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もふもふスキルは世界最強!? 私はただもふもふしてますので放っておいてください  作者: KANAN
プロローグ もふもふの加護がありましたが追い出されました
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もふもふは不要でした

「この役立たずが!!さっさと屋敷から出て行け!二度と顔を見せるんじゃない!!」


 今日は5歳に行われる選定の儀式を兼ねた、ベルカラ王国最大の春のお祭りの日だと言うのに、屋敷の中には主人であるマクベルド侯爵の怒鳴り声が外まで聞こえるほどに響き渡っていた。

 侯爵の前にはグラスの水をかけられ、透き通るような金色の髪からぽたぽたと水滴が垂れる少女、アナスタシアが立っている。


「…かしこまりました。お父様、短い間でしたがお世話になりました。」


 アナスタシアは両の手を合わせ頭を下げると、扉を閉め、すぐに自室へと戻った。途中何人ものメイド達とすれ違ったが、誰も彼女に手を差し伸べようとする者はおらず、皆一様に見て見ぬふりをしていた。



 お父様、と呼んではいるが、このマクベルド侯爵家とアナスタシアに血縁関係はない。マクベルド侯爵と奥方の間には息子が2人いるものの、娘が生まれず、昨年孤児院から養子を取ったのがアナスタシアだった。


 アナスタシアと入れ替えに入室した執事は、侯爵を宥めるように紅茶を差し出した。

「…旦那様、処分はいかがいたしますか?すでに領内では顔と名前が知れ渡っているかと。」

「…私の領地からは追放する。今日中につまみ出せ。」

「かしこまりました。」



 執事が部屋を出てからも、侯爵の怒りは治らなかった。

 と言うのも、アナスタシアを養子にする際、侯爵は偶然領内にいた鑑定スキルを持つと言う男に、高い金を支払い光の精霊の加護が得られる少女を選定してもらって養子にしたのだ。養子縁組の手続きももちろん金がかかった。ただでさえ領内の治安が悪化しており行き詰まっていた侯爵にとって、なけなしの金を取られてしまったのだ。


「くそっ、あんな男に私が騙されたなんて!!」


 侯爵は既に選定の儀を終えている、10歳、7歳の息子達が選定の儀で言われた火の精霊や風の精霊の加護があると言われた内容が当たっていたために、この男に言われるがままに孤児院からアナスタシアを養女に迎え入れた。


 しかし、今日の選定の儀でアナスタシアが神官に告げられたのは

「…もふもふの加護、です。」

だった。


 その言葉がどう言った意味を指すのか、神官も初めて発した言葉なのだろう。不思議な顔をしていた。

 侯爵も初めて耳にした言葉ではあったが、そんなことはどうでも良かった。大切なのは侯爵が求めていた、「光の精霊の加護を持つ娘」は得られず、自分が騙されたという事実だった。



 侯爵が光の精霊の加護を持つ娘を欲したのは、王家との繋がりを作るためだった。

 王家には今年で7歳になる王子がいる。ベルカラ王国第35代目の王ダニエルは王妃カリーナ唯1人に永遠の愛を誓い、側室を作らなかった。中々子宝に恵まれなかった2人の間にやっとのことで誕生した王子。王子の誕生祭は数ヶ月かけて行われ、王と王妃の親バカっぷりは国民全員が知っている。


 しかし王子は生まれつき身体が弱く、王は国内で光の精霊の加護を持つ者が発見された場合、その者の身分に関わらず王宮での暮らしを約束するというお触れを出した。女であればそのまま妃候補だと、最近の選定の儀式は、儀式を受ける子供達以上に大人達が必死になって神官の言葉に耳を傾けていた。


 光の精霊は怪我や病気を治療する力があると言われているが、その存在を見たことがある者はいないほどに希少である。今のところ国内で見つかったという情報はない。



「くそっ、光の精霊の加護が得られるなんて、やはり嘘だったのだ…!あの男、見つけ次第晒し首にしてくれる!!」



 ♢


 コンコンッ


「はい。」

「本日付でこのお屋敷から出て行っていただきます。最後の侯爵様のご配慮で、領外までは馬車にてお連れいたします。」

「先ほどお父様…いえ侯爵様より言われましたので、今荷物をまとめているところです。」

「侯爵家が与えた物は持ち出さないようにしてください。」

「え…そうですか、では孤児院から持って来ましたこの人形だけです。」

「では、行きましょう。」


 執事に連れられ門へと向かうアナスタシアを侯爵の息子の1人、ミカエルが涙目で駆けつけて来た。

「本当にいなくなっちゃうのか?」

「ミカエルお兄、いえミカエル様。お世話になりました。」

「お兄様でいいよ、ずっと、これからもずっと俺はアナのお兄ちゃんだ!」

「…お兄様、ありがとうございます。」


 歳が近かったためか、血縁関係を大切にする貴族の中で、その貴族に従うメイド達もまた養子であるアナスタシアを快く受け入れなかった者が大半だった。しかしミカエルだけは初めての妹に優しく接してくれる、唯一の味方だった。


「これ、執事にバレないように持って行け。」


 ミカエルはアナスタシアを抱きしめながら、そっと彼女のポケットに何かを入れ、2人は執事に促されるまま慌ただしく別れを告げた。



 急に家を追い出されることになったアナスタシアだったが、揺られる馬車の中で考えていたのは

(…今日が良いお天気でよかったわ。陽に当たっていれば乾きそうね。)

と、なんとも暢気なことだった。


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