第26話 都合の良い心の変化
先週投稿しようとして間に合わず断念、で今週投稿。
……月曜に投稿しろって話なんですけどね、ゴメンナサイ。
車内が静寂で包まれている中、姉さんがバックミラー越しにチラチラとこちらの様子を伺っている。
隣に座っているお母さんは背筋を伸ばした綺麗な姿勢で座り、目を瞑っている。
そして俺はただジッと座っている。フードをかぶり、仮面を付けたまま。
この静寂を最初に破ったのはお母さん。
「リツ、お帰りなさい。よく無事に帰ってきました」
「うんうん、ホントに1年間お疲れ様りっくん。そしてお帰りなさい。」
お母さんに続いて姉さんも俺の無事を喜んでくれた
「あ、はい。帰りました」
「あら?何だかまた固くなってない?1年も会わなかったから戻っちゃった?」
「いえ、そういうわけでは」
「それと、仮面外しても大丈夫よ?ローブも脱いでいいし」
「あー、いや、えーと」
「じれったいですね」
そう言ってお母さんは俺から無理やり仮面を外し、フードを脱がせた。
「……リツ。何ですかこれは」
お母さんは俺の頬を両手で固定し、俺の目を見て尋ねてきた。
「何が?」
「この隈です。何故こんなに酷いのですか?報告書の内容では問題無かった筈ですが?」
お母さんは海軍元帥であるため、様々な部隊からの任務の結果や連絡を受ける。その中に俺が参加させてもらっていた部隊の報告書も当然あるわけで、その内容から俺の生活環境を読み取ったのだろう。
「別に、ただの寝不足なだけです」
「私の目を見なさい」
「……」
「見なさい」
しぶしぶお母さんの目を見る。
その瞳は力強く、しかし何処か優しく、そして心配している瞳だった。
そんな瞳を見続けていると次第に俺の目には涙が溜まり、零れ落ちた。
「……何があったのですか?」
「実は……」
――――――――
「実は……」
この一年の実戦で、この子が自らの手で人を殺める時が来るであろうことは分かっていました。
相手は無法者である海賊達や犯罪者達。殺さずに制圧などと綺麗事で済ませられる案件はほぼありません。
彼らは基本的に能力や銃を使ってくるのですから。
しかし他人の命を自由に出来る権利なんて、私もこの子も神代の人達も持ち合わせていません。ましてや世界中を探してもそんな権利を持っている者などいるわけがありません。しかしそれは海賊や犯罪者でも同じこと。
でも奴らは能力を使い、船や海上都市を襲い、そこにいる人を殺し、金銀財宝を奪う。容姿のいい人間がいれば攫い慰み者にしたり、他の者に売り捌く。つまり奴らは自分達の勝手な都合で人の命、その未来を奪っているということになります。
基本、能力を他人に使用することは重罪です。
警察や海軍といった治安を守る組織でさえ様々な規定をクリアしなければ能力を使えません。
しかし奴らはなんの躊躇もなく能力を他人へと使い、他人を食い物にして自分勝手に生きてるのです。
そんな者達を生かしておくほどこの世界は甘くありません。
基本、その場で殺されるのですから。
本当ならば捕え、法の下で捌きたいですが確保しようにも、相手は躊躇なく銃や能力を使って抵抗してくるため隊員にとっては命賭けです。そんな中で犯人を生かしたまま確保しようものならあまりにも多くの犠牲者を生み出してしまう。
そんな者のために大切な人員を失う訳にはいかないため、世界共通で海賊や凶悪な犯罪者、能力を使って抵抗してくる者には即座に切り伏せてもいい事になっています。
生かしておくにしても百害あって一利なしですからね。
まぁ、人体実験の被検者としてなら一利くらいあるでしょうか?
奴らの利用価値としてはそれくらいしか思い浮かびませんね。
さて、今回の実戦でこの子が実際に関わった作戦や任務でも何人もの海賊や犯罪者が死んでいますね。
きっと殺した相手のことを気にしているのだろう。この子は優しいですから。
あちらでは看護師をしていたようですから、こんな優しい子を人殺しの道に連れ込んだ私達、神護家は既に他界されている地球のご両親、お婆様にとっては許せない存在でしょうね。
ですからこの先、この子がどうなってしまっても、何が起きても神護家はこの子の味方、家族であり続け、見守ることを誓いましょう。間違えがあればそれを正し、罪に押し潰されそうならばその罪を一緒に背負いましょう。…それだけで許されるとは到底思いませんが。
さぁ、その心の中に留めている物を吐き出して少しでも楽になりなさい、貴方が今背負っているモノを私達は一緒に背負う義務があります。ただの罪滅ぼしの様なモノかもしれませんが、少しでも貴方に何かしてあげたいから。
「実は俺………全裸で街中を堂々と歩く夢を見たんです。やっぱり俺は露出狂に目覚めたのかと思うと心配で…心配で………うぅ」
「「………ん?」」
何やら思っていたのとは違うようですね?
「俺、やっぱり露出狂なのかな?」
リツの瞳から涙がポロポロと零れだしました。
「だ、大丈夫ですよ?!」
「そ、そうだよ!りっくんは露出狂なんかじゃなし、この先も露出狂なんかにはならないわよ!」
少し、そんな光景を想像してみると……大変いけない光景ですね。
優香は興奮しているのか鼻息が荒い。……ハンドル操作を誤らないで下さいよ?
何でもこちらの世界で目覚めてから優香と出会う約2週間の間、艦内には着る物が無く、タオルを腰に巻きブランケットを羽織っただけのほぼ裸と言えるような状態で居たらしく、裸でいることに慣れてしまっているとか。
確かに2週間近く裸でいれば慣れるでしょうね、そして久々に着た服はYシャツだった…と。
そういえば私と初めて会った時は裸Yシャツでしたね。
そして、その後遺症によるものでしょうか?家に来てすぐの時は時々全裸で家の中をウロウロする姿が見られましたね。一週間もすればそんな姿も見ることは無くなりましたが……夢にまで見るということは、つまりそう言うことでしょうか?
「ごめんなさい。取り乱しました」
[い、いえ……大丈夫ですよ?しかし私達はてっきり――]
「てっきり?」
リツはコテンッと小首を傾げて尋ねるので私は知りたいことを尋ねることに。
「……人を殺した事に心を痛めているのではないか、と。大丈夫なのですか?」
部隊で提出される報告書とは別に、この子からは個別に報告書を提出してもらっています。その中に海賊を自らの手で殺した旨の報告がいくつかありました。
なので私は、私達はてっきり人を殺した事による罪悪感などで心を痛めているものと思っていたのですが、そうやらその心配は無いようです。
「ああ、それ?んー、それが何も感じないんだよね。罪悪感も、後悔も、悲しみも綺麗さっぱり。前は看護師として人の命を助けることしていたからさ、人の命を奪うことに対して何かを思い感じるのかと思ったんだけど何にもなかったよ、それに人を殺すことにも抵抗が無かったなぁ。多分こっちに来た時に変わったんだと思う、ラノベみたいにさ。まぁでも、人の命の重さは理解しているつもりだし、そんな他人の命を奪う権利が俺にあるなんてことは思っていないよ。ただ相手は海賊や犯罪者といった無法者達だったから余計だと思う。この1年で奴らに情けをかけてやる筋合いは無いということはよく分かったから」
……先程とは違う暗い表情になりましたね。
この1年で経験、見た物を思い出しているのでしょうか。
「そうですか。ですが無法者であれ、命を奪うことが普通になってはいけませんよ」
「ん、分かっている。相手がどうであれ命を奪ったことに変わりない。命を奪ったことは俺がこの先、一生背負っていかないといけない事だけどね。……別にあいつらに敬意を持ってやるわけじゃない。これは俺が奴らのように道を踏み外さないようにするための枷であり見本だから」
「それでいいと思いますよ」
私は彼の頭を撫でる。
髪は一年も海に出ていた所為なのか、紫外線や塩などで傷んでしまいギシギシしていますね。それに髪の長さも少しおかしい、多分自分で切ったのでしょう。この一年本当に頑張ったようですね。
「ね、ねぇ。今何処に向かっているの?道のり的に家ではないみたいだけど……」
撫でられることが恥ずかしく、しかし嬉しそうでもあるリツからの質問に私は撫でたまま答える。
「神代家ですよ。そして貴方には神代家現当主で神国の帝でもある神代文代様に会ってもらいます」
――――――――
「神代家ですよ。そして貴方には神代家現当主で神国の帝でもある神代文代様に会ってもらいます」
お母さんは俺を撫でながら今向かっている場所と会う人物の名前を教えてくれる。
が、あまりにも予想外の人物の名前が出てきた所為か、俺はかなり間抜けな顔をしていたのだろう。
「フフ。驚いているようですね」
そりゃ驚くよ。
この国のトップであり、お母さん達、御三家が忠誠を誓っている方なのだから。
「えーと、俺こんな格好だけどいいの?」
先程帰って来たばかりのため身体のラインがくっきりと出ているぴっちりスーツの戦闘服に、そんな恥ずかしい戦闘服を隠せる黒のフード付きのローブを羽織っている。髪はボロボロのボサボサで身体は汗や潮で汚れているため、少し汗と潮の匂いがしている現在の俺の状態では今から偉い人に会えるような恰好ではない。
「大丈夫ですよ。それに正式な謁見ではありませんし、文代様は優しいですから」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど?」
「本当に大丈夫なのですが……まぁそれほど気になるのであれば後程お風呂に案内しますよ」
「?…はい」
何処かのお風呂場にでも寄るのだろうか?
「さて、本日急遽文代様が貴方と会う理由ですが、貴方が琴葉様や尊様を護ることが出来る程の力を持っているのか、貴方が尊様、琴葉様の近くにいても大丈夫な人物かどうかを文代様自ら見極めるためです」
「なるほど」
神代家当主でありこの国のトップ、帝でもある文代様が急遽ではあるが俺と会う理由をお母さんに教えてもらい納得。
そりゃ可愛い孫を陰から護る人間がどのような人間なのかは実際に会って確かめるしかないだろう。しかも異世界からやって来た人間ならば余計だろう。
「ま、それは建前だけどね」
「建前?」
姉さんがバックミラー越しにこちらを見ながらがら教えてくれる。
俺はどういうことなのか訊こうとお母さんの方を見る。
お母さんは少しばつの悪そうな顔をして口を一文字に結んでいた。
ほ~ん、何かありますね?
「母様は文代様の護衛を担当しているんだけど、二人はとっても仲がいいの。それはもう姉妹と思われるほどね」
姉さんが話し出すが、お母さんは一向に口を開く気配がない。
「仲が良いから公務の時以外だと気軽に話しているんだけど、お母様その時にりっくんの自慢話をしているみたいでね?当然文代様はりっくんや御影の事については母様から報告を受けているからを知っているのだけれど、母様があまりにもりっくんの自慢話をするものだから実際に会ってみたくなったんでしょうね」
「ふー……ん?……ねえ、お母さん。何を、話したの?」
神代家の当主である文代様に俺の事は知られている。
孫の琴葉様の能力、予知夢により異世界から人が来ることは知られていたため、異世界からやって来た人物を保護するよう仰せつかっていたお母さんは俺達を保護し、文代様に俺という人物がどのような人物なのか、御影はどれほどの戦力なのかを報告しなければならなかった。
もちろん報告をされることは事前にお母さんから聞いていたし、了承もしていた。
しかし、お母さんが俺達についての報告以外に自慢話をしているなんて思いもしていなかった。
さて問題はどんな自慢話をしていたのか。
国のトップが異世界からやって来て戦艦一隻を有し、その戦艦を1人で自在に操れる人物という肩書以外で興味を持つ……いやこれでも十分興味を持つに値するが、それ以上の興味を持つ程の話をお母さんは話した可能性が高いわけだ。
なので俺は問い詰めるべくお母さんの方へ顔を向ける。
するとお母さんはグリンッと勢いよく顔を背けた。
……大変怪しい。
なので俺はジーーーーーッとお母さんを見続けた。
お母さんはダラダラと汗を流し始めたが、一向に口を割る様子がない。
「まぁいいや」
仕方ないので俺が引き下がることにした。
するとお母さんは安堵し大きく息を吐き、汗を拭う。
「お家に帰ったらゆっくり話そうね♪」
俺はそう言いながらお母さんへ笑顔を向ける。
そんな俺の笑顔を見たお母さんは俺の笑顔に心奪われたのか白くなってしまった。
「そろそろ着くわよー」
姉さんがそう言うので窓の外を見てみると駅の様な大きな建物があり、その周りはビル等の様々な建物が立ち並んでいる。
確か今日は土曜。
しかし朝早くなのにスーツ姿や疲れた顔の人がいる。これから出勤なのか、残業帰りなのか……とにかくお疲れ様です。
俺は心の中で敬礼した。
姉さんが運転する車はそんな人達が出てきたり、入っていく駅の様な大きな建物の地下へと入っていった。
「さぁ着いたわよー。ほら母様しっかりして」
目的の場所に着いたようなので車から降りる。止まった場所は地下駐車場のようだが他の車が一台もない。
姉さん達はそんな事に気にした様子もなく建物の入り口の方へと向かっていくので付いて行く。
付いて行った先にはホームドアが設置された地下鉄ホームのような場所だった。
違う所があるとすれば電車がやって来る所に透明で大きな筒があること。そしてそんな透明で大きな筒は何処までも続いている。
姉さんはホームドアの近くまで行くと、その扉の前にある金属製で腰の高さ位のポール―頭の部分が斜めになっている―の様な物に手をかざす。
数十秒後くらい経つと目の前の筒に列車の様な物が通る。
そして目の前で止まり、開いた。
「それでは行きましょうか」
立ち直ったお母さんに連れられ、列車の様な物に乗る。
内装は新幹線のグリーン車の様なちょっとリッチな感じだ。
……乗ったことないけど。
「これは?」
「真空列車。知らない?」
「……」
未来の乗り物というか、内臓を破裂させる乗り物としてなら知ってる。
「これなら神代まで3時間程で行けるのよ」
「おぉー」
神代家の屋敷がある場所はこの島、というか大陸?の中心部。都市名は神代。
そこには神代家のルーツとなっている山がそびえ立っている。
その山の高さ、大きさは富士山以上、エベレスト未満で、名前はまんま神山。
そんな山の中腹、よりかは麓に近い場所に屋敷を構えてる神代家へ、ここ神護から車で向かおうとすると早くても20時間以上はかかるほどに遠い。
神国はこの星では一応、島国だが地球では大陸と言える程の大きさ。
飛行機が無いこの世界では高速で大量に人や物を運べる乗り物として新幹線や地下鉄などの列車系の技術も発展し、国中に張り巡らされている。
そんな技術の発展により完成した真空列車は新幹線の代わりとなっている。
だが鉄道がすべて滅んでいるわけではなく、短い距離の場合は鉄道が利用されている。
さてこの列車、なんと神護家の所有らしい。
なんでも神代家や他の御三家に用事がある際、現地へ訪れるにはあまりにも遠いため必要なんだとか。
そしてそれは、他の御三家や視察などをする神代家も同じなのでそれぞれ専用車があるらしい。
あまりにも遠いため神代家の近くやそれぞれの領地に一応別宅があるらしいが、この高速列車が登場してからはあまり利用されなくなていないらしい。
しかしこの世界、真空列車やマスドライバー、ギガフロートなどの様な未来というか夢の様な代物があると思えば、戦艦や車のといった近代の代物もあったりと、いろいろと混在していて技術の発展の仕方がよくわからん。
ま、あまり気にしてないからいいけど。
そして俺は未来の乗り物に乗った。
道中、神代家に訪れるのに軍服では少し仰々しくはないだろうか、ということでお母さん達は着替えた。
もちろん俺は隣の車両に移動しておいたので、お母さん達の着替えは見ていない。
ついでに汗や汚れを拭き取っておくことにした。
そして残念ながら俺の着替えは無いので服装はそのまま。用意しといて欲しかった。
そして未来の乗り物に揺られる事、約3時間。実際は揺られていないけどなぁ!
時間通りに駅に着いたらしく列車は停まった。
動き出す時もそうだったが止まる時もとても静かで、慣性もほとんどない。
心配していた身体にかかる負荷も、内臓が破裂するようなことも無かった。
良かった。いや、ほんと、よかった。
で、駅に到着し列車から出る際にお母さんから再び仮面を付け、フードを被るように言われたので言われた通りにし、列車から降りホームから出る。
通路は来た時と同じく一本道であり地下駐車場に繋がっていた。
駐車場に出ると出口の前に黒の高級そうな車が停車しており、その前に1人の黒のスーツを着た女性が立っていた。
「お待ちしておりました。神代家のお屋敷まで送りいたします。どうぞ」
女性はそう言いながら、車の後部座席のドアを開けてくれたので3人で乗り込む。
姉さん、俺、お母さんの順で乗り込み、座る。
女性は乗り込んだのを確認するとドアを閉め、運転席へと乗り込んだ。
「それでは出発いたします」
車が動き出し、地下から地上へと出た。
当たり前だが、神護の駅に向かう時と比べだいぶ高く昇っている。眩しい。
駅周辺の景色は神護とあまり変わらなかったが、出発してから10分程すると歴史のありそうな木造の建物だったり神社やお寺、五重塔の様な建物が見えだし、風情ある街並みになっていく。
車はそんな街並みの中進んで行き、どんどん神山に向かっていった。
神山に近付いて行くにつれ建物が少なくなり逆に木が多くなる。ついには森の中を進んで行った。
そんな森の中を進むこと5分。駅から出発して大体1時間半で目的地の神代家の屋敷へと着いた。
神護家と同じく武家屋敷なのだがその規模が違う。
特に門から屋敷までが遠い。
よくアニメとかでお嬢様の家に遊びに行くと門を通ったはずなのに屋敷までが遠すぎて迷子になるのがあるが、まさにそれだ。
つまりに庭がめちゃくちゃ広い。
屋敷も大きく神護家の二倍はありそうだ。
そんな屋敷の入り口に車は停車し、運転してくれていた女性がドアを開けてくれる。
「到着しました。足元にお気を付け下さい」
女性にお礼を言いながら車から降りると、屋敷の玄関の前には既に人が待っていた。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。文代様がお待ちです」
綺麗なお辞儀をして出迎えてくれたのはやはり女性、その出で立ちは和服にエプロンといった所謂大正ロマンの服装だ。
そんな服装の女性の案内で屋敷に入りで付いて行く。
案内先はどうやら離れのようだ。
しかもその離れ池の上に建てられており、渡り廊下で母屋と繋がっている。
つまり渡り廊下も池の上に建てられている。
池はかなり広く、浅い。
水はかなり綺麗で底の砂が見えるほど透明だ。
水草も生えており、小さい魚影も見える。
そんな光景を見ながら渡り廊下を渡っていくと、離れに着いたらしく女性は入り口前で止まった。
「文代様、お客様がいらっしゃいました」
「どうぞ」
中からの許可を得て、案内をしてくれた女性は戸を開ける。
開いた戸から部屋へお母さん、姉さんは入って行き、俺もそれに続いて部屋へと入る。
俺が部屋に入ると戸は閉められ、先程案内してくれた女性の気配が遠のいて行くのを感じた。
そして招かれた部屋の奥には一人の婦人が眼鏡を掛け書見代で何かを読んでいた。
この人が現神代家当主であり、神国の帝でもある神代文代様なんだろうなー。
と思っている間にお母さん達は勝手知ったる他人の家状態で座布団を取り出し座り始める。
そんなお母さん達の行動を気にした様子も無く、本を読み続けている婦人を他所にお母さん達は俺の分の座布団も用意してくれたようで、コイコイッと手招きして俺に座るように促す。
用意してくれた場所―二人の間―に腰を下ろすと、それを見計らったかのように婦人は書見代を片付け、眼鏡を外し、微笑んで口を開いた。
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ」
誤字脱字報告ありがとうございます。
物語、書くの、難しい。




