がらなくなってしまったラルクに代わり、シルバが説明を始めた。


『アナ、普通人間は貰えても1つの妖精からしか加護はもらえない。また妖精は自然を愛するもの。自然を壊す恐れのある人間が妖精の力を借りるときは、都度断りを入れないと使わせてもらえないのだ。』

「そうなんだ。でも私は使えるよ。」

『それはアナが直接妖精から加護を得たのではなく、我やハリーを通じて使っているからだろう。我らは加護を得れば断りなく使わせてもらえるのだ。』

「へ〜そうなんだ。」

「…もしかして、君はモンスターの言葉がわかるのかい?」

「え?」


 ラルクの言葉に再びシルバを見つめる。


『…モンスターの言葉は普通分からない。ハリーの言葉も最初は分からなかっただろう。』

「でもシルバの言葉は最初から分かったよ?」

『それは我がモンスターの中でも位の高い、フェンリルだからだ。』

「モンスターにも位があるの?」

『ある。我のように最上位のモンスターともなれば、意識すれば人間の言葉も使える。ハリーなどの中級モンスターはモンスターの言葉しか話せない。更に下のスライムなどにもなれば、言葉という概念すら持たないので話すこともできん。』

「へぇ、知らなかった。じゃあ私の代わりにシルバがこの人と会話することはできるのよね?お願いしてもいい?」

「…仕方ないな。」


 アナの面倒くさがりは今に始まった事ではない。食事すら注意しなければしないのだから、ラルクの質問にアナに代わって答えるくらいどうということはなかった。


「ラルクと言ったな。」

「わっ、しゃ、喋った!!!」

「我はフェンリル。辺境伯の人間ならば知っているだろう。」

「え、貴方様があのフェンリル様ですか!!!こ、これは、失礼いたしました!!」


 ラルクの様子を見てアナも目を丸くしてシルバを見つめた。

「…我はこの森を守っているからな。同じくこの森を管理している辺境伯の人間達は我のことを守り神として崇めておるのよ。」

「そうなんだ。」


「…ラルク、アナは人間だが訳あってここで我らと暮らしておる。この子の力は特別なのだ。この力の存在が知られたら…分かるな?」

 ラルクはシルバの言葉に唾を飲み込んだ。


「はい。私は治癒の魔法を初めて見ました。元々私は昔の怪我で片目が見えていなかったのですが、それすらも元に戻していただき、感謝してもしきれません。今回私は辺境伯の命でこの森を調査しに来ましたが、フェンリル様のことも、アナ様のことも、決して口外しないと誓いましょう。」

「うむ。我はこの森を常に監視している。もし貴様が帰った後に人間がやって来たら、分かっておるな。」

「はっ、神そして精霊に誓って、皆様のことを話さないと誓います!」


 グゥゥゥ…


 真剣な話をしていたラルクとシルバの間に、アナのお腹の音が割って入った。

「…パン、食べてていい?」

「ああ、すまなかったな。食事にしよう。川に獲物をかけてあるから少し待ってろ。」

「うん。えっと、オー…オーなんとかさん?」

「ラルクでいいよ。」

「ラルクさんのテント、ダメにしちゃったからご飯は一緒に食べよ。」

「ありがとう!」


 アナはシルバが持ってきてハリーが処理したモンスターをいつもの3人分ではなく、4人分に切り分け、ラルクからもらった塩を振りかけて焼き始めた。


(驚いたな…あれは尾の部分は切り落とされているが、バジリスクじゃないか…この子はこんなものを食べているのか…)



 小さな少女が手際よくモンスターと共に危険なモンスターの肉を焼いていく姿は、異様としか言いようがなかった。


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