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第7話

「……私は、正吾くんに認められてる?」

「俺はそんな大層なもんじゃないが……ま、お前がそういうことをしない子だって分かってるからな」

「ふふ。特権」



 そんな特権って言うほどのものじゃないけど。

 と、そこでふと思い出した。巴の仕事のことだ。



「そう言えば漫画の方はどうだ? 順調か?」

「うん。今構想を練ってるところ」



 そう、何を隠そう黒瀬巴はガチの漫画家で、商業誌にも連載してお金を稼いでいるプロだ。

 様々なタッチの絵柄を使い分け、独創的な世界観のファンタジーものや、現代ラブコメものなど数多く描いている。

 SNSでも趣味で描く漫画は常にバズり、フォロワー数三十万人を超える超売れっ子なのだ。


 特徴的なのが、必ず一番の盛り上がりを見せているところで潔くスパッと終わらせるところだろう。

 長々と続きを描かず、面白さが絶頂になり、読者の心を最高に高めたところで終わらせる。それが彼女の信条なのだとか。


 ペンネームは、確か『出涸らし万年筆』。

 ネーミングセンス皆無というかなんというか……もう少しどうにかならなかったのかコンコンと問い詰めたいところである。


「へえ、次はどんな漫画にするんだ?」

「主従百合。外では高飛車で専属のメイドにもきつく当たる主人は、実は二人っきりになるとメイドに甘えまくるお話」



 どきっ。

 え、まさか……偶然、だよな? なんだか俺と鈴乃の関係に凄く似てるというか、そのまんまな感じがするんだが……。



「そ、そうか」

「? 正吾くん、焦ってる? どうしたの?」

「んえ⁉ そそそそんなわけないだろ! 俺は至って正常だっ」

「……まさか、正吾くん……」



 巴の目がスッと細められる。巴が何かに感づいたりするときに癖だ。


 まずい、まずい、まずい。

 俺と鈴乃の関係がばれてる? 鈴乃が実は家だとわがままで可愛い姫モードになることがばれてる?

 それはまずいっ。鈴乃の名誉と体裁と今まで築き上げた社会的地位が崩落する……!


 かくなるうえは!



「ごめんなさい、千円で許してください」

「百合男子なの?」



 ……………………ん?

 ……百合だん……え?


 巴は千円と俺を交互に見ると、眉をひそめて首を傾げる。



「この千円は何?」

「あ……すまん、勘違いだ」



 金を財布にしまって軽く咳払いをすると、今度は反対に首を僅かに傾けた。



「正吾くんは百合が好きな男の子?」

「あーーー……嫌いではない」



 かと言って、好んで読むかと言われたら微妙なところだが。



「なるほど、正吾くんは百合が好き……」

「待て、嫌いではないと言っただけであってだな」

「…………」



 ……おい、何でそこで黙るんだよ。

 巴はきょろきょろと周りを見ると、一人の女の子に声を掛けた。確か、同じクラスの斎藤千代子さんだったな。



「ねえ、ちょっといい?」

「え? 巴ちゃん、どうし……え!?」



 え!? と、巴!?


 巴が斎藤さんの腕を掴むと、まるで恋人みたいに腕を組んだ。

 鈴乃ほど大きくないが、夢葉ほど小ぶりでもない丁度いいサイズの胸が、斎藤さんの腕により形を崩す。



「ととととと巴ちゃん!?」

「ちょ、巴何やって……!」

「む。反応が鈍い。それなら」



 と、今度は斎藤さんを壁に押し当て……どんっ!

 じょ、女子同士の壁ドンだと!?


 そのまま巴は滑らせるように斎藤さんの頬を撫でる。

 まるで、美術品を扱うような繊細な動きに、斎藤さんの頬が少しずつ赤みを増していく。



「千代子……」

「と、巴、ちゃん……」



 お、おお……何だろう、見ててドキドキする……生唾ごくり。



「……どう、正吾くん。百合は」

「あ、ああ。やばいなこれは……」



 リアル百合ムーブを見せられて、ちょっとときめいた。

 百合、いいかもしれん。これは次の出涸らし先生の主従百合漫画も購読せねば。



「って、やり過ぎだ巴」



 巴の首根っこを持って斎藤さんから引き離す。ああ、斎藤さん涙目になってるじゃん。



「あ……ごめんね、千代子」

「う、ううんっ、私は大丈夫だよ……!」



 とてもそうは見えないが。



「悪いな、斎藤さん。こいつの悪ノリに付き合わせちまって」

「気にしないで、日向くん。大丈夫だから」

「そうか? ……ん? あれ、その黄色のヘアピン新しいね。買ったの?」

「そ、そうなのっ。駅前の雑貨屋で……」

「ああ、あのセンスのいい雑貨屋か。いいね、斎藤さんの雰囲気にピッタリ合ってる」

「本当!? えへへ、ありがとう」

「新しいヘアピンで、可愛さに更に磨きが掛かってるよ」

「うぐ……こ、これが噂の日向くん……!」



 え、噂? 何それ聞いてない。

 そのことを聞こうとすると、斎藤さんは顔を真っ赤にして教室へ走って行ってしまった。



「はあ……おい巴、お前がやり過ぎたから、顔真っ赤になってたぞ。後でもう一度謝っておけよ」

「最後は間違いなく正吾くんのせい。馬に蹴られて死ね」



 唐突で古典的なディス!



「全く……じゃ、私は行く。正吾くんは?」

「あ、俺もトイレに来たんだった。じゃあ巴、また後で」

「うん、また」



 手を振って教室に向かう巴に手を振り返し、俺も自分の用を足すべくトイレに入っていった。

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