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海の覇者  作者: リック
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第23話 眠っている合間の出来事

今回は短いです。ゴメンナサイ。


アウラのセリフを≪≫から普通の「」にしました。

あと優香視点です。


「で?何がどうなって、あんなことを?」


一週間前、りっくんに家族を紹介した客室に今回も集まり、ロープで簀巻きにした父様を天井から逆さ吊りにした母様はそう尋ねた。


「うむ、それはいいんじゃが。どうして儂はこんな――」


「は?」


「――何でもないです」


今の母様はとても機嫌が悪い。

それは仕方のない事で、今日は可愛い孫達を新しく家族となった、これまた可愛い息子(猶子)となったりっくんと顔を合わせる日なのに、私達の迎えから帰ってみればその息子はボロボロ、いつ死んでもおかしくない状況だった。

そんな状態にした張本人、父様はりっくんの状態を全く気にした様子は無く、さらにバトルを続けようとしていた所に母様が来てプッツン、能面が顕現したのよね。…久々に能面を見たわ。

もう少し帰るのが遅かったらりっくんはどうなっていたことか……父様、許すまじ。

きっと私の父様を見る目は冷ややかなモノになっているだろう。佳枝姉さんの父様を見る目も冷たく、母様は現場を見てからずっと笑顔――目は笑っていない――のまま能面が顕現状態、正彦さんは苦笑いでこの状況を見守っており、そんな周りから見られている父様は脂汗が滝のように流れている。


「…話が進まないようなので、私が説明しても?」


りっくんの端末から、アウラさんが提案してくれる。

りっくんの端末がここにあるのは、もとからアウラさんに今回の事を聞くためだからね。

ムーちゃんは相変わらずりっくんに引っ付いている。

ムーちゃんを娘達に見られたらきっと大変なことになるでしょうね。

私の娘達は今、佳枝姉さんの娘、雪音ちゃんに別の部屋で面倒を見てもらっている。これからの話は娘だとしても聞かせることは出来ない。何でもりっくんが父様に一撃を入れたらしいから。


「…そうですね。お願いします」


母様が言うと端末の画面が光り、何もない空間に映像が浮かび上がった。


「では、何故このような経緯になった所から見ていただきます」


映ったのは蔵で勉強をしているりっくん。そこに父様がやって……ああ、いつも通りね。しかもパパ呼ばれされていって。その容姿ではちょっと無理があると思うの。

ほら皆も同じことを思っているようで、呆れた目で父様を見ている。父様自身は何故かショックを受けているようだ。

最初は断っていたりっくんだがアウラさん曰く、一週間パパ呼びを迫られあまりにも鬱陶しかったようで、父様の挑発に乗ってしまい今回の呼び名を賭けての試合を了承、今の様な状態になったわけね。



――――――――



…えぇ~。りっくん、父様の攻撃を見切れている?父様の四割の本気を?この一週間で?

ギリギリで避けたり防いだりしてはいるが、すべては避けたり、防いだりすることは出来ずにかすり傷が徐々に増えていっている。でもその目は確実に父様の攻撃が見えている。

母様達も驚いた様子で映像を食い入るように見ている。

…あっ、父様の超能力、グラビティで刀を重くされたりっくんに隙が生まれ父様の攻撃が左脇腹に直撃した

……子供に当てていい威力じゃないわよ。

普通の子ならこれで死んでいるわね。…死んでいないりっくんは異常だけど。


それからは驚きの連続だった。特に身体強化ができていたこと、そして騙し討ちだとしてもあの父様に一撃入れたことが。

映像が終わったけど、誰一人声を発しようとしない。

そんな静寂の中、父様はドヤ顔をしている。ムカつ――あ、母様に腹パンされた。


「なるほど。律はかなりの速度で成長しているようですね」


「中身は28歳だとしても異常ね。しかも武術は全くやったことがないらしいし。あと武信義兄さんの攻撃を受けて倒れないのが不思議なんだけど」


[我慢や気合で立っていられるものではないと思うのだけど…というか武術初心者と言えるような子に四割の本気を出す大人げない父様について、どう思う?母様?]


「そうですね。この脳筋には厳しい罰を与えましょう」


「「異議なし」」


結果、賛成2によって父様の厳罰が決まった。

そんな横で逆さ蓑虫状態の父様は母様に語り掛けた。


「…なあ、弥恵佳さん」


「何ですか?武信さん」


少し雰囲気の違う様子の父様に母様も切り替えて尋ねる。


「彼奴、律は儂らの息子かもしれんぞ」


「?そうじゃないですか」


「あー、いや。そうなんだが、その、本当に息子が生まれてきていたら律みたいな子になっているかもしれない、という意味だ」


「…どうしてそう思われるので?」


「うむ。律がお前と同じかなりの頑固者なのは薄々感じておったんだが、彼奴と戦ってそれが明確になってな。しかも儂と同じ戦闘狂の兆しもあった。映像では見えてなかったが、彼奴、戦っている最中笑っておったのだぞ?本人には自覚が無いようだったが」


「私達の悪い所じゃないですか」


「うむ。だがそれはそれで可愛くないか?」


「まぁ、そうですね」


ええー、りっくんが戦闘狂になる可能性があるの~?それは阻止したい。


「とにかく。律がここまで急速に成長していることが分かったので、急遽予定を変更します」


「母様、予定って何?」


始めて聞くことに母様以外の皆は疑問顔だ。


「予定というのは、律を琴葉様の護衛にすることです」


「「「「!??」」」」


え?!りっくんを琴葉様の護衛にするですって?!


「弥恵佳さん、それは本気で言っておるのか?」


吊るされた状態だった父様は能力でロープを解き、畳に座りながら真剣な表情で母様に尋ねる。


「はい」


「…分家の連中が五月蠅くなるし、様々な工作をしてくるぞ」


「分かっていますよ」


「律の命が狙われるかもしれないのだぞ!!」


ドンッ、と畳を殴り、怒りを露わにする父様。母様に向かって怒鳴った姿も久々に見る。

だがそれは、父様がそれだけりっくんの事を認め、気に入っているという事であり、心配しているという事でもある。


しかし、父様が言ったように、もしりっくんを琴葉様の護衛にした場合、りっくんの命が狙われる可能性が高くなる。

琴葉様は神代家次期当主兼神国のトップつまり帝になられる神代和樹様の娘。さらにもう一人、琴葉様の姉がいらっしゃるがその方は私の娘、真里菜が一応護衛を担当している。

琴葉様は愛莉が担当することになっているけれど、愛莉はまだ超能力に目覚めていないし、戦闘訓練を始めていない。

超能力が使えるようになるのは5歳から。

何でも5歳になると脳波が安定し使えるようになるのだとか、でもあまりにも脳波が強ければ5歳になる前から超能力が出現したり、才能があれば使えたりと5歳になる前から使えるようになる事例はある。



神代家本家の方々の傍で護衛をするということは信頼も厚いという事であり、名誉である。それを神護家が主体でやっているのだけど、最近、分家の者達が「自分達も神護家の一族であるため神代家の護衛をさせるべきだ」と言ってきている。

分家の者達には神代家の屋敷や主要施設、会議などの時の警備を担当してもらっており、それも十分名誉な事であり大事な任務であるのだが、どうやらそれだけでは満足できないらしい。


そもそも分家の者達に神代家の方々の護衛をさせないのには理由がある。


まずは戦闘能力が低いこと。一般の人に比べれば十分に強いのだが護衛をするには不安になる戦闘力だからね。


そして分家の者達は神代家からの信用が無いという事。最近では特にね。


一部の分家はその地位を盾に傲慢となり、私腹を肥やし、果てには神護家の地位を狙っている兆しがある。所謂、反神護派がここ最近増えてきているのよね。

でもそんな神護家(私達)に背く分家があれば、神護家(私達)に協力し立ててくれる分家がある。

今はそんな親神護派の分家と手を組んで反神護派の分家を抑えているのだけど、その規模は膨れ上がておりそろそろ抑えが利かなくなってきている。

そのためか表には出ていないが、裏で様々な事が起きており、一度母様と佳枝姉さんそして真里菜の暗殺もあった。

残念ながら指示した者、企んだ者をあぶりだすことは出来なかったが、もしりっくんが琴葉様の護衛をするとなれば狙われる可能性は出てくるでしょうね。

母様もそのことは分かっているはずだけど…。


「何も私達の様に傍で護衛するわけではなく、裏から護衛してもらおうと思っています」


「裏には分家や弥恵佳さん達の部隊の奴らがおるではないか」


「それを含めての裏からの護衛です」


「「「「!!」」」」


裏からの護衛を担当している者達のほとんどは分家の者達であり、残りは私や母様の直属の部隊の中から信頼できる選ばれた者達で構成されている。しかし今の母様の言葉では、裏の者達の中に裏切り者がいることを考えているというだろう。


「…わかった。いつ入れる?」


「二年後です。その間に武信さんは律に教えられるだけ古武術を教えてあげてください。超能力は私が、優香、貴方は暗殺、隠密を教えなさい、あと身体強化も」


「わかった。でも二年後って大丈夫?」


「ええ。秘密ドックで捕えた者達を尋問し得た情報から、当分は動けないでしょうから」


「あ、情報吐いたんだ」


「はい。律の写真を見せるとすぐに。念の為に御影の隠蔽場所を変えなければなりませんね」


何ですって?


「それについてはご主人様と相談してからにしましょう」


「そうですね。あと――」

「母様」

「――何ですか、優香?」


気になるワードがあったので母様の話を遮って尋ねる。


「りっくんの写真ってどんなの?」


あの捕えた者達がそう易々と口を割ることはない筈なのよね。あれは斥候、スパイだから。

そんな者達の口を割らせたりっくんの写真……気になります。佳枝姉さんも気になっているらしい。


「これですよ」


母様が見せてくれた写真には、縁側で気持ちよさそうに昼寝をしているりっくんの姿が写し出されていた。

その写し出されている姿が、いつもの和服があと少しで乳首が見えそうなくらいに胸元が(はだ)け、脚を大きく開いた状態で生脚が姿を現し、さらにその上は、パンツを履いているのか履いていないのか不明な絶対領域が展開されとてもエチエチな姿だった。しかもりっくんはそんな姿にもかかわらず涎を垂らし、幸せそうな顔で眠っているという、大変無防備な状態の姿だった。


私と佳枝姉さんは食い入るようにその写真を見ていると、母様は写真を仕舞ってしまった。


「ああ!」「あと少し!」


私達の懇願に母様は


「なら貴女達の娘に何を期待し、何を目的に顔合わせをする事にしたのかを話しなさい、そうすればもっとすごい物を見せます」


「「はい!娘をりっくん(りっちゃん)に紹介し、結婚の約束をさせることです!!」」


「なるほど、そうですか」


「「ハッ!?しまった!!」」


つい誘導尋問に引っ掛かり、今回の目的を母様に話してしまった。


今回の顔合わせは私達が提案した事だ。

娘達はまだ幼いが家の事は話さないように教育しているので、もしりっくんに会っても問題ない。

そしてりっくんを紹介すれば娘達は気に入り結婚の約束をするはず、そうすればりっくんは将来の義息子となり、私の事もお母さんと呼ぶようになる。という計画のはずだったんだけど。早々に見破られてしまった。


しかしこれならどんなに口が堅くても、すぐに口を割ってしまうわね。


「あの子達には自由に恋愛させなさい。律の事を好きになればそれはそれでいいですが、自分達の欲の為に娘を利用してはいけませんよ」


「「はい、気を付けます」」


別に本当に結婚の約束をさせようとは思っていない、ただこれから家族になるあの子とはいい関係になって欲しいとは思っている。母様も分かっているためかそれ以上は何も言ってはこなかった。


「ところで母様」


「何ですか?」


「あの写真、焼いてくれない?」


先程のりっくんの写真が欲しくてねだると佳枝姉さんも


「私も!欲しい、欲しい!!」


と便乗してきた。そして母様は


「あの無人島を警護をしている私の直属の部隊『ガーディアン』の今回の褒美となる予定の写真集に載せる予定なので、欲しければ私から買いなさい」


「「ええ~、無料(タダ)でくれてもいいじゃーん」」


「買えば、律のハグと耳元で一言を言って貰えるチケットが付いてきますよ?」


「「買わせていただきます」」


そんなやり取りをしていると


『いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!!』


りっくんの叫び声が家中に響き渡った。


女性陣が律の写真の話をしだした時の男性陣


「…平和じゃな」


「いいんですか?止めなくて?」


「止めて止められるなら、(とう)に止めておる」


「…ですよね」


「それに…」


「?」


「気付いた時にはもう遅いしな」


「…ええ、本当に」


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