第22話 恐怖
端末を手にし、二人で蔵から出る。
勝負するために屋敷の裏にある庭――一週間前に神護家を紹介された部屋から見えた庭――へと向かう。
「お-い、ムー」
向かっている最中に、何処かへ行っているムーを呼んでみる。
――――キュイ
何処かからかムーの返事が聞こえたのでその内こちらに来るだろう。
最近ムーは俺から離れて一人で何処かに行っている。まぁ、呼べばすぐに戻ってくるし、声も聞こえるから心配はしていない。
庭に着くとムーが戻ってきたので、いつもの訓練をすることを伝え、縁側に避難させておき、端末も置く
≪お気を付けて≫
「キュイ!」
武信さんの方へ向かう際に二人から声を掛けてくれたので、返事として手を軽く振った。
武信さんの前に立つと模造刀――子供用――を渡される。いつも訓練で使っている物だ。
「では、この小石が地面に落ちた瞬間に始めとする。ルールは儂に何かしらの一撃を入れられれば、律、お前の勝ちじゃ。じゃがお前が気絶などをして戦闘行為が不可能となれば儂の勝ち。そして儂が勝てばこれから儂の事はパパと呼ぶこと、良いな?」
「ええ、ついでに俺が勝てれば好きな呼び方をさせてもらいます」
「うむ。では…ゆくぞ」
そう言うと、武信さんは持っていた小石を指で弾く、弾かれた小石は一定の高さまで上がると自由落下を始め、そして、地面へと――落ちた。
その瞬間に武信さんの周りには無数の岩が生成される。それは針の様な尖った岩へと姿を変え、こちらに飛来してきた。
俺は飛来してきた岩を雷撃で相殺していく、しかし、まだ超能力に慣れていないためいくつか取りこぼしてしまうが、俺にはサイコキネシスのバリアーがあるため問題無く防ぐことが出来た。
お返しとして強めの電撃を放つ。
武信さんは生成した岩で壁を作るが、その岩の壁を貫通させ、武信さんの元へと到達させる、しかし持っていた模造刀であっけなく切り裂かれ、無効化されてしまった。
武信さんは足で軽くとんっ、と地面を踏む。すると俺の足元が隆起しだし俺はバランスを崩してしまった。
そこを武信さんが見逃すはずもなく、一瞬にして距離を詰め、抜刀しながらその流れで横薙ぎ――左薙ぎ――を放ってきた。
いや~、訓練を始めてすぐにこの攻撃をくらわさられたけど、全く見えなかった。だから防御なんて全くしていないものだから、まともに横腹にくらうわけで……肋骨は折れ、当たった場所は蚯蚓腫れとなり、内出血が酷く、内臓、特に肝臓そして胃にもダメージが入り、嘔吐に吐血した。
ホント死ぬかと思った。お母さんが見ていてくれたから良かったものの、あのままだったら5分とせずに死んでいただろう。本当、もう、助からないゾ☆になる所だった。なんてことを思い出していると、すぐそこまで刃が迫っていた。そう迫っているのだ、つまり見えている。お分かり頂けるだろうか?一週間前は見えていなかった剣筋が今では見えているのだ。人間死ぬ思いを毎日一週間続ければ会得できるものである。
俺は持っていた模造刀で迫り来る攻撃を居合で防ぎ、その流れで反撃をしようとしたが、俺の身体は軽い為そのまま振り切られ、吹き飛ばされてしまった。
空中で体勢を整え着地するが、飛ばされた勢いを殺すことはできず足で踏ん張ってもズザザザザッ、と流されてしまう。
武信さんは再び距離を詰めてくるので、時間稼ぎとしてサイコキネシスで周りの小石や岩を武信さん目掛け飛ばすが、模造刀で弾きながら向かってくる、しかも速度を落とすなく向かってくるため時間稼ぎにもならない、そして今度は上段に構えたので、俺は霞の構え――刃を上にし耳の高さで構える構え――で防御態勢をとる。
そして武信さんは上段から模造刀を振り下ろす。俺はそれに対応するために、切っ先を下にして自身の左側を護る、すると切っ先を下ろした瞬間に何かが模造刀に当たり、右に押し流される。
武信さんを見ると、上段から振り下ろした姿ではなく左切り上げ後の態勢をしていた。
「ほう、これも見えるようになったか」
「まあ、勘もありますけど」
「構わん。勘も実力の内だ」
「それは運では?」
「運で勝つことがあれば、勘で勝てることもある。…ゆくぞ」
武信さんはまた俺との距離を詰めるが、今度は連続で斬りかかってきた。速さを全く落とすことなく、終わりのない完全な連続攻撃を繰り出す。終わりがあるとすれば、それは相手を斬った時か、繰り出している者がやめる時だろう。
そんな連撃を俺は模造刀を使いながら躱したり、逸らしたりと捌いていく。しかしそんな最中、急に模造刀が重くなり振るえなくなってしまった。
武信さんの連続攻撃を必死に捌いている中、刀が振るえなくなるという事は、防御ができずにいるという事で…
「しまっ―――ガッ!?!」
左脇腹へまともにくらってしまい、吹き飛ばされ地面を転がっていく。
肺の中の空気が一気に押し出され呼吸が止まる。
「―――!!…ガハッ、ゲホ」
何とか呼吸するもむせてなかなか元の呼吸に戻らない、しかも肋骨にまたひびが入っているようで呼吸するたびに痛みが走る。
「どうだ?降参するか?」
何とか起き上がる俺に、武信さんはニヤニヤしながら言ってくる。大変腹立たしい。
「誰がするもんか」
「だが得物はここにあるぞ?」
武信さんは先程の衝撃で地面に落としてしまった俺の模造刀を、自身の模造刀でつついてる。
「まぁよい。戦闘で相手は武器を持ち、自分は無手の場合もありうるから、な」
喋っている最中に武信さんは攻撃をしてきた。俺は避けながら、何とか距離を稼ごうとするが、武信さんはそう易々と距離を離されてくれない。このままではやられてしまうのは必然。
武信さんも分かっているのか、さらにニヤニヤしている。多分自身の勝利を確信し、パパと呼んでもらっている状況を想像しているのだろう。しかしその模造刀捌きには隙が無く鋭い。
…まだ使いたくはなかったが仕方ない。パパなんて呼びたくないから。
「むんっ!………む?」
異変を感じたのか武信さんは連続攻撃を止めた。
俺は彼が攻撃を止めた後ろ姿を眺めていた|。
武信さんが驚愕した顔でこちらに振り返る。
「律、おぬし、使えたのか?」
「どうにか。まだ慣れていないんで制限時間付きですけど」
そう言いながら先程落としてしまった模造刀を拾う俺の身体の周りからは、青白い小さな稲妻がバチバチと鳴りながら放電していた。
今俺がやっているのはエレクトロキネシスで生体電流を操作して利用する身体強化。神経、筋肉の瞬発力、反射力等を飛躍的に上げることが出来るが、少しでも操作をミスをすれば身体が負荷に耐えられず、筋肉や腱の切断、骨折するらしい。
この生体電流の操作は、かなり繊細なため今の俺では1分しか持続できない。
「クク、クフフフ、フハハハ!よい!よいぞ!律!おぬしはどれほど儂を楽しませてくれるのだ!!!」
三段笑いに強敵と会ったようなセリフを言い放った武信さんは、今まで以上の速さで接近、より熾烈な連続攻撃をしてくる。
俺はその攻撃をなんとかギリギリで、本当にギリギリで躱したり逸らす。しかしすべては捌ききれず、かすり傷がどんどん増えていく。そして強化して大体30秒後、武信さんに隙が生まれる。息を吸ったのだ。
どんな武術でも発声をするか、息を吐いて攻撃を繰り出す。そうすることで速さ、力がより増すから。
連続攻撃では、一々吸って息を止めるか、吐いて攻撃する、なんて事はしてはいられない、ましてや目で見えているのかさえわからない程の速さでの連続攻撃だと呼吸が隙となるため、吐き続けるか、もしくは息を止めて攻撃を繰り出す。だから息を吸う時はラッシュも一瞬終わり、隙が生まれる。
武信さんは息を止めての連続攻撃を2分続けられるように訓練をしていたのだが、先の連続攻撃に、更に熾烈になった連続攻撃を繰り出した結果、思いの外、早く限界が来てしまったのだろう。
俺は武信さんのその一瞬の隙を付いて、後ろに回り込み模造刀へ電気を流し込み、帯電状態にした模造刀を投げ付ける。当然それは防がれるが帯電状態にしていたのでバチッ、と電気が武信さんに流れ一瞬怯む。
その隙に武信さんの死角に回り込み、スタンガンの要領で武信さんへ電気を流そうとするがあと少しの所で身体を捻って回避される。
武信さんは身体を捻った勢いでバットを振るような振り方で攻撃をしてくるが、それをしゃがんで回避、エレクトロキネシスで電撃を放つ。
武信さんは岩を生成し盾を作り身を護ったので、より強めの電撃で貫通させようとしたら盾ごと斬ってきた。
俺は急いでその場から離れるため、後ろへ跳ぼうとした。強化可能時間残り20秒
「ッ?!」
右脚に激痛が走った。何かがブチブチと千切れる感覚と共に。
どうやら生体電流の操作を誤ってしまい、身体へ無理な負荷が掛かり筋肉が千切れてしまったようだ。身体強化を止め、足の痛みに耐えながら後方へ跳び、武信さんの兜割り――岩の盾ごと叩き斬った――の直撃は何とか回避したが、地面に叩き付けた衝撃まで回避することはできなかった。
いや、おかしいやろ。兜割りで衝撃が起こり、地面が蜘蛛の巣状にひび割れ、陥没するなんて。
叩き付けた衝撃は凄まじく、後方へと跳んだ身体が更に浮く程だった。衝撃で小石なんかも飛んでくるがバリアーで防げるので問題は無い。
武信さんは衝撃で浮き上がった俺――の右腕――を持ち、天高く放り投げた。
かなりの高さまで上がると徐々にスピードは落ち、ついには0となって落下が始まる――こともなく、俺はその場で浮いてた。
「どうだ、降参するか?」
武信さんを見ると、変わらずニヤニヤしている。そのニヤケ顔は自分の勝利を確信した先のニヤケ顔ではなく、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようで大変怖い。身体強化を見せたからだろうか。
既に俺の身体はボドボド――ではなくボロボロだ。
武信さんの模造刀を振るう速さはかなりのモノであった為、切り傷や蚯蚓腫れが身体のあちこちにできていたり、肋骨に、多分右脚の骨にもひびが入り、右脚の筋肉はズタズタ、左脇腹は酷く痛み内出血は間違いなく、胃の辺りも痛いし口からは血の味がする。
だがここで降参するのは嫌だ。最後まで藻掻いて一矢報いたい。
「い・や。絶対降参なんてしない」
「ふん、可愛くないな。そんなにパパと呼ぶのは嫌か?」
「絶対に、イヤ!!」
「はぁ、頑固だな」
「貴方もでしょうが!………てか、さっさとやりなよ」
「ふむ、それもそうだな。――ではこれで決着だ」
武信さんがそう言うと、徐々に落下が始まり、かなりの速さで武信さんの方へ向かって落ちていく。武信さんは居合いの構えをしており、このまま落ちれば俺は何の抵抗も出来ずにやられるだろう。
………効果があるとは思わないが…やってみようかな。どうせこのままだとやられるだけだし。
やりたくはないが……模造刀はあそこにあるし、もしかしたらいけるかもしれないこの作戦。いざ、参る!!
「パ、パパー、コワイヨー、タスケテヨー」
やっちゃった!棒読みになってしまった!こんなので武信さんを騙せるなんて――
「………」(満面の笑みで両手を広げウェルカァム)
引っ掛かってるーー!??
模造刀を放り投げ、両手を大きく広げている武信さんは、だらしない顔となり、その周りからは浮かれた雰囲気が感じられる。
まさかこんなに簡単に引っ掛かってくれるなんて…まさに好機!さぁ喰らえ!これが今できる俺の反撃だい!!
――――――――
「どうだ、降参するか?」
まさか制限時間付き、とはいえ身体強化を使うことが出来るとは、全く楽しませてくれる。
きっと此奴は儂と同格に、いや越えていく存在だろう。現に儂は全力の4割程でやっている。このくらいだと大体の者は地面へと倒れ伏しているのだが、未だに此奴は立っている。…身体はボロボロだが。
だがそれは仕方ない。武術は一度もやったことはないらしいし、身体も出来ていないのだから。むしろ1週間で儂とここまで渡り合えていることが驚きだ。此奴は本当に武術をやったことが無いのか?
まぁそんな事はどうでもいい。これから鍛えていけば、いずれ神国で史上最強と言われている儂を超え、神護家に相応しい自慢の男になるだろう。
だがこの勝負は儂の勝ちだな。空中ではどうすることもできんだろう。
「い・や。絶対降参なんてしない」
「ふん、可愛くないな。そんなに儂の事をパパと呼ぶのは嫌か?」
「絶対に、イヤ!!」
「はぁ、頑固だな」
「貴方もでしょうが!」
本当に可愛くないな。そんなにパパと呼ぶのが嫌なのか?
それにしても、その頑固さと諦めの悪さはまるで弥恵佳さんみたいだな、いや儂もあるか?まぁいい。
しかも此奴、どうやら儂と同じ戦闘狂の節があるみたいだな。気付いてはいないようじゃが口元がニヤケておった。
全く、血は繋がっていないというのに、どうしてこうも儂らに似ておるのか。本当に息子が生まれてきていれば、此奴の様な子だったかもしれん。
…いや此奴は、律は既に息子だ。血は繋がっていないが儂らの、弥恵佳さんとの子。優香の弟だ。
律には未だに儂らとの間に壁があるようだが、この1週間でそれも薄れてきた。それに元は28歳だったらしいが、身体に引っ張られているのか年相応の反応を見せるようにもなってきている。このままいけば自然な家族となれるだろう。フフ、人生、何が起こるか分らんものだ。
まさか異世界から来た者が猶子として息子となり、儂を超える可能性のある逸材ときた。しかも血が繋がっていないのに儂と弥恵佳さんの一端が見て取れる。実に人生とは面白い。
「てか、さっさとやりなよ」
「ふむ、それもそうだな。………ではこれで決着だ」
さて。では今後、儂の事はパパと呼んでもらう為にも、律にはやられてもらうとしよう。
そしてこの試合が終われば一緒に風呂にでも入り、上がった後で酒を注いでもらうとしよう。きっと律は膨れっ面になっておるだろうから、それを肴にするのも悪くない。…律が酒を飲める年齢になれば一緒に晩酌もいいな。二人っきりでも良いが家族全員というのも――と、いかん。まだ試合は終わってはおらんかったな。
儂の能力で空中に浮かんでいる律を儂の方へ向かって来るように落とし、間合いに入ればそのまま気絶させ――
「パパ~!怖いよー!!助けてーーー!!!」
おぉ、ついに律が儂の事をパパと呼んだぞ!
それにあの高さから落ちれば怖いのも当然だな!急いで速度を緩めて受け止めてやらねば!!
――――――――
――!!、落ちる速度が緩んだ!
だがまだだ、まだ仕掛けるには早い。…あと、3、2、1ここ!
「かかったなアホが!」
そう言いながら俺は、正彦さんから教わった収納術で持っていたハリセンを取り出し、武信さんの顔面目掛け振るう。
「騙しおったな?!だが、そんな物でこの儂に勝てるものかー!」
武信さんの表情だらしない物から驚愕へと変わり、目の前に迫るハリセンを白刃取りで防ごうとしてくる。
そしてハリセンが白刃取りで取られ――
「―――ッくぁwせdrftgyふじこlp?!??!ヘブッ?!」スパーン
――ることなく、顔面に直撃し、いい音が庭に響きわたる。
武信さんは膝から崩れ、お尻を空へ突き出す形で倒れた。
「…勝った」
地面に着地した俺は、念の為、倒れている武信さんの頭や突き出しているお尻をハリセンで叩いておく。
さて何が起きたのか、作戦とは何か説明すると、ただ武信さんを油断させて金的しただけ。
金的に使った物は模造刀の鞘だ。サイコキネシスで油断している武信さんの股の下へ持って行き、タイミングを見計らって、一気に上げてチーンってことよ。
まぁ俺も男ですから?一瞬躊躇したし、股がヒュンッ、ってなったけどさ。
で、これはハリセンの攻撃を武信さんが動かずに対処しようとした場合で、もし彼が後ろに跳んでいれば、彼の後ろでスタンバイさせておいた俺の模造刀でお尻にブスリ、アーーー!。横に避けたなら足の間に入れといた鞘で足を引っかけて隙を作り、そのままサイコキネシスで後ろにある模造刀を当てるか、ハリセンをくらわす。という戦法を考えていた。
因みにこの鞘、ほとんどが合成樹脂で出来ていのだが鞘の先端部分に金属が取り付けられている為、俺のサイコキネシスでも操れる。
ああ、サイコキネシスは浮かすだけだったはずなのに、どうして操れているのかって?
そりゃ、練習したから。だってほら、ファ〇ネルみたいなことしたいじゃん。
今は単純な動きしか出来ないけど、練習して操れるようになることは分かったから、更に練習して複雑に動かせるようにしたい。そして最低2つは同時に複雑な動きで動かせるようにしたい。
今回は同じ方向に持って行き、その場に待機、そして鞘を一気に上に上げる単純な動きだったから大丈夫。……まぁ、鞘を上に上げたら、模造刀もつられて上に上げてしまったが……要練習という事だな。うん。
と、とにかく武信さんには一撃当てることは出来た。という事で俺の勝ちだな。ワハハ
「ゴフッ」
やっぱり胃にダメージが入っていたか、吐血してしまった。
「…」ムクリ
倒れていた武信さんが起き上がる。
顔は下を向いておりその表情は分からない。
「…一撃、貴方に当てました。約束通り好きに呼ばせてもらいます」
「フフフ」
「…何かおかしいですか?」
唐突に笑い出す武信さん。当たり所が悪かっただろうか?不気味だ。
「いや。ただ嬉しくて、な。きっとお前は強くなるだろう」
「そうですか」
「うむ。というわけでもう一戦しようか」
「は?」
「今度は本気で行くぞい」
「え?いや、ちょっと待って」
「またお主が勝てば好きにせい。だがこれで儂が勝てば一生儂の事をパパと呼んでもらうとしよう。今後の勝負で解消させるのもなしだ」
ブチッと何かが切れる音が自身から聞こえた。
「ざっけんじゃねえぞ!クソ爺!」
「むっ。父親に向かって何という呼び方だ!パパと呼びなさい!!もしくはお父さんだ!!」
「うっせぇ!お前なんかアホ爺かアホ親父とかで十分じゃい!!」
「何だと!?」
「大体今の俺を見ろよ!身体ボロボロだぞ!?吐血までしてんだぞ?!しかも肋骨や右大腿の骨にはひびが入っているみたいだしな!なのに今度は本気を出す?今さっきので既にボロボロでギリギリなんだぞ!?なのに本気を出されたらそんなん秒殺だよ!」
「そうだが?」
「マジふざけんなよ?!わかってんなら何でやるんだよ!意味ねぇだろうが!」
「パパと呼ばれたいから」
「お、ま、ああもういい。あんたの事これからはアホ爺、アホ親父、脳筋バカとかで呼んでやる。お父さんって呼んでやろうかとも思ったが、それも無しだ」
「脳筋バカは嬉しいな」
「なんで喜んでだよーー!!!」
ギゃース、ギャースと言い合っていると。
「なにを…している…のですか」
声が、聞こえた。
いつも聞いている、聞き覚えのある声が。…だが、今はとてつもなく恐ろしい。
悪寒が全身を走り、肌は粟立ち、冷や汗が噴き出し、膝が勝手に震えだす。
アホ親父も同じようで膝は震え、顔は青く、冷や汗が滝のように流れている。
「なにをしているのか、ときいているのです。さぁ、こちらにむきなさい」
全く感情の無い平坦な声音のはずなのに怒っているのが感じ取れる。
声の方へ向こうとするが、恐怖により身体が言うことを聞かない。
すると体感の温度が一気に下がった。いや実際に周囲の気温も下がっているみたいだ。吐く息は白くなり、地面には霜が降り、俺が吐いた血も固まる。
「こちらに、むきなさい」
先程より強めに言われ、武信さんと二人で滑りの悪くなったネジのように声のする方へ、ギ、ギ、ギと顔を向ける。
そして、そこにいたのは――
「で?何をしていたのですか?」
――能面がいた。
正確には笑顔のお母さんの背後に、能面が見える。てかいる。
そして更にその背後には、屋敷の陰から正彦さん、姉さん、佳枝さんがトーテムポールのようにひょこっと顔だけを出し、こちらを覗いていた。
俺が見ていることに気付いたのか姉さん、佳枝さんはグッ、と親指を力強く突き立てたサムズアップをしたかと思うとヒュッと顔を引っ込めた。正彦さんは二人が退却したことに気付くと、一瞬熟慮しこちらを見るが、何もせずスススッと顔を引っ込めていった。
「律。何処を見ているのですか」
「ア、ハイ。ゴメンナサイ」
お母さんの怒りの度合いは三段階に分けられる。
一段階目は説教する感じの軽い怒りで背後には何も出現しない。
二段階目は本気の怒りで般若が現れる――アホ親父がこの状態で怒られているのをよく見かける――。
そして三段階目は堪忍袋の緒が完全に切れた時で、今の様に背後に能面が出現する状態となる。
ちなみに三段階目を見るのは初めてで、三段階目の事はアホ親父から聞いた。
「帰ってきて早々、庭から争うような二人の声が聞こえたので来てみれば……庭はボロボロ、律もボロボロではないですか。私、言いましたよね?今日は真里菜達が来て貴方と顔を合わせをするために訓練は無し、と。何故訓練…いえ、戦闘をした様な後になっているのですか?」
そう言いながらお母さんはこちらへと近づいて来て、俺の頭にぽんっ、と手を置き治療をしてくれる。
すると次第に眠たくなってくる。
「とにかく今は休みなさい。大体の事はそこにいるアホから訊きますが、貴方にも起きてから訊かせてもらいます」
そんなお母さんの言葉を聞きながら俺は眠りについた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
初の戦闘模様を書いてみましたが、何となく分かってくれば嬉しいです。
え?人ではなく戦艦の戦闘を出せ?ゴメンね、まだ出番はないんだ。本当にゴメンね。
ホント、戦艦でドンパチさせて、女の子とイチャイチャさせようと始めたのに、全く戦艦も女の子も出てきていないぞ、この小説。
……気長に待て下さい、見放さないで下さい、頑張って書いていくから。




