第28話 分家
あ、明けましておめでとうございます。(震)
失踪していないよ?
神代家を訪れ、文代様、尊様、そして予知夢によって俺がこの世界へと来ることを知っている琴葉様と出会い、また後日に会う約束をしてから数日が経った。
あの後、神代家から家に帰り玄関を開けた瞬間にムーの過激なお出迎え―鳩尾への頭突き―に加え、クロのダイブもくらった。クロがいるのは俺が一年ぶりに帰ってきたことを祝うために正彦さんや真里菜姉ちゃん、愛莉ちゃん来てくれていたから。
俺は1年ぶりに会うアホ親父や正彦さん達、佳枝さん親子へ挨拶をし、その夜は宴会となった。因みに宴会で出された料理は何故か主役であるはずの俺が作りました。なんで?
そんな1年の実戦訓練から帰って来てそうそう、忙しい1日を過ごした日から数日経った今日、分家の人達がやって来てお母さんと話し合いを行うらしく、俺はその話し合いに参加、というか見学?をすることになった。理由は分家の人達に俺の事を紹介する為らしい。
俺の他に参加するのは、当たり前だが神護家当主であるお母さん、次期当主の姉さん、守家家当主の佳枝さん、付き人としてアホ親父、正彦さん、雪菜お姉ちゃんが参加するらしい。
真里菜姉ちゃんと愛莉ちゃんはムーとクロと一緒に別室で待て貰っている。
集まるのはいつもの客間。
しかし、いつものメンバーで丁度いい位の広さの客間では当たり前だが全員入ることはできない。そのために流石は武家屋敷というべきか広い屋敷だからというべきか、客間は襖を外せば他の部屋と繋げることができ、いつもの客間を含めて3部屋繋げることができた。広さは20畳の部屋が3つの60畳となるので余裕の広さだ。広すぎる気もしないでもないけど。
他の部屋と繋げたことで縦長でさらに広くなった客間に人が集まった。
上座にはお母さんが座り、その一歩斜め後ろ位―そのまま前に出ればお母さんを挟む位置―に俺と姉さんが座り、さらにその後ろでアホ親父と正彦さんは座っている。
庭側に5人、その向かいの襖―俺達から見て左手―の方には2人が座っている。
それぞれの後ろには付き人としての人が座っているので客間には計19人が集まった。
庭側の上座に一番近い所にはカイゼル髭を生やしている、ものすごく偉そうにしている40歳くらいの太ったおっさんが座っており、その後ろには神代家で出会った3人組のリーダー格だった子がおり、取り巻きだった2人も別の分家の者の付き人として来ている。
襖側の上座に近い所にはなんとも優しそうなお婆ちゃんが座っており、その後ろにはお母さんと同じくらいの歳のダンディな男の人が座っている。ちなみに佳枝さんはその隣、下座に位置する場所に座ており、その後ろには雪菜お姉ちゃんが座っている。
「さて、本日皆様に集まってもらったのは紹介したい者がいるからです」
「その紹介したいという者は、そこにいる見覚えのないガキのことですかね?」
太ったおっさんは「ガキ」の部分を強調しながら、似合っていないカイゼル髭を撫でながら俺を見る。
その目は侮辱というか見下しているというか、とにかく俺の事を下に見ていることがすぐに分かるような目をしていた。
当たり前だがそんな目で見ていればお母さん達にはすぐに分かるので、隣から2人分と後ろから1人、そして下座から2人分の殺気を感じた。
しかし殺気を向けられているはずのおっさんは何処吹く風と涼しい顔のまま、顔色を変えずに失礼な視線のままこちらに送り続けている。
「……ええ。この子を神護家の、私の猶子、息子として迎え入れることにしました」
「ほぉ、猶子ということはそいつには神護の跡は継がせないのですな?」
「そうなりますね」
「ふぇっふぇっふぇっ。血が繋がっていなくとも跡を継げなくとも、本家が認めた子であればそれは本家の子供、本家の人間じゃ。本家の人間なら我々が仕える相手であり、敬う対象でもある。じゃというのにお主のその態度、いくら何でも不敬であると思うが?」
「ふん。神護の血が流れていない者など神護ではない。ましてや平民のような穢れた下等な血を引く者の元に仕えるなど虫唾が走る。そんな者を猶子として息子にするとは……全く本家も堕ちたものですな。由緒正しき神護の血がどんどん穢されていく」
おっさんがそう言うと、おっさんの言葉に賛同する様に庭側に座っている者達が騒ぎ出す。
俺は穢れた、下等な血だから追い出せだ。俺を猶子するくらいなら我が子を猶子にもしくは養子にしろだ。などと言いたい放題。しまいには俺を招き入れたお母さんは神護の当主として相応しくないためその座を譲れ、神護の名を夜守家に譲れなどと言い出す始末。
その言葉を聞いた瞬間、後ろから先程とは桁が違う程の濃厚な殺気が放たれ騒いでいた人達を覆う。放っているのはアホ親父。
身の危険を感じたのか先程まで騒いでいた人達は急に静かになり、脂汗を垂らしながら青い顔で震えだす。デブのおっさんも顔色が悪い。
「今回のお話は以上です。お引き取りを」
お母さんがこれ以上の話し合いは無意味と判断したのか打ち切った。
案外早かった。
「ま、まだ聞きしたいことがある。よいだろ?」
顔色の悪いおっさんが尋ねる。
このおっさんすげぇな。あんな殺気を浴びたのに顔色が悪いだけで喋れているし、なにより分家の人間のはずなのに本家のしかも当主であるお母さんへの敬いが全く感じられない。さすがは神護本家に反抗しているらしい分家筆頭の夜守家のご当主。名前は知らん。
え?なのになんでわかったかって?だって今さっき分家の人達が騒いでいた時『神護の名を夜守家に譲れ』って言っていた時、このおっさんだけ何も言わずになんか偉そうにふんぞり返っていたから。
「なんですか」
「聞けば、本家は一つ目の白い仮面を付けたガキと関りがあるらしいではないか。その説明をして欲しい」
「その者は神護家直属の駒です。彼の者には様々な仕事を任せようと思っています」
「我々という駒があるはずだが?」
「貴方達には任せられない様な事ですよ」
「……ほう。後ろ暗い事ですかな?」
「ええ、神護家の恥となる事の処理を任せています」
「さようで。一度会ってみたいものだな……顔合わせは?」
「あるわけがないでしょう。ましてや必要がありません」
今目の前にいるんですけどねぇ。
「いえいえ必要ですな。彼の者が我々分家の人間よりも神護家の、しかも直属の駒として相応しいのか見極める必要がある。ついでにそこのガキの強さも見てみたいですな。御当主自ら見極め、そして家に引き入れた程の者なのですから」
「……いいでしょう。リツ準備なさい」
「はーい」
こうして俺の力を見せたわけだが、結果は―――
「ふん。全くもって神護の人間として相応しくないな」「当主の目は節穴のようだな」「ククッ。アクアキネシスを持っているというからどれほどのモノかと思ったら、プフッ。全くじゃないか」「流石、夜守家次期当主のヤズク様だ」
今現在、私は庭先で倒れております。
まぁボコボコにされましたね。
相手は神代家で見かけた3人組のリーダー。名前は……なんだっけ?
どうやら彼はおっさんの息子で次期当主らしい。ちなみに現夜守家当主であるデブのおっさんの名前は夜守九頭というらしい。……かっこいいような、そうでもないような……。
「これで貴女の目は節穴であることが証明されようだな。期待外れ、いや予想通りだな。これだと彼の者の力も高が知れる。ましてや高貴な血を引いていないのだからなおさらだ」
「私の目が節穴かどうかは今後、身を持って知ることとなると思いますよ」
「強がりだな。先程の戦いを見てそれさえ分からないとは…我が自慢の息子がそこでのびているガキを圧倒的な力で完封していたというのに、それが分かっていないとは…あぁ嘆かわしい」
おっさん煽るなぁ~。他の分家の人達も便乗していろんなことを言っているみたいだ。
しかし、お母さんもそうだがアホ親父が何とか持ちこたえているのがすごいな。
二人共血管がもの凄く浮き上がって青筋が立っていもの。血圧上がってんだろうなぁ、切れないといいけど。
あ、姉さんがおっさんに食いつこうと動き出そうとしたが、正彦さんにハリセンで叩かれ止められている。佳枝さんも雪菜お姉ちゃんに羽交い絞めされて止められているようだ。
周りはお母さん達を煽ることに夢中で姉さん達の動きには気付いていない様子。
気付いているのは襖側に座っていた優しそうなお婆ちゃんとその付き人くらいだろう。
「では彼の者との顔合わせ、見極めは1か月後でよろしいですかな?」
「ええ。構いません」
「では、彼の者に精々逃げないようお伝えください」
そう言って夜守家の当主であるデブのおっさんは息子と他の分家の者達―庭側に座っていた人達全員―を引き連れ、意気揚々と帰ろうとしたところでお母さんが声をかけた。
「そういえば数日前。神代家の敷地内に貴方の息子とそこにいる2人がいましたが、どういうことでしょうか?神代家の敷地内での警備および護衛は必要ないはず。そのように決めさせたのは貴方達のはずですが……どういうことですか?これに対し神代家から苦情が寄せられています。何か弁明はありますか?」
「ふむ。それは倅の神代家に対しての高い忠誠心が暴走したために起きた事だ。聞けば琴葉様の力は特別なため多くの者に狙われていると聞く、だというのに琴葉様の専属の護衛は未だに誰も就いていないではないか。予定ではそこの優香の末娘である愛莉が就くようだがまだ6歳。そんな子供に琴葉様の護衛を任せると重大な問題が発生する。そうならないよう優秀な自分が琴葉様の専属の護衛として就いた方が琴葉様をひいては神代家を護ることができると考えに至った倅が文代様に琴葉様の専属の護衛に就く許可を得ようと意気込み、直接神代家へと赴いたのだ。何と立派な事か、まさしく次代の担い手だ。それに対して何か問題があるのか?」
そう言った後に続いて、他の分家の人達がやいのやいのと彼の息子を、夜守家を持ち上げる。
そんな取り巻きの分家達に褒められている夜守家次期当主らしいデブのおっさんの息子は鼻高々にまんざらでもない表情をしている。
「……それならまずは私の所に意見すべきであるとは考えなかったのですか?」
お母さんは彼に直接問いかける
「ありえませんね。もし意見をすれば貴女達は僕の方が優秀である事実を知ることになります。そうなれば自分達の今の地位が危ぶまれることになる。そうならないように貴女達は今の立場を守る為にその場で僕の意見を握り潰し、文代様へと伝えないことは明白です。なので文代様に確実に伝えられるよう直接お会いしてお伝えしようとしたのです」
さらに分家の人達が騒ぎ出す。
それにしてもかなりの自信だな、正直そこまで優秀とは思えないんだが…。
「ではそのことを文代様にお伝えしましょう」
お母さんは呆れたのか、それとも疲れたのか投げ遣りに言う。
「それには及ばん、私が息子と一緒に行き直接伝えよう。だから文代様にお会いできる日を教えてくれればそれで構わん」
「では1ヶ月後の彼の者との腕試しの時にでも伝えなさい。おそらく見に来られるでしょうから」
「ほう。ではその時にでも伝えさせてもらうとしよう。帰るぞ」
おっさんはそう言って、自身の陣営の分家の者達を引き連れて帰っていった。
そんな姿を見送った俺はようやく起き上がり、身体に着いた土を払いお母さん達がいる縁側へと向かう。
「……大丈夫ですか?」
「なにが?というかさっきの本気?」
俺がお母さんに問うたのは、先程の文代様への直言を許したこと。
多分、というか絶対に愛莉ちゃんが専属になるとは思う。愛莉ちゃんはあいつより絶対強いし。
「ええ、約束は守りますよ。まぁ、直接言ったところで笑われながら却下されるでしょうけど」
お母さんは「それこそ神護の恥です」と小声で言い、溜息を吐いた。
ご苦労様です。
「ふぇっふぇっふぇっ。弥恵佳ちゃんは相変わらずじゃのぅ」
「……フク叔母様、それはどういうことですか?」
「ふぇっふぇっ。苦労しとる、ということじゃ。どれリツちゃん、怪我はないかえ?」
「ん、大丈夫。殴られたりする直前に受け流したりとかして威力をほぼ無くしておいたし、能力を使ってたから怪我もないよ」
「ほうかほうか。さすがじゃのう」
そう言いながら俺の頭を撫でるフクお婆ちゃん。
このお婆ちゃん、名前を社守福子。お母さんのお父さん―絶倫王なんてあだ名が付けられた人―の妹で、歳は190歳。分家の中で―佳枝さんの守家家以外だと―唯一のお母さんの味方であり、頼りにされている人物。そして俺の事を知っている数少ない本当の味方。
社守家は他の分家と違い神代の警護、護衛はしておらず、神護家のルーツである女神を祀ている神社の宮司をしている。
ちなみにこの社守家は夜守家と同じ時期にできた分家、つまりもう一つの最古の分家である。
「母さん、そろそろ」
「む?ほうか。それでは、儂らもそろそろお暇させてもらおうかの。1か月後の試合頑張っての、儂も見に行くでな」
フク婆ちゃんは俺の頭をポンポンと撫でて、付き添い人としていた息子の宏さんを連れ立って帰って行った。ちなみに宏さんも次期当主兼宮司として俺の事は知っている。
「はぁ。疲れた」
「お疲れ様です」
「分家の人達って、いっつもああなの?」
「ええ、まぁ、そうですね。昔はそうではなかったんですが……前当主の方々はよく神護につかえてくれていたんですよ。あんな風に変わったのは代替わりして今の当主になってからです」
「ふーん、まぁ別にどうでもいいや。結局、ヤっちゃっていいんでしょ?」
俺はそう言いながらシャドーボクシングをする。
シュッ、シュシュッ、シュッ!
それを見たお母さん達は親指をグッと突き立てたグットサインをして……。
「「「「「「思いっきりで!!」」」」」」
とてもいい笑顔でそう言ってきた。
みんな我慢してたんやな。
さ、3ヶ月ぶりでございます。ホントゴメンナサイ。
書く暇がなく、また筆ものらないのでノロノロと書き進めています。
そして自分の文章力の無さ、表現力の無さを物凄く痛感しております。
なんでこんな設定で始めたんだろうかと後悔の海を航海中です。(ゴメンナサイ、ナグラナイデクダサイ、モノヲナゲナイデクダサイ
しかしやり始めたのだから頑張って進めていこうと思います。……完結は何年後だろう?
さて残念なことに落ち着いてこの物語を書く暇がありません。今後は落ち着くかな?と思いましたがさらに酷くなる可能性が大でございます。なので今回のようにかなりの期間が空いての1つだけの投稿が予想されます。この物語を楽しみにしている方々には大変申し訳ありませんがご了承くださるようお願いいたします。
自分といたしましても途中で投げ出したりするつもりは毛頭ありません。
かなりゆっくりではありますがよろしくお願い致します。
誤字脱字等の報告もありがとうございます。報告を受け自分でも「あ、ホンマや」と思っています。一応見直してはいるんですが見落としているようですね。今後もあるとは思いますが優しい目で見て下さい。
あと所々設定を変更したりしています。大きな変更はありませんが話を進めていくにつれて最初の設定とずれが生じるかもしれません。過去話を直していくつもりではありますが最新話が正しい設定だと思って頂ければ幸いです。……設定資料も作らなきゃ。
長くなりましたが、自分は失踪つもりはありません。しかし投稿の頻度はかなり少なく、不定期となります。ごめんなさい。
少しでも多くの読者の皆様に楽しんでもらえるよう頑張ります。ではまたの投稿時に。(_ _)




