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第2話 行いは無駄にはならない

 私の名前は佐藤サトウ 勝子カツコ。警察官の父に憧れ、幼い頃から正義感が強く、相手がどんな人であろうと悪いことをしていれば止める。考えるより先に身体が動いている。そんなタイプだった。

 小・中・高校・大学と沢山の友人に囲まれ、社会人になってからもみんなから頼りにされる、そんな自分が大好きだった。


 だが、そう思っていたのは自分だけだった。


 最初におかしいと思ったのは、成人式の日。同窓会の案内が自分にだけ来ていなかったのだ。幹事の人のミスだと流していたが、以降同窓会の案内が来たことはなく、SNSで友人の投稿を見て行われていたことを後で知るのだ。

 気にしない気にしない、と自分に言い聞かせていたが、理由を知ったのはいつものように残業中、眠気覚ましに給湯室に珈琲を淹れに行った時だった。


「佐藤さんって学生の頃からああらしいよ。」

「ああって?」

 声の主は、親の介護があると言うので、可哀想に思った勝子がいつも代わりに仕事を引き受けていた女性だった。


「あの正義感の押し付け!偶々私の大学の同期が佐藤さんと中高一緒だったらしいんだけど、いつも突っ走って空気読まなかったんだって。空気壊すからあの人同窓会も呼ばれてないらしいよ!」

「ちょっと、あんた佐藤さんにいつも仕事やってもらってんでしょ〜。」

「エミだって任せてるじゃん!」

「…まぁこないだも佐藤さんが部長に噛み付いたせいで会議長引いたしね。いつもあの人のせいで悪くなった空気のフォローしてるんだから、仕事くらいやってもらわないとね。」

「それそれ!さっ、飲み行こ〜!」


 いつもなら陰口は良くないと注意しに飛び出る勝子だったが、動くことができず、むしろ2人に見つからないようトイレに駆け込み、気付いたら目から大粒の涙が溢れ出ていた。

 自分は周りのために、困っている人のためになればと思って努めてきた。しかし、それが空気が読めない行動だと言われ、嫌われていたことを知ったのだ。


 翌日勝子が出社しようとすると、身体が言うことを聞かず、なんてことのない玄関の扉は重たく閉ざされたいた。頑張って扉を開けようとしても、昨日の彼女達の笑い声が頭に響き渡り、勝子はトイレへ駆け戻った。

 数日休んでも症状は回復せず、病院に行くと「適応障害」と診断され、勝子は逃げるように職場を退職した。


 部屋に引きこもるようになった勝子を救ったのは、スーパーに張り出されていた一枚のポスターだった。

 『動物保護ボランティア募集』

 写っている罪のない犬猫たちが自分の姿と重なり、その場で電話をかけていた。


 可愛い子猫を抱きしめた時、勝子は体中に発疹が出、くしゃみが止まらなくなった。犬猫アレルギーだったのだ。もふもふしたい気持ちを抑え、勝子は黙々と動物達のためにネットに飼い主募集の広告をあげるなど、自分ができる仕事に取り組み続けた。


 そしてある日、台風の接近で家路を急いでいると川に流されている捨て猫の入った箱を見つけた。気が付いた時には川に飛び込み、陸に戻って子猫の無事を確認するも、そのままアレルギーの発作と低体温症により、36歳でその一生を終えたのだった。


 〜 FIN 〜


 まるで映画でも見たかのように赤いカーテンで幕を閉じると、

「地球の動画サイトを参考に見やすくしたんだよ。」

と神様は嬉しそうに言いながらタブレットを片付けた。


「…ハッピーエンドではないんですね。」

「もし前世の君がハッピーエンドなら、君はここにはいないと思うよ。」

「どうしてですか?」


 神様は両の手の人差し指を立て、その上に光の球体をそれぞれ作り出した。

「私は2つの星を管理していると言ったよね?」

「はい。」

「私はこの2つの星の中での輪廻転生を認めている。つまりこの中で死んだ場合、次の人生をどちらの星で過ごすか自由に選択させてあげているんだ。大半は住み慣れた星を選択するけどね。

 君たちが死んだ場合、つまり天国に来た時に私と話をすることになっていてね、前世の君ともそこで会ったんだよ。そして私は生きていた間に行った善悪の行動によって来世へのプラスマイナスのポイントを付けているんだ。

 君の前世はたくさんの命を救った!保護した動物達だけじゃなく、君が幼い頃から行っていた行動も、決して無駄ではなかったんだよ。イジメによって死んでいた可能性のある子も、君のおかげで今も生きているのさ。」

「…はぁ。」


 楽しそうに話す神様には悪いな、と思いながら、自分のことだと言われても、動画を見てもピンとこない以上はアナスタシアにとってそれは他人でしかなかった。


「…つまりね、君の前世はプラスポイントが高かったと言うことだよ。君はすぐに地球ではなくフェルメルテリアへの転生を選択した。そしてその高いポイントで望んだ願いが」

「もふもふ」

「そう!もふもふしたい、ということだったんだ!これには何億年と神をやっている私でも初めての願いでね、驚いたよ。動物を愛でたいと言う人間の気持ちは正直私には理解し難かったが、彼女の話を聞きながら、新しく『もふもふの加護』を作ったんだ。

 そして次に彼女が願ったのは、これもまた驚いた!なんとやる気をなくしてくれと言うものだった。その正義感の強さによって、来世でより良い人生が歩めるようになったというのに、彼女はそれを望まなかった。

 そしてその2つだけで他は何も望まないという欲の無さにも驚いたね。だから特別に容姿は整えておいたんだ。」


 そう言われてみれば、孤児院でもまるで天使のようだと言われたことがあるのを思い出した。



「ただやる気を減らすのは初めてのことだったから少し減らし過ぎてしまったようだね。せっかく生まれ変わったのに死んでしまってはもったいない。少なくとも死なないよう、自分のやりたいことにはやる気が出るよう、少し戻してあげるね。」


 神様がそう言い人差し指をアナスタシアの額に当てると、そこから温かいものが流れ込んでくるのが分かった。



「これでもまだポイントが余っていたんだけど、今回君を助けてあげたことと、おまけに君の欲していたフェンリルを君にあげる。前世の記憶が消えていないのは特別サービスでそのままにしてあげよう。」


 先ほど毛布と勘違いした白い大きな犬 ー フェンリル ー はアナスタシアに顔を擦り寄らせた。

 前世の自分が望んだということは分からないが、この暖かくもふもふした触り心地が自分が欲していることだけは確実だった。



「あの、私は今世でも同じように命を救ったりした方がいいんですか?」

「え、別にそんなことしなくてもいいよ。したかったらすればいいし、好きにしていい。私は基本的に星の中で起きていることに関与しないからね。

 ああでも、君が何か私にしたいと言うのなら、たまにで良いから私にその日あったことを話してくれ。こうして人と話すのも楽しいからね。」

「どうしたら神様にお話ができるのですか?」

「祈りを捧げてくれればいい。私が返事をすることは稀だろうけど、地球との違いもあってきっと君だから気付けることもたくさんあるだろう。

 …ではあまり長居をすると歪みが生じてしまうからね、私は行くよ。良い人生を。」



 神様はそう言うとアナスタシアの返事も聞かずに、一瞬のうちに姿を消してしまった。



 神様がやる気を返してくれたからだろうか。

 生まれてからずっと何をするのも面倒にしか感じず、感情というものを感じたことがなかった自分の心臓が、今やっと動き始めたかのようにドキドキしていた。



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