第25話 実践訓練
また休んで申し訳ありません。
そしてまた日曜までに出せなかった。
俺への罰は着せ替え人形だった。
男の子物から女の子物まで、多種多様な服を着せられ写真に撮られてしまった。
……まぁそれは置いておこう。
さて真里菜姉ちゃん、愛莉ちゃん、雪音お姉ちゃんと出会って、いやこの世界に来てから2年が経ち、俺は7歳となった。
急に2年の月日が経たわけだが、特に何もしていなかったわけではない。
ではこの2年、俺は何をしていたのかというと。
まず1年目は、とにかく訓練の日々だった。
親父との訓練はあの日以来ますます激しさを増し、より多くの血反吐や血尿となり骨を折られては治してまた折られ、治しては折られの繰り返しだった。そこに姉さんとお母さんの訓練も加わった。
訓練といっても毎日というわけではない、三人共それぞれに仕事がある。
なので三人共おらず訓練が出来ないとなった日などは、この世界についての勉強や今までに教わった事の振り返りなどをしていた。
ちなみに姉さんの訓練は隠密、暗殺系。お母さんは超能力の訓練。
そのおかげか超能力の扱いは断然良くなり、それに伴い戦闘力が上がった。
どれほどかというと親父の本気とほぼ互角で戦えるほどに。後は実戦による経験が必要だとか。
正直1年でそれほど成長するはずがないのだが、皆曰く、俺はいろいろと異常らしい。
まぁ、出来るようになってしまっているのだから気にしても仕方ない。受け入れよう。
そういえば、秘密ドックにいた奴らの正体だが、結局分からなかった。
いや、本当はお母さん達は知っているのかもしれない。
しかし、俺には何も教えてくれなかった。
この事にアウラは何か言うのかと思ったが何も言わなかったので、多分アウラも知っているのか、教えてもらっているのだろう。
俺に教えないという事は、俺は知らなくてもいい、という事なのだろう。そう思うことにしよう。
で、侵入を許した秘密ドックに2年も御影を隠していては危険という事で、御影を別の場所に移動させた。
御影を移動させた場所は、見張りを必要としない場所。
つまり、御影を隠していたあの無人島を警護、防衛することを任務としたお母さんの直属部隊『ガーディアン』はお役御免となったわけで、当然半年に一回行う予定だった慰労会や何かしらの報酬は無しとなった。
だが短い期間とはいえ御影を護っていてくれていた事には変わりないので、感謝として慰労会や報酬は一回だけ配られ、開催した。まぁその何かしらの報酬は様々な物だったが、何故か俺の写真集があり、俺にハグされ、耳元で言って欲しい事を囁いてもらえるチケット付きだった。そしてそのチケットは慰労会の時に使われた。
あと、一度ムーの故郷へも行った。捕えたホーリー・モノポリーの者からムーを密猟した場所を吐かせ、その場所へと赴き、ムーの家族を探してみた。しかし家族は見つからずそのままムーを自然へと還そうとしたが、やはりムーは嫌がったのでキュピルが生息している場所を管理している国、エウ連邦から特別に許可を貰い、譲ってもらった。
これによりムーを堂々と連れ回せることができるようになった。
真里菜姉ちゃんや愛莉ちゃん、雪音お姉ちゃんとは1年も経てば随分と仲良くなり、泊まりに来た日なんかは、俺が一人で風呂に入っていると乱入して来たり、朝起きればいつの間にか隣で寝ていたり、とそんなことをされる位には仲良くなった。
特に愛莉ちゃんが俺の事を「おじちゃん」と呼んでいたのが「おにいちゃん」と呼ぶようになった事が大変喜ばしい。
他にはアウラと一緒に御影の武装、部屋、施設等の変更、改良、設置を端末を使って行い、『ぼくのかんがえかさいきょうせんかん』的なものを面白半分で設計してみたり、お母さんが俺の身分証明を捏造したり。
と、そんな事があった最初の1年。
で、2年目は海賊や海の生物相手での実戦。
1年の期間で様々な部隊に同行し、海賊退治や海上警戒を行った。
そして今日はその1年間の実戦期間も終了し、1年ぶりに家への帰宅である。
「グッ……おい!その席はアタシのだ!とっとと降りろ!!そんでアタシを治療して開放しな!さもないとアンタのパパやママをアタシの僕達が殺しに行くよ!」
「――はい、はい。ええ、制圧完了しました。部隊の皆さんは…ちょっと眠ってもらっています。はい、怪我はありません。はい。海賊、魅惑の花のリーダーである女を拘束してます」
草木も眠っている時間帯にも関わらず騒がしい。
今いる場所は無人島を利用したとある海賊のアジト。
名を魅惑の花と名乗り、この無人島にある天然の洞窟を拠点として利用し、ここら一体の海域を荒らしていた。
拠点として洞窟を改装中だったらしく、所々岩がむき出しの状態な場所が見られるが電気は通っており、洞窟内は明るく、広い。
そんな洞窟の最深部はこの海賊の首領の部屋らしく、最優先で改装したのだろうが岩がむき出していたりといった不備は見当たらない。
そんな部屋には今まで盗み、奪ってきたであろう財宝が飾られ、趣味の悪い内装となっている。
そしてこの場に似つかわしくない、これまた趣味の悪い玉座が設置されていた。
俺はその玉座に座り、足元で手足から血を流し起き上がることのできない状態で顔を真っ赤にしながら騒ぎ立てている女を見下ろしながら報告をしていた。
「このクソガキが!聞いてんのかい!?こんなことをして、アタシを誰だと思っているんだい!誰もが恐れる、魅惑の花のキャプテン、ビーナス・マ――」
「はいはい。うるさいですよー。だまっていましょうねー」
「ギャヒッ?!」
あまりにも五月蠅いので弱めの電撃を流し、麻痺させておく。
ちなみにこの女、自身が言ったように魅惑の花と言う海賊のキャプテンで、ビーナス・マハイと呼ばれている。本名はマハイ・ルーズ。
肌は荒れ、髪はボサボサのベタベタ、歯はガタガタ、かなりの肥満体系、言葉遣いからも分かる通りの人格で、どう見てもビーナスとは呼ばれる様な女ではない。
では何故彼女がビーナスと呼ばれているのか、その理由は彼女の超能力が関係している。
彼女の超能力は、自身の体臭を操り、相手を催眠に掛け、意のままに操ることが出来るらしい。そしてその体臭を嗅いだ者は、彼女の姿がとても美しく見え、魅了されてしまい、彼女の忠実な僕になるのだとか。
そして忠実な僕となった者達に彼女は自身のことをビーナスと呼ばせていたため広がった名前がビーナス・マハイというわけである。
能力に関しては実際、一緒に突入した部隊の人が、「お姉様!」なんて呼びながら彼女を護ったり、こちらに攻撃してきたりしたので間違いないのだろう。
俺は彼女の首に、金属で出来た首輪の様な物を付ける。
これは超能力を使えなくさせる物であり、能力を使おうとすれば、脳波を検知し首輪が瞬時に絞まり、力の行使を邪魔し、気絶させる。もし首輪が絞めても、気絶せずに力を行使しようとすれば睡眠薬が投与される代物だ。基本はこれでどうにかなる。
あらかた倒れている海賊達に首輪を付け終わる頃―マハイの催眠に掛かったため俺が気絶させた―部隊の人達が起きだす。
マハイの催眠は、彼女の体臭を長く嗅げば嗅ぐほど深く、解けにくくなる。幸い部隊の人達が嗅いだ時間は短かったのでその心配はない。
「大丈夫ですか?すみません、少し強くし過ぎたかもしれません」
俺は玉座から立ち上がりお腹を抱えながら起きた人、この隊の隊長に近づき話しかける。
ちなみに俺は遊撃として部隊の人達と一緒に行動しており、基本はこの隊長さんの命令に従うが緊急時は独自で動いてもいい権限を貰っている。
あ、この部隊員はもちろん全員女性です。
「ゴホッ、いいえ、大丈夫です。しかし、申し訳ありません。すべて貴女にさせてしまって」
「大丈夫ですよ。これが私の任務ですから、お怪我が無いようで何よりです」
「本当にありがとうございます。ハクメン殿」
俺の事は、姉さんとお母さんの部隊―他国との演習帰りで俺を保護してくれた部隊とガーディアン―しか知られていない。
なので素顔を隠すために顔を全部覆える無地で白塗り、片目だけ開いた仮面を付け、フード付きの黒いマントを羽織り、声は念のために女性っぽい合成音声にしている。
ちなみにこの仮面かなりの物でして、息苦しさは無く、声は籠もらず、片目しか開いていないため視界不良と思いきや、内側は液晶になっており周りの映像が映し出されている。なら片目開いてなくてもよくね?と思うかもしれないが……うん、そうだよ。特に意味は無いよ。ただ、片目だけ開いてるのかっこいいと思ったから開けたんだよ。文句ある?
…さて、この仮面には他にもサーモグラフィやボイスチェンジャー、地図を表示できたりと様々な機能がある代物だ。作ってくれたのはもちろん御影のオーバーテクノロジー、自ら取りに行きました。
なのでコードネームは白い面を付けているため、ハクメンだったりシロだったりする。―海賊共からは一つ目って呼ばれるの―
「それにしても、よくマハイの催眠に掛かりませんでしたね」
今回使用した武器に損傷がないかと調べていた俺に先程の隊長が、―俺が―気絶させた隊員達が起き出しているのを横目に尋ねてきた。
「ああ。匂いを感じないように嗅覚の電気信号を遮断していたんですよ。私、生体電気を操れるので。マハイは匂いによって脳を混乱、催眠状態にすることは分かっていましたから」
「流石、新たに新設された神護家の直属部隊ですね。その歳でしっかりしていらっしゃる」
俺は任務の都合上、神護家の直属部隊に所属していることになっており、その体で動いている。
直属部隊と言っても部隊員は俺一人だけだが…。
「いえ、私が異常なだけです。私は神護家の方に拾って頂いて命拾いしました。その恩返しとして私に出来ることをしているだけなのです。私に出来ることはこんなことくらいですから」
「……一体どれほどの……失礼。詮索は禁止されていましたね」
「こちらも話過ぎましたね。隊員の皆さんも起きたようですし、帰投しましょうか」
「ええ。しかし我が隊がこうも簡単に壊滅させられるとは……」
「仕方ないのでは?マハイの脳波は400Pw。無力化させるなら、隊長さんの部隊でも問題ありませんでしたが、備わっている能力が厄介でした。あの能力なら400Pwだとしても、部隊を壊滅されてしまっても納得できると思いますが?」
「私達のこの仕事は“仕方ない”で済ませてはいけません…」
「そうですね、すみません軽率なことを言いました。…しかし、ガスマスクに効果が無かったのは意外だったのでは?」
「あぁ、あれは驚きましたね」
マハイの能力はある程度分かっていたのでガスマスクを装着し突入したのだが、ガスマスクは効果を発揮することなく隊員は次々と催眠に掛かってしまった。
「ま、今回の失敗は次に生かしましょう。今は無事、誰も欠けることなく目標の壊滅、確保が出来たんですから、そのことを喜びましょう」
「そうですね。しかし、今日で貴女とはお別れですか…。ようやく部隊の皆と仲良くなってきたと思ったんですが……」
「ああ、そうですね。二ヶ月の短い間でしたがお世話になりました」ペコリ
「いえいえ、こちらこそ。貴女がいなければ数名の部下は今ここにいません。他の部隊が言っていたように、貴女は切り札ですね」
「そう言って頂けると嬉しいです」
「では、後処理は私達に任せ貴女は休んでいてください。…ほら、貴女達!しっかりしなさい!!」
気絶している部隊員の人達を起こし、後処理を始めた隊長さん達を眺めながら、2年前のことを思い出していた。
――――――――
「貴方には私の直属部隊に入ってもらいます」
真里菜姉ちゃん、愛莉ちゃん、雪音お姉ちゃんと初めて出会った日の夜。
俺はお母さんから呼び出されていた。
姉さん達は泊っていくらしく、三人娘は俺の部屋で寝ている。そのため俺は、三人が眠ったのを確認しこっそりと抜け出してきた。
いつもの客室に向かうと大人達は晩酌をしており、俺が来たことに気付くと晩酌そのまま、お母さんと向かい合う様になる場所に座るよう言われ座った。
そしてお母さんはお猪口を片手に先程の話を切り出す。
「直属部隊?ガーディアンに入れと?」
「いいえ。あれは元帥としての直属です。貴方には神護家直属の部隊に入ってもらいたいのです」
「そんな部隊があるんだ」
「いいえ。貴方だけです」
「なんでやねん。てかそんなこと急に言われても…。因みに何をするの?」
「主に護衛ですね」
「誰を?」
「護衛をしてもらうのは、神代家次期当主兼帝になられる神代和樹様の娘、次女の神代琴葉様です」
わぉ、かなりの重要人物
…ん?その子は予知系の能力を持っており、各国から狙われている子なのでは?
お母さんに尋ねると
「ええ、そうです。こちらに来る時に神代家について話したと思いますが、その時に話した予知系の能力、予知夢を持っている方が琴葉様です」
やっぱり。しかし何故俺なのだろうか?
「お母さん、なんで俺なの?」
「貴方が武信さんに並び立つ、もしくは超える可能性があるからです」
はい?俺がこの脳筋アホ親父と同くらいか超える存在?ないない
「貴方が本日戦った武信さんの本気度は、約4割。これは普通の者だと数秒も持ちません。現に海兵隊の者や私の直属の部隊の者でも勝てる者、いえ耐えられる者はいません。いるとすれば優香か神武家本家の者くらいでしょう。ですがリツ、貴方は一週間で渡り合えました。おそらく1年間本気で鍛えれば武信さんと同じくらいに、もしかしたら超える可能性が高いです。ですので貴方を1年間本気で鍛え上げ、更にもう1年で実戦を経験してもらいます」
なんともハードそうな予定だな。
てか親父、4割で耐えられる人がいないのに、そんな配分で俺と戦ったのかよ。
親父を睨むと、親父は俺から顔を反らした。
「……俺が強くなることは分かったけど、なんで直属部隊?」
「貴方には神護家が自由に動かせる駒として動いて欲しいのです。琴葉様以外にも姉の尊様も陰から護ってもらったり、私や武信さんの手伝いをして欲しいので…」
「要は助っ人?」
「まぁ、そんな感じですね」
「ふーん。…俺が護衛する必要ってあるの?」
「正直に言って、今の神代家は危うい。今まで知られなかった力を世界中に知られてしまい、狙われ始めています。前にも言ったように神代家の者には神護家の人間が護衛をします。現当主には私と武信さんが、次期当主には優香が就いているのですが…。琴葉様の能力の事が知られるようになってからは琴葉様、長女の尊様にも護衛を就けるようしまして、現当主には私が、次期当主には武信さん、そして長女の尊様には真里菜が、そして次女の琴葉様には愛莉が就き、陰から優香が支える予定なのですが……愛莉はまだ能力に目覚めていません。なので愛莉が能力に目覚める時まで分家の者から一番腕の立つ者を琴葉様の護衛にしようか考えていますが、あまり分家の者達は信用できません。琴葉様を狙って怪しい動きがあちこちでしている今、早急に神代家の、特に琴葉様の護りを強化しないといけませんから」
「なるほど?じゃあ俺は愛莉ちゃんが護衛できるレベルに成長するまで琴葉様の護衛をして、愛莉ちゃんが成長したら護衛を愛莉ちゃんに譲る、と?」
「いいえ、貴方には裏から護って欲しいです」
「姉さんと協力して陰から護れ、と?」
「いえ。愛莉が護衛に就いたら尊様、琴葉様を陰から護るのは貴方に任せます。優香は元の次期当主の護衛を任せます}
「う~ん」
「やってくれませんか?」
「他に裏で動いている部隊とかないの?」
「ありますよ、しかし…」
「あまり信頼できない、と?」
「ええ、そうですね」
≪神代家を陰から護っている部隊は各分家の中で腕利きの者達で構成されていますが、その部隊を裏で指揮を執っているのが夜守家。神護家の最古の分家の一つであり、神護家の分家の中で最も力があります。また本家であるはずの神護家に反抗している分家の筆頭でもあります≫
アウラの解説を聞き、お母さんを見つめる。お母さんは俺から顔を反らした。
てかそんな危ない分家に裏の部隊の主導権を持たせたらいけないと思うんですが?
「態度が変わったのは今の当主になってからなのです。以前の当主までは我が神護家と協力し合い、指示にも従ってくれたのですが……」
今の当主は言うことを聞かず、潰したくても最古の分家かつ力があり今までの忠義もある、また大きな事も起きていないため簡単に潰せない、か
「……ねぇ、お母さん」
「はい」
「そんなに分家の、夜守家は信用できないの?」
「……そうですね。夜守家とほとんど分家が信用できません」
「そっか」
保護してもらった恩もあるし神護家の力になると約束した、今がその約束を果たす時だろう。
「分かった。やってみる」
「ありがとうございます」
こうして神護家直属部隊(一人)として陰から護衛をすることを引き受け、2年間の訓練を受けることになった。
――――――――
そんな事を思い出していると帰投の準備が出来たらしく、捕えた海賊達を引きずりながら艦へと戻る。
海賊たちの収容が完了し艦が動き出した頃には太陽が顔を出していた。
帰投中は特に問題になるようなことはなく、約1日をかけて母港へと帰投した。
母港へと到着した時の空は白み始めており、水平線の向こうは紅く染まりだしていた。
帰投した港は神国海軍の本拠地、神護鎮守府。
名前からも分かる通り神護家の領地にあり、神国内で最も大きい軍港。
様々な艦や潜水艦が港に停泊し、朝早いというのに既に艦艇へ物資を運んでいたり、甲板上で何かをしていたり、と動き出している。
艦が港へと接岸すると捕えた海賊や奪われていた財宝を隊員や船員の人達が艦からどんどん降ろしていく。
そんな光景を船首甲板上で眺めていると後ろから誰かが近づいて来る。
「シーローちゃん!!」
その近づいてきた何者かに後ろから抱きかかえられてしまった。
背中に二つの柔らかいモノが当たっている。
「シロちゃんは相変わらず小っちゃくてかわいいねぇ~」
「こら、美沙希。ハクメン殿を困らすな」
今俺を持ち上げ、語尾を伸ばす独特な喋り方で話す美沙希と呼ばれた人物は、俺が今回2か月間お世話になった部隊の副隊長さん、そしてその美沙希さんに注意したのは無人島で話していた隊長さんだ。名前は実さん
「どうしました?」
「いえ、この後貴女の送別会みたいな事をしようと思い、呼びに来たのですが……」
「どうも先客がいたみたいでね~、シロちゃんにお迎えだよ~」
美沙希さんが片手で刺した方を見ると、俺が今乗っている艦の近くに1台の黒い車が来て停車、白い軍服を着た女性が現れた。
「あれは……岩戸鎮守府の所の提督じゃない?」
「本当ですね~。優香提督みたいですが~どうしてこちらに~?」
二人が話している間に姉さんは後部座席の扉を開けた。
「!?」
「あ、あの方は!」
二人は驚愕した。なんせ姉さんが開けた後部座席から現れた人物は……
「「げ、元帥閣下!?」」
海軍元帥つまりお母さんであった。
周りで作業していた人や、別の艦で作業している人達も気付いたらしく、驚きはあれすぐさま敬礼をした。
お母さんは答礼し、作業を続けるように指示を出す。
お母さんはキョロキョロと周りを見て何かを探していると、俺と視線が合った。
「ね、ねぇ。元帥私達を睨んでない?」
実さんが言う通り、お母さんは俺を見つけると、スゥ、と目を細めこちらを見ているのだ。
「…先程私に迎えが来ている、とおっしゃいましたよね?」
「え?う、うん。そうだけど~…も、もしかして~?」
「多分、私の迎えでしょう。元帥閣下が迎えに来るとは思いませんでしたが」
「おそらくそうでしょう。私も驚きました。しかし神護家当主でもあられる元帥閣下が自ら迎えに来たということはハクメン殿はとても気に入られている、という事でしょうか?」
まぁ、血は繋がっていないが一応親子ですし
「シロちゃんすっごーい!でもお別れは寂しいよ~!」
美沙希さんはそう言いながらギューッと俺を抱きしめる。
それに伴い背中に当たっている2つの柔らかいモノがフニュッと形を変えさらに密着する。
それを見たお母さんと姉さんの目はさらに細まる。
「そうですね、私も寂しいです。……ではここでお別れにしましょうか。2か月間ありがとうございました」
美沙希さんに下ろしてもらい、彼女達に2人の顔が見られないように向き直り、敬礼をする。
「こちらこそ、貴女のおかげで部隊が変わったように思います。こちらこそありがとうございました」
「またどこかで会おうね」
二人はそう言い、答礼をし握手を求められたのでしっかりと握手した。
下船の準備をし出口に向かうため艦内を歩いていると、何人かの船員、隊員に会いお世話になったことへの感謝と別れの挨拶を交わし俺は下船した。
そして迎えに来たらしいの二人の元へ向かう。
「戻りましたか」
「は!ハクメン。只今帰投しました」
俺は敬礼しながらお母さん、元帥へ帰投の報告をする。
ここでは多くの目があるため、当たり前だがいつも通りとはいかない。お母さんも分かっているので威厳のある態度で俺を迎えてくれた。
「さぁ乗りなさい。貴方に会わせたい人がいます」
お母さんが車へ乗るよう催促したのでそのまま乗ろうとすると
「シロちゃーーん!!」
美沙希さんの声がしたので振り向くと、先程別れた船首甲板上で実さんと一緒に手を振っている。
どうやら俺を見送るためにその場で待っていたようだ。
しかし、すぐそばに元帥がいるのによく呼び止めたな。
俺はそんな二人に向かって手を振り返し、車に乗り込んだ。
お母さんは俺の隣に、姉さんは運転席に乗り込む。
……姉さん運転で来たんだ。
「優香」
「はーい」
車が走り出し、何処かへと向かう。
お母さんが言う、俺に会わせたい人とは誰の事なのだろうか。
その会わせたい人に会うために何処へ向かっているのか。
色々聞きたいことがあるし、聞いて欲しこともあるのだが……。
「「「………」」」
会話が、ない。
出発して既に15分ほど経っているのだが、車内は静寂に包まれていた。
ホント、二人共どうしたのだろうか?
あと、今何処に向かっていて、俺に会わせたい人って…誰?
誤字脱字報告に感想ありがとうございます。
これを書いていて他の出している人はすごいなーと思うばかりです。




