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第6話

「鈴ちゃんおっはよーーー!」



 夢葉の抱き着きタックル。そのタックルも、鈴乃は涼しい顔で受け止めた。

 いつもの光景だ。周りのカーストメンバーも、小動物を見るような目で夢葉を見る。



「やあ夢葉、おはよう。丁度君のことを考えていたんだ。今日も元気な夢葉に会えて、とても嬉しいよ」

「私も鈴ちゃんに会えて嬉しい! 愛してるぜ!」

「はは。私も愛しているよ。小リスちゃん」



 らぶらぶ、いちゃいちゃ。おっぱいたゆたゆ。

 相変わらず夢葉は鈴乃のことが好きなんだなぁ。実にうらやまけしからん。おい夢葉そこ変われ。


 そんな様子を遠目に見てから自分の席に着く。

 近くにいるクラスメイトに朝の挨拶をするくらいで、特に変哲もない朝の光景だ。


 俺の席は後ろから二番目の廊下側。出席番号順ではなく、先生が席替えアプリを使って勝手に決めた席だ。目立たなさで言えば一位二位を争うだろう。

 しかも前の席は柔道部で巨体の鈴木くん。ある程度何をしてもバレない最高の立地だ。


 席に着いて鞄から道具を引っ張り出すと、鈴乃が前髪を弄りながらチラッとこっちを見てきた。

 俺にしか分からない、俺と話がしたい時に出る鈴乃のクセだ。

 そんな絡みたそうな目で見ても学校での絡みはダメ。ダメなものはダメです。

 俺だって話したいのを我慢してるんだから。無視。


 時計を確認すると、まだ時間に余裕はある。

 確か今日の一時間目は数学で、小テストがあったはずだ。念の為予習しておこう。


 教科書とノートを開くと、トップオブトップから一際美声な男の声が聞こえてきた。

 この声は……サッカー部のエース、時宗白馬(ときむねはくば)か。



「そう言えば夢葉ってうちのクラスの誰とも登校してないよね。別のクラスの人と登校してるの?」



 おいこら時宗。いつもこいつと俺が一緒に教室に来てんだろーが。

 いや、別に気付いてくれなくてもいいけど。……気にしないけど! 気にしてないもんね!(気にしてる)



「んーん、一人じゃないよ。しょーごと一緒」

「しょーご?」

「え、正吾……?」



 カーストの殆どの仲間は「誰それ?」みたいな顔で首を傾げるが、鈴乃だけギラついた目で俺を睨み付けてきた。

 いや怖い、何で睨み付けてくるの、怖い。


 てか、トップオブトップは鈴乃以外誰一人として俺の下の名前知らないんですね。しょぼん。まあ知らなくていいけど。


 ……何となくいづらくなった。トイレ行ってこよう。



「うん。ほらあの席の……あれ、いない?」



 そんな声の聞こえてくる教室を振り返らず、校舎の端っこにあるトイレを目指す。


 まだ始業時間まで時間があるから、廊下は教室と変わらないくらい賑わっている。

 最近のアニメ談義。流行談義。メイク談義。授業かったるい談義等々。実に学生らしい。


 そんな井戸端会議を横目にトイレに向かうと。

 女子トイレから一人の生徒が出て来て危うくぶつかりそうになった。



「おっと」

「?」



 ぶつかる寸前で立ち止まった俺。

 しかし女の子の方が俺に気付かず……ぽす。俺の胸に飛び込んできた。



「……? こんなところに壁が……」

「誰が壁だ」

「……壁が喋った。摩訶不思議」

「俺の胸板ばかり触ってないで上を見ろ、上を」

「上?」



 女の子は言われた通りに上を見上げると、眠そうな半開きの目が俺を見つめた。

 その拍子に、白檀のような香りが俺の鼻をくすぐった。


 一言で言うなら大和撫子のような子。

 黒く、艶やかな髪は先端でぱっつん気味に整えられ、どこかぽわぽわしている雰囲気の女の子だ。


 メイクもしていないのに全てが整っている顔立ち。

 夢葉ほどではないが小柄な体躯。

 他の生徒のように制服を着崩すことなく、純正党派のナチュラル美少女だ。



「……驚いた。壁が正吾くんに早変わり」

「だから壁じゃないって」



 思わず苦笑い。相変わらずのようでちょっと安心する。


 凛麗学園二年一組、黒瀬巴(くろせともえ)。俺の隣の席の女の子。


 感情が乏しいのか驚くほど表情が変わらず、でもそこが愛らしい。

 例えるなら、他人に興味がない猫といったところか。



「おはよう巴。今日も綺麗な髪だな」

「おはよう正吾くん。うん、毎日正吾くんに褒めてもらえるから、頑張ってるよ」



 巴は手櫛で自分の髪を梳くと、窓から射し込む陽射しによってキラキラと輝いた。

 こまで美しい黒髪は稀だ。巴の努力が垣間見える。



「そんなにまじまじと見られると、照れる」

「そうは見えんが」

「正吾くんこそ、真顔でそんな恥ずかしいことよく言えるね」

「ちょっと言い方に棘があるのは気のせいか?」

「美しい花には?」

「棘がある」

「そういうこと」

「なるほどね」



 軽口を言い交していると、ほんの少し巴の口角が上がったような気がした。

 こいつと交流を持って四か月くらいになるが、まだまだ大きな表情の変化は見られない。これでもかなり感情豊かになった方だ。



「でも、そういうのは余り言わない方がいいよ。勘違いする女の子が出るから」

「巴は?」

「客観的事実を述べているだけで主観ではない」

「そうか。でも俺も事実を口にしているだけなんだがな。俺がこういうのを口にするときは相手を選んでる。見てみろ」



 視線を巴から近くを通ったギャルに向ける。

 メイクがっつりの金髪黒ギャル。この凛麗学園では珍しいくらい清々しいギャルだ。



「あの女の子に、巴と同じように声を掛けたらどうなると思う?」

「罵倒されるか罵られるか貶されるか馬鹿にされるか気持ち悪がられるかイジメられる」

「……いや、うん。まあその通りなんだけどさ……」



 そんな流暢に事実を羅列されると傷つくんですが。

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