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プロローグ

 皆にとって、『王子様』とはどういった存在だろうか。

 白馬に乗っている?

 ──ノー。

 ピンチのとき颯爽と駆けつけてくれる?

 ──ノー。

 耳元に口を寄せ甘い声で愛を囁いてくれる?

 ──更々ノー。


 少なくとも、俺の通っている凛麗(りんれい)学園の生徒にとっては彼女こそが絶対の『王子様』だった。


 立てば麗人、座れば美玉、歩く姿は王子様。

 凛麗学園二年一組、学園の王子様、月宮鈴乃(つきみやすずの)


 週に一回は必ず告られ、他校の生徒にも告られ、それだけでなく年上や年下からも告られる始末。

 とにかく月宮鈴乃はモテた。モテにモテていた。


 高すぎず低すぎない身長。

 紺色のブレザーの上からでも分かるプロポーション。

 赤いチェックのスカートから伸びる、張りがありほど良い肉付きをした脚。

 美しく透き通るような銀髪のミドルヘア。深い海のように青い瞳。

 母親が元日本人トップ女優(現タレント兼主婦)で、父親がロシア人元格闘家(現金融マン)のハーフ。ハーフ特有の可愛さを突き詰めていったら、恐らく月宮鈴乃みたいな女の子のことを言うんだろう。


 他には、母親譲りの記憶能力と優しさ。父親譲りの運動能力と正義感。

 それも相まって、月宮鈴乃はこの学園において完全無欠の絶対的存在となっている。



「今日王子様に声かけてもらっちゃったぁ~。キャーッ」

「えぇ~! いいなぁ」

「俺なんか部活頑張ってって励まされたぜ」

「それお前がしつこくアピールするからじゃね?」

「ハァ……鈴乃様、今日もお美しい……」



 ちょっと廊下を歩けば、こうやってすぐに月宮鈴乃のいい噂が耳に届く。凄い影響力だ。

 で、俺はと言うと。



「あっ、日向くんだ……」

「日向……」

「あの人が……」

「日向先輩だって」

「初めて見た……」



 ちょっと廊下を歩けば、こうやってすぐに俺こと日向正吾(ひなたしょうご)の微妙な噂が耳に届く。

 良くも悪くもない噂話だ。

 あいつとの差って何ですか。顔か、やっぱり顔の差か。

 俺だって平均以上の顔は自覚してるんだが。あくまで平均以上だけど。自分で言ってて悲しくなってきた、ぴえん。


 そんな月宮フィーバーの廊下を通り過ぎ、階段を下りる。

 と、丁度階段を下りている途中の月宮鈴乃を見かけた。

 ただ階段を下りている後ろ姿だというのに、凄い存在感。まるで宝塚の男役。男装させても絶対似合う。


 そんな月宮鈴乃を後ろから眺めていると、その時。

 大量のノートを抱えて階段を上っている女の子が足元が見えずにつまづいた。



「キャッ……!」



 ヤバい、このままだと転ぶ!


 咄嗟に体が動き、転びかけている女の子を颯爽と助けた俺。

 ――ではなく、俺の前にいた月宮鈴乃が女の子の体とノートに手を掛け、転ばないようにそっと支えた。どうしよう、この所在のなくなった右手。とりあえず頭でも掻いておくか。ぽりぽり。



「おっと。君、大丈夫?」

「……あ、れ……あっ、あわわわわ……!? お、お、王子……!」

「王子だなんて……私は月宮鈴乃だ。よろしくね、可愛い後輩ちゃん」



 ウィンクばちこーん。こうかはばつぐんだ! 可愛い後輩ちゃんは目の中にハートを作った!



「それにしても、君みたいに可憐な女の子にこれだけのノートを持たせるなんて……」

「……はっ!? い、いえっ。わ、わた、私が先生に頼まれたので……!」

「でも、クラスメイトの一人くらい助けてあげてもいいものを。……ここで出会ったのも何かの縁だ。是非私に手伝わせてくれ」

「ええ!? そ、そんなっ恐れ多いですよ……! ただでさえドジで間抜けでおっちょこちょいな私を助けてくださったのに、その上お手伝いだなんて……んぐ」



 すると、月宮鈴乃は後輩ちゃんの唇を人差し指で塞ぎ、眉を下げて困ったような笑みを浮かべた。



「自分を卑下するのはやめた方がいい。君の声を一番よく聞いているのは君だ。自分で自分を傷つけるような言葉は、私は余り好きじゃないな」

「……は、ひ……」



 ぷしゅ~。後輩ちゃんオーバーヒート。頭から湯気出てる。

 こんな臭いセリフを大真面目に言い、それを鼻にかけている様子もない。カッコつけてるわけでも、モテるために言っているわけでもない。

 だからこそ皆に好かれる。皆に憧れられる。


 これが、学園の王子である月宮鈴乃なのだ。



「さ、行こう。職員室でいいんだよね」

「はひぃ……」



 月宮鈴乃は後輩ちゃんからノートを受け取ると、踵を返して階段を上ってきた。


 そんな彼女は俺に気付いたのか、少しだけ俺に目を向ける。

 ばっちりと目が合う俺と月宮鈴乃。

 が、そんなそぶりを見せることなく、目を伏せてそのまま行ってしまった。

 その拍子に、甘いミルクのような香りが俺の鼻をくすぐり、ちょっとだけ胸がきゅっと締め付けられる。


 ……はぁ。相変わらずめちゃめちゃ可愛いな。いや、イケメンと言うべきか。

 俺の横を通り過ぎた月宮鈴乃を目で追い、ついつい振り返ってしまった。


 そのせいでかなり短いスカートの裾がいたずらに翻り、黒い布が見えたような、見えてないような。

 こんな見た目で黒パンティとか男心を分かっているな、学園の王子様。


 ……ま、いいや。さっさと帰ろう。

 俺は早々に靴を履き替えると、自転車に乗って寄り道せず真っ直ぐに帰宅した。

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