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第4話 もふもふ大歓迎

 神様にやる気を返してもらったからと言っても、アナの心境に大きな変化は見られず、もふもふしたいということ以外、強く願うことはなかった。

 だがミカエルがくれた魔法道具マジックアイテムの中のものは一週間もしない内に底を尽きてしまい、食べなくても眠っていればなんとかなる、というアナを叱ったのはシルバだった。


「生きていくためには糧を得なければならぬ。アナ、何か食べろ。」

「光の精霊の加護で死なないんじゃないの…?」

「光の精霊は治癒の魔法が使えるだけだ。死んだものを生き返らせることはできない。餓え死ぬことを防ぐことはできないだろう。」

「そっか、じゃあ…」


 シルバが狩ってくるモンスターたちはどれも血まみれで、食欲をそそるものはなかった。しかし起きていれば常にグゥグゥと音を立て、胃の中が空っぽであることを体は主張してくる。


(この鳥っぽいやつならいいかな。でも流石に生では食べられないかも。一回洗わないと無理だし…)

「シルバは水とか火を出したりできない?」

「無理だ。水はそこの川のものを使うといい。火なら…そうだな、ちょっと待ってろ。」



 シルバがまた森の中へ消え、数分もしない内に戻ってくると、アナの目の前に両手サイズほどの針ネズミを吐き出した。


「これは火針鼠ファイヤーヘッジホッグ。身の危険を感じると背中に生えてる針から火を出す。こいつをかまどに入れておけば火が使えるぞ。」


 シルバに襲われたからだろうか。弱々しく震え、体からは血が出ている。


「…この子死んじゃうわ。」

「そ奴らは普段穴の中に入っているから見つけるのが大変なんだがな、今日狩りに行った際に転がっているのを見つけたのよ。モンスターに襲われたか人間の罠にでも引っかかったんだろう。まだ息があるからしばらくは火を起こさせられると思うぞ。」


 自慢げに鼻息を荒くしているシルバをよそに、アナは震える火針鼠ファイヤーヘッジホッグをそっと抱き抱えた。


「…痛いの痛いの飛んでいけ。」

 何となく発したその言葉がキーになったのか、アナの手から光が放たれ、火針鼠ファイヤーヘッジホッグの怪我は瞬く間に跡形もなく消えていた。


「良かった。これで治ったね。」

「アナ、怪我を治してしまったら逃げてしまうぞ。」

「いいの。無理矢理やらせるのは可哀想だし、でも…逃げる前に1つだけお願いを聞いてくれる?」


 言葉が分かっているのか、火針鼠ファイヤーヘッジホッグはアナの手から逃げ出すことなくじっとしていた。


「もふもふしてもいい?」

「チュッ!!」

「…ありがとう!!」

「アナ!!!気をつけろ!そいつは…」


 シルバは火針鼠ファイヤーヘッジホッグを触ることの危険性を知っていたため顔を近づけようとするアナを即座に止めようとした。その可愛らしい見た目とは裏腹に、火針鼠ファイヤーヘッジホッグは攻撃的な性格で、気付かず巣穴に近付いてしまい、足が穴だらけになったという事件も多い。火針鼠ファイヤーヘッジホッグは背中の針に火をつけながら、その針を飛ばすことができるのだ。


 アナの顔面が穴だらけに…と思ったシルバの考えは2人の様子を見てすぐに消えた。



「ふわ〜、この背中の針もチクチクっとして癖になる…お腹の方はピンク色で、あったか〜い!」

「チュッ!チュ〜!」

「ふふ、可愛い。スー…ハー…。う〜ん、動物の良い香り…!!」

 アナがお腹の匂いを思い切り吸っても抵抗せず、むしろ自ら擦り寄るその姿はどう見ても敵意はなかった。


「ありがとう、もうケガしないようにね。」

 アナが手から下ろそうとすると、火針鼠ファイヤーヘッジホッグは懇願するかのようにアナの指を握りしめた。


「チュー!チューッ!!」

「??どうしたの?」

「…アナのそばにいたいのではないか?アナは良い匂いがするからな。」

「匂い?ずっとお風呂入ってないからかな?臭くないの?」

「そういうことではない。魔力の匂いと言った方が分かりやすいかもしれんな。我らは鼻が効くからな、アナのそばにいると落ち着く匂いがするのだ。」

「そうなんだ…。」


(神様のくれたもふもふの加護の力なのかな?)


 アナは擦り寄る火針鼠ファイヤーヘッジホッグを再び手に乗せた。

「一緒にいたい?」

「チュ!!」

「じゃあ貴方も今日から私の家族!そうだなぁ…名前はハリーね!よろしく、ハリー!」

「チュー!!」


 アナが名付けるとシルバの時同様、アナとハリーが輝き出し、2人の間に繋がりができた。


『アナ、よろしく!』

「あれ、ハリーの言葉が分かる!」

『繋がりができたからだな。』

「あ!じゃあ…」


 アナは徐に立ち上がり小屋の中のかまどに

「火点いてー!」

と言うと、かまどの中の木がボッと音を立て燃え始めた。


「やったー!これでお肉が焼けるね。シルバの分も焼いてあげる!」

『うむ。火傷しないようにな。』

「うん。シルバ、まずはこれ川で洗いたいから運ぶの手伝って?」

『うむ。任せろ。』


 川まで数メートル。いつもはそこまで行くのも面倒に感じ、小屋にあった鍋をシルバに咥えてもらって水を汲んできてもらっていた。だが今日は初めての調理に少しやる気も出てきたようで、シルバの背に乗りながら、ハリーも共に、3人で川まで移動した。


「んーやっぱりまだ川の水は冷たいなぁ。」

 鳥に似たモンスターを川で洗い流すとドバドバと血が出てきた。


「…時間かかりそう。」

 アナは近くに川辺の石で囲いを作り、その中にモンスターを置き、自然と血が流れ出ていくのを待つことにした。

 その間シルバは狩りで汚れた体を洗い流すように川の中へと入って行っていた。


「シルバ、冷たくないの?」

『気持ちが良いぞ!アナも入るといい。』

「う〜ん…」


 屋敷を追い出されてから数週間が経つ。その間一度も水浴びをしていない。着替えもないため毎日同じ服装。あまり動いてはいないが流石に自分でも臭いが気になりつつあった。


「仕方ない…お天気も良いし、我慢しよう。」


 アナは服も一度に洗えるように、と、服のまま入水した。


「ヒエ〜…やっぱり冷たい…」

 鼻を摘みながら頭の先まで川に入り、軽く体を擦ったらすぐに外へ出た。


『アナ、大丈夫?寒かった?』

『なんだ、アナはもう出るのか?』

「やっぱり、さ、寒い!風邪ひいちゃう!!」


 日当たりの良い場所を選んで座ったが、濡れた服がどんどん体温を奪っていく。ガチガチと唇が震えだしてしまったため、アナは一旦服を全て脱ぎ、ハリーと共に落ちていた木を集めて火をつけた。見かねたシルバも外に出てブルブルと体についた水滴を弾くと、アナを包み込むように座った。


「あ、あったか〜い…。」

『アナの火、好き。あったかいね。』

『アナはやはりもっと体力をつけんといかんな。我と共に狩りに行こう。』

「う〜…狩りかぁ、あんまり興味ないなぁ…。

 夏前でもまだこんなに水が冷たいって知らなかった。シルバにいつも血臭いとか言ってごめんね。夜に水浴びは大変だったね。ふわふわもこもこの毛も水でびっしょりだよね。」

『我は頑丈だからな、気にするな。日中だからやらなかったが、気になるなら風を飛ばして更に乾かせるぞ?』


 シルバの言葉にハッとした。

 シルバ同様にアナも風の精霊の加護を得ている。加えてハリーと繋がりを持ったために火の精霊の加護も得られた。


「乾かす方法あるじゃない!じゃあシルバも一緒に!!スイッチオン!」


 アナが前世のドライヤーの温風をイメージすると、3人は温風の渦に包み込まれた。

『な、何だこれは!アナ!ブワッ!!』

『わ〜アナ、飛んじゃう、飛んじゃう〜!』



 あっという間に体も服も乾かすことに成功し、シルバのふわふわの毛は更にふわふわになった。

「ドライヤー成功!シルバもあったかい風で乾かした方がふわふわになるからこれからはやってあげるね!血抜きも終わったみたいだし、小屋に戻ろ〜!」

『全く、精霊の力をこんなことに使うなど、アナは不思議なことを考えるもんだな。』


 ルンルン気分のアナに連れられ、またシルバがモンスターを咥えてアナとハリーを背に乗せ、3人は小屋へと戻った。その後ハリーの華麗な爪捌きで皮を剥ぎ、塩をかけて焼いただけの鳥っぽいモンスターの焼き鳥は、久しぶりの温かい食事で、アナの体をぽかぽかにした。


(面倒だけどシルバもハリーも美味しそうだし、食事くらいは作ってもいいかな。)

 もふもふすること以外興味のないアナのやる気スイッチも押され、餓死ルートへの道は閉ざされた。



 この日からアナはシルバに包み込まれ、更に顔の横にハリーが丸まっているというもふもふ天国睡眠を得た。


(一生ここで寝てたい…!!)



 アナが何気なく行った風の精霊の力でおこした風に火の精霊の力を加えて温風にするという、異なる性質を持つ精霊の力を組み合わせて使うということがどれほど稀有なことか、まだアナは知る由もなかった。


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