第7話 新たな決意
もっと長文を描きたいけどこれが限界なのだろうか…
キュピルを大浴場で優しく洗って汚れを落とし元の真っ白で綺麗な毛になった所で自分も素早く洗い、キュピルが冷えないように急いで上がって丁寧に乾かしてから医療施設がある区画へと向かう。
医務室に入りアウラへ指示を乞う。
「で?どうすればいい?」
≪はい。とはいえ難しいことではなく栄養失調、脱水症状、空腹、精神的疲労、低体温症などによって衰弱しているので温かくして点滴を打ってあげればひとまず大丈夫です。≫
「わかった。で、点滴はどこに打つんだ?」
看護師だったため人へのやり方は分かるが、動物には打ったことが無いのでよくわからない。
≪はい。動物には皮下点滴というやり方がありまして、キャピルもそのやり方で大丈夫です。今から指示いたしますのでそれに従ってください。まず――≫
アウラの指示に従ってキャピルに皮下点滴を行う。この時、キュピルの皮膚をつまんだのだが思ったよりも伸びその見た目がお餅みたいだったためつい写真を撮ってしまった。
点滴を注入し終わったら毛布に包んで温める。毛布に包んだキャピルを持ったまま艦橋へと上がり席に着く。
「状況は?」
≪はい。今のところ何もありません≫
「そう」
緊張がゆるむ。このような状況だとラノベなどの物語ではすぐに敵が現れ戦闘だったり鬼ごっこになったりといった展開となるがそうそう起こる物でもないらしい。
「じゃあ、このキャピルのご飯でも作ろうかな。何食べる?」
≪雑食で人と同じものが食べられるようです。これぐらいのキュピルだともう乳離れをしているので野菜スープでいいのでは?≫
「無難だよね。そうだキュピルに玉葱は大丈夫なの?」
≪問題ないようです。キュピルもタマネギ中毒になりますがそれは人と同じく過剰に摂食しない限りは大丈夫なようです。≫
「わかった。それじゃあ周辺警戒は怠らずに電探に何かしらの反応があったらすぐに知らせて」
≪わかりました≫
そう指示を出して席を立ち、キャピルを自室のベットに置いて食堂へと向かった。
様々な野菜が入っている鍋と鶏ガラが入った鍋の2つがコトコトと煮え、出汁のいい匂いが厨房、食堂に充満していた。
調理をしながら昼頃に起きた状況について考える。
昼頃に絶滅危惧種で警戒心がとても強いといわれるキュピルという生き物を救助した。キュピルはその見た目と毛が人気で密猟、密輸が行われており、特にアルビノの固体は大変貴重なため高額で買い取られ剝製にされるらしい。おそらく密輸者から逃れたのであろうキュピルが海岸で打ち上げられているのを気分転換で無人島に立ち寄った自分が救助した。
そんなキュピルの胴にはGPSが内蔵されたバンドが付けられていた。きっとあのキャピルにバンドを付けた密輸者は死んでいたとしても剝製にすればいい。あのキュピルは剝製でも高く売れるようなので必ず回収に来るのだろう。GPSは外し先ほどの無人島の海に捨てた。追跡はできないため追ってはこないはずだが用心に越したことはないだろう。
だが問題はここからだ。もしかしたらキュピルを密輸していた者に見つかり取り返すともなれば絶対に戦闘となるだろう。もしかしたらこのまま見つからずに行けるかもしれないがそれでも問題はある。
キュピルを元の場所に戻そうとしても今現在どこにいるかもわからない状態なためキュピルの生息地に行こうにも行くことができない。
人に聞くにしてもまず人が住んでいる所に行かなければいけないが、その一番近くにある国やメガフロートの町が何処にあるのかすらわからない。
人にあったとしてもキュピルは絶滅危惧種であるため密猟、密輸は禁止。その為自分が一番最初に疑われるのは間違いない。それは仕方ないにしても問題は調査されることだ。自分の事やこの御影のことについて訊かれ、調べられるだろうがそれが一番危ない。自分はこの姿なのでどうとでもいけるかもしれないが一番の問題なのが御影。御影はオーパーツのバーゲンセールだ。もし欲に溺れた人間に知られれば必ず手に入れるために狙われ、命の危険に遭うことが容易に想像できる。その人間が国のトップや近い位置にいる場合、最悪国と敵対することになるだろう。
しかし、よくよく考えてみるとキュピルを救出していようがしていなかろうが、結局問題なのは自分と御影であって人に会えばどのみち危険では?という結論を今更得た。自分ってバカですね~。
「ねぇ、アウラ」
≪何でしょう?≫
「自分に危害を加える物には容赦なく排除するんだよね?」
≪はい。この前宣言した通り、ご主人様に害を為すもの、為そうとするものは全力をもって排除いたします。≫
「それが国でも?」
≪はい。ですがそうなると補給が問題です。…国と敵対なさるのですか?≫
「最悪ね」
≪私は最後までご主人様の味方です。≫
「それは、こちらのセリフかな。狙われるのはアウラと御影なんだから」
≪ご主人様も狙われますよ。私と御影の主なのですから≫
「それもそうだな」
敵対するものには容赦なくいこう。そう心に決め野菜スープのできをみる。
「まぁこんなものか」
≪出来ましたか?≫
「うん。飲んでくれるといいけど」
人参、ジャガイモ、セロリ、キャベツ、玉葱と少々の塩を入れ煮込んだだけの野菜スープだがいい感じに野菜の旨味が出ていて落ち着く味となっている。できたスープを器に入れ冷ます。
「さて、次は…と?」
自分の晩御飯を作り始めようとした時食堂の自動ドアが開く。そちらを見ると何か白い物体が高速で横に動き隠れたのが見えた。
「…もう起きたのか?」
≪そのようですね。一日程は起きないと思っていましたが、匂いで起きたのでしょうか?そして匂いにつられてやって来たらご主人様が居たので驚いて隠れた、と。≫
先ほど容器に移したスープを食堂ドアの前に置き、自分は厨房に戻り調理を再開する。
五分後
≪…入ってきました。≫
端末のカメラをドアの方に向け、アウラに文字で実況してもらう。
≪今スープの周りを歩いてスープとこちらを警戒しているみたいです。……近づいて匂いを嗅いでいます。…飲みました。≫
(味は気に入ってくれただろうか?)
≪一心不乱に飲んでいますね。よっぽどお腹が空いていたのでしょうか?それともおいしかったからなのでしょうか?≫
(おいしかったら嬉しいです。あとアウラさん少し言い方に毒がありませんか?)
声を出してキャピルを驚かしてはいけないので黙って調理を続ける。
≪…飲み終わったようですね。お皿を舐めています。まだ物足りないようでこちらを見ていますよ。≫
「固形でもいけるかな?」
キュピルに気付かれないように小声でアウラに訊いてみる
≪あ、逃げてしまいました。≫
やっぱり、警戒心が強いとこのくらいの声量でも気付かれるか。
「構わんよ、どうせおかわりを入れるためには近づかないといけないんだから。で、どうなの?煮込んだ野菜だけどいけそう?」
≪はい。問題無いと思われます。≫
空になった器に煮込んだ野菜とスープを入れ、また厨房に戻る。
≪今度はすぐに入ってきましたね。≫
またアウラに実況してもらいながら調理の続きをする。
こまめにアクを取った鶏ガラの出汁を濾しながら先ほどの余った野菜スープと混ぜそれに塩コショウをして味を整える。
≪野菜も問題なく食べています。…完食したようです。≫
(それだけ食欲があればすぐに元気になるだろう)
出汁を取った鶏ガラについている身を丁寧にとりながら元気そうなキュピルに安堵する。
≪またこちらを見ていますね。あ、こちらに近づいてきました。≫
(キャピルは人には懐かないはずだが…餌付けでもできたのだろうか?)
考えていると視線を感じた。誰の視線を感じるているのかは分かりきっているため、驚かさないように視線を感じた方へ横目で見てみる。
視線の先には調理台の陰から半身を出してこちらをジーと視ている白い物体がいた。
どうすればいいのかわからないので鶏ガラに視線を戻し、鶏ガラから身を取り出す作業を続ける。
「…」
≪…≫
「…」ジー
アウラも困っているのか反応がない。
どのくらいたったのかすべての鶏ガラから身を取り出し終わったが、未だに視線が突き刺さる。
どうすることもできないため思い切ってキュピルの方に顔を向ける。
するとキュピルは驚いたのか隠れてしまったが、またすぐに顔を覗かせ目と目が合う。
毛が伸びすぎて目が隠れてしまっているが、間から見えるその目はつぶらな瞳をしており色はバイオレットとアンバーのオッドアイだった。
≪…驚きました。まさかオッドアイとは。≫
ついなのかアウラがしゃべってしまいキュピルは驚いて再び隠れる。人間は自分だけだと思ったら別の声がしたため驚いたのだろう。食堂からは逃げていないみたいだしアウラにオッドアイの事について話を訊いてみる。
「めずらしいの?」
≪それはもう。これはどんな手を使ってでも手に入れようとしてくる輩が世界中に現れますね。ご主人様が予想されていた最悪、国と敵対するという可能性が高くなりましたね。≫
「やめてよ。で?この瞳の色に由縁はある?」
≪はい。この色ですとバイオレットは繁栄、アンバーは富です。≫
「…幸運に繁栄と富ですか。権力者なら喉から手が出る程欲しいだろうな」
≪権力者でなくても欲しがりますよ≫
そんな会話をしている間にキュピルはまた顔を覗かせこちらをずっと見つめてきた.こちらも見つめ返していると自然と視線が合い、気付けば互いに見つめ合っていた。
…どのくらい見つめ合っているのか、アウラも異様な雰囲気を感じているのか何も言ってこない。ここまで見つめ続けているのは、何故かこちらから目を離したらいけない気がしたのと、こちらから目を離せば負けた気がするためだ。
目を離さないように見つめ合ったまま自分は台から降りる。キャピルはビクッ、と体を震わし毛を逆立てて威嚇しながら逃げる態勢をとる。
それ以上近づかない意思表現として自分は床に膝をつき、自分なりの優い微笑みをかけてみる。敵意は無い、仲良くなりたいと気持ちを込めながら。
キャピルは威嚇をやめ、物陰から完全に出てきてこちらを見つめている。
またどのくらいたっただろうか、表情筋がピクピクと痙攣しだした頃にキャピルが一歩こちらに近づく。
一歩近づいたことに驚きと嬉しさが込み上がってきた瞬間。
「ぐふぅっ!?」
お腹に白い弾丸が撃ち込まれる。
キャピルが頭突き?体当たり?で自分のお腹目掛けて突っ込んできていた。無防備な状態の所に運悪く突っ込んできた場所がちょうど鳩尾の部分に入った。
自分はキャピルがお腹にいる状態のまま、キャピルごと腹を抱え苦しむ。ほどなくして苦しみは治まり、起き上がる。
「うぅ、ひどい目に遭った」
そう言いながら腕の中にいるキャピルを見る。
キャピルはこちらを見た後、腹に頬ずりしてきた。かわいい。
≪…今日で何回驚けばいいのでしょう。キャピルが人に懐くとは。≫
「本当は懐きやすいのでは?」
≪それはありません。過去ご主人様の様に弱ったキャピルを保護し介抱した人がいましたが懐くどころか威嚇や噛むなどの拒絶、攻撃をされ、出されたご飯を全く食べずにそのまま弱って死んだ事例がたくさんあります。≫
「ならこのキャピルが特別なのか?」
≪わかりません。もしかしたらご主人様が特別なのかもしれません。≫
「まぁいい。懐いてくれたなら好都合だ」
キャピルを優しく撫でる。綺麗に洗たのでその毛はもふもふして肌触りがめっちゃ気持ちいい。ずっと触っていたいくらいに気持ちいい。
キュピルは触れた瞬間、身を強張らせたが優しく撫ではじめると力は抜け、気持ちいいのか目を細めてリラックスしだしたと思ったらそのまま眠ってしまった。
≪大分懐かれていますね。≫
「んー、でもやっぱり体的にも精神的にもまだ弱っているんだろうな」
撫でながら清潔なタオルを取り出し、畳んでその上に眠っているキャピルをのせる。
「こちらも晩御飯にしよう」
≪はい。≫
今日は一段と疲れたため先程のスープとパンだけの晩御飯を食べ、歯磨きをし眠っているキュピルをタオルに乗せたまま自室に戻り寝る準備をする。今の時刻は二十一時前、子供だからかこの時間になると疲れていなくても眠くなるが今日はかなり疲れているため眠気がヤバイ。タオルをキュピルのベットにして机に置き電気を消してすぐ眠りに就く。何か大切なことを忘れながら。
限界のようですね。




