第14話 愛情表現
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「む」
≪どうかなさいましたか?ご主人様。≫
あの後タラップを回収していた二人の海兵さん――自分を案内してくれた海兵隊の二人――に手を振って別れた後自分は御影の艦橋に上がり、アウラに事情を説明、優香さんの部隊に付いて行くための準備をアウラにしてもらっていた。今思えば端末を持って行くべきだった。
そのことをアウラにも軽く注意された後、キュピルを撫でながら落ち着いていると、正彦さんの叫び声が聞こえてきたような気がした。
「いや、なんだか正彦さんの叫び声が聞こえてきたような気がした」
≪…気のせいでは?≫「キュイ」
アウラとキュピルはそう言ってくる。でもアウラは何やら知っている様な気がする。だがそこまで知りたいわけでもなく追求しようとは思っていないのでそのまま流した。
「そうだ。アウラこのキュピルが一緒に来るって」
アウラにキュピルが仲間になった経緯を教える。
≪なるほど。それでは名前はどうするので?≫
「あぁ、それも決めてる。ムーはどうだろう?」
フランス語でモコモコという意味のmouの発音をそのまま名前にしてみた。キュピルの毛並みはフワフワもしていたのでmoelleuxと悩んだがどちらかというとモコモコだったのでムーにした。モワルーと合わせるのも考えたがいい案が浮かばなかったのでやめた。
この名前でいいのかキュピルに尋ねると、キュピルは頭の上でウロウロしながら考え答えが出たのか止まる。
「それで?ムーでもいいかい?それとも他のがいい?」
改めてキュピルに尋ねるとキュピルは「キュイッ」と鳴いて自分の額に肉球パンチをしてきた。
「…どっち?ムー?」
呼んでみると額にパンチをしてくる。
「モワルー?」
一応悩んでいたもう一つの名前で呼んでみるが今度は何もしてこない。
≪…名前はムーがいいのでは?≫
「いや、ムーは嫌だの意思表現かもしれないじゃん」
アウラと話しているとキュピルが頭の上で跳ねだす。…首が痛いのでやめて欲しい。
仕方ないのでキュピルに選択して貰た時のように手に乗ってもらうことにした。結果は…
「ムーですか」
「キュイ」
どうやら額に肉球パンチをするのは肯定のサインらしい。
「という訳で新たな仲間?家族?としてムーが加わりました~。拍手~」
自分は拍手を、アウラはラッパ音を鳴らして祝う。ムーも嬉しそうに頭の上で跳ねる。だから首に衝撃が来ているからやめてください。
その後はムーに御影の案内をし、アウラの本体がある場所に行ってアウラを紹介する。
「これがアウラだ」
≪よろしくお願いします。ムー≫
「キュ」
アウラを見たムーは、本体である陽電子頭脳の粒子を見て動かなくなった。動物すら虜にする陽電子頭脳。アウラ…恐ろしい子。
あと、アウラのいる部屋は低温なので寒冷地域が生息域のムーは全く問題無くずーと陽電子頭脳を見ており、見終わるのを待っていが、自分の方が限界だったので先に一人で部屋から出た。するとムーもついてきて足に体を擦り付けこちらを見上げる。その目は置いて行かないでと語っていた。
ここでムーをぎゅっとしたいが、ここはぐっと我慢してムーを撫でてやる。別に置いていくつもりは無い、お前が居たいなら好きなだけ居ればいい。自分は拒絶しない。と気持ちが伝わるように撫でてあげる。ムーは嬉しそうに目を細め撫でていた手を伝って肩に上がり、首元に体を擦り付けそして噛んだ。チクッとして然程痛みは無い筈なのに子供の身体は敏感なのか涙が目に溜まる。
「キュッ!?キュイ~」ペロペロ
≪…ご主人様。その毛玉は処分しましょう≫
涙が出たためかムーは驚き『そんなつもりは無かった。ごめんなさい』と言っているかのように噛んだ後を優しく舐める。
アウラはムーが噛んだことで自分に敵対したと判断したらしく。ムーに敵対心を露にする。
「落ち着けアウラ。ムーは別に自分に攻撃したわけではないから。ムーもありがと。大丈夫だから。ちょっとびっくりして涙が出ただけだから」
アウラを落ち着かせ、ムーを撫でてやる。ムーは撫でている間も噛んだ場所を舐め続けているのでムーを掴んで掌に乗せ目が合うようにする。
掌にいるムーはかなり落ち込んでおり、今すぐにでも泣き出しそうな表情をしていた。そしてその目は捨てないで、一人にしないで、一緒に居させて、嫌いにならないでと不安そうな目をしており、チラチラとまるで親に怒られて怯えている子供のような視線をこちらに向けてくる。
自分は溜息を吐くとムーはビクッと体を震わしプルプルと震えだした。そんなムーを見てさらに溜息を吐いた自分は額をムーの背中にくっつける。
「大丈夫だから、そんなに怖がるな。噛まれたくらいでムーの事を嫌いにはならないしムーを捨てたり、一人になんかしない。自分もムーと居たいから。ムーが居たければ何時でも居ればいいから。大丈夫、大丈夫だから」
そう言いながら額を優しく擦り付ける。ムーを安心させるために、ムーに信じてもらうために。
すりすりと額をムーに擦り付けているとモゾッと動いたので額をムーの背中から離しムーの表情を見ると…泣いていた。
「ギュイ゛~」
「お前は泣き虫だなぁ」
ムーの涙を持っていたタオルで拭いてやる。何故タオルを持っていたかって?……習慣って時に怖いよね。言わせんなよ。
「アウラもいいな?ムーに悪意は無い。あの行動には何かしらの意味があるはずだ」
≪はい。わかっております。私もご主人様を傷つけられて気が動転していたようです。あれはキュピルの求愛の印だというのに。≫
「あ、やっぱり?何かしらの印だとは思っていたけど求愛かぁ」
≪はい。それにメスから求愛するのは珍しいことです。ましてや人間に求愛するとは…ムーはまだ子供なのにいろいろと規格外ですね。≫
新たな真実、ムーはメスでおませさんのようだ。しかしこの場合はどうするべきかアウラに尋ねる。
≪ご主人様も何かしらムーに愛情表現をしてあげればよろしいかと。≫
そう言うのでムーの頭?額?に軽くキスをしてあげる。ムーは嬉しそうに動き回り頭の上へ戻った。
他の場所に行こうとするとアウラに止められる。
≪ご主人様。私には愛情表現はやっていただけないのですか?≫
なんとアウラも愛情表現をしてほしいらしい。確かにムーにだけやってアウラにはやらないというのは仲間外れの様でいけない気がする。なのでアウラの本体がある部屋に戻り、陽電子頭脳が入っているガラスの筒にではあるがキスをする。…もしキスをしてガラスの筒に唇が引っ付いたらどうしようかと思ったのは秘密だ。
≪はい。ありがとうございますご主人様。私もご主人様の事をお慕いしております。≫「キュ!キュキュイ!」
アウラとムーに愛情表現をしたので御影にも――壁に――キスをする。はたから見れば変な人に見られるだろう。
案内も終え、お腹が空いたので食堂で朝ごはんを食べようとしたが、アウラにムーに噛まれたことにより何かしらの病原菌に感染している可能性があるため精密検査を勧められた。医務室まで行き、一様念のため精密検査を行う。精密検査とはいえ採血や粘膜を採取して調べるだけ。粘膜はどうにかなるが採血は自分自身で行うことは出来ない。しかし他に出来る者が居ないので仕方なく慎重に採血を行う。何とか採血出来たが、やはりなれないことなので採血した血管から血が溢れ内出血が起こり少し痛い。あまり上手ではない人に採血された人ならわかると思うが、採血された部分が内出血で変色し打ち身のような痛みが二、三日続くあれの状態になってしまった。採血したのと粘膜を装置に入れアウラに分析してもらう。結果は陰性。ムーも検査した方が良いが、あいにく動物用の薬品や装置が無いので落ち着いたら検査してもらおう。
異常は無かったので目的である朝食を食べるために食堂へと向かう。朝食とはいえ昨晩のスープの残りとパン、デザートとしてヨーグルトにイチゴジャムを合わせた物を食べ、ムーにもスープにパンを千切ったのを入れてふやかし、イチゴジャムが入ったヨーグルトを出してあげる。ムーはかなりの勢いで食べた。特にヨーグルトが気に入ったらしい。
食べ終わり食器を片付けてから艦橋へ上がる。
椅子に座り、今の優香さんの艦隊の状況をアウラに尋ねる。
≪はい。今は海賊を収容し終わり艦隊編成の最中です。陣形はおそらく輪陣形でしょう。先頭に優香様、彼女が乗る旗艦の長門、その後ろにご主人様の御影が続く形です。我々2隻の戦艦が軸となり、その周りを偵察艦や駆逐艦、重巡が囲うような陣形に…っと、ご主人様旗艦長門より通信が入りました。≫
「繋いで」
アウラに状況を訊いている途中だが優香さんから通信が入ったので繋いでもらう。
モニターに映ったのはやはり優香さんだった。しかしその肌は先程見た時よりツヤツヤのプルプルしていた。
お風呂にでも入ったのだろうか?その証拠に顔は火照っているらしく少し赤く息遣いも少し荒く、薄っすらと汗ばんでいるため額に髪が引っ付いていて、軍服や下のカッターシャツのボタンは第一から第二まで開けられ黒い下着が見えている。
はっきり言ってとてもエッチだ。しかし残念ながらこの体ではうんともすんとも体は反応しない。卑猥な格好であることは分かっているがそこから全く反応しないのだ。まぁまだ思春期も来ていない五歳児が興奮する方がおかしいのでこれは正常な反応だ。だとしても子供に見せていい格好であるのは確かなため優香さんに注意する。
「優香さん、なんですかそのだらしない格好は。一応提督なのですからしっかりとした格好をするべきなのでは?部下に示しが付かないでしょう?」
『え?なになに?この格好に興奮しちゃった?いや~ん君ってばお・ま・せ・さ・んなんだから♪』
イラッとして目が細まるを感じながら優香さんの発言は無視して用件を尋ねる。その時モニターに映る優香さんの身体が一瞬強張り、何故かさらに顔を赤くして息が荒くなる。
「で?どうかしましたか?」
『え、えぇ。艦隊の編成が完了するから、ハァハァ。長門の後に付いて来て欲しいの、300m程間隔を空けた後ろをハァハァ。い、いいかしら?』
何故か息を荒げ興奮している様子の優香さん。何故息が荒くなっているのか尋ねるのも面倒なので「了解」と短い返事で通信を切ろうとしたら優香さんに『通信はまだ切らないで欲しい』とお願いされる。
「何ですか?」
(他に何か大切な事を伝えようとしていたのだろうか?それなら勝手に通信を切ろうとしたのは大変失礼なことをしてしまった。後で謝らないと。)
と思っていると。優香さんは…
『お、お願いがあるんだけどいいかしら?』
どうやらお願いだったようだ。出会ってまだ六時間も経っていない自分に優香さんはお願いをしてくれる。
これは信頼されているのだろうか、それとも罠?しかし頼みごとをされているのだから出来る限り答えてあげたい。優香さん達から信頼されるためにも。
なので顔を赤くしてモジモジしている優香さんにそのお願いとは何かを尋ねる。
「何でしょう?出来る事ならやりますよ?」
この時、この世界の女性は性欲に忠実であると理解していれば、彼女の表情をしっかりと見ていれば、何より優香さんという人物を先程関わった時に大まかにだが理解出来ていたはずなのに、その事を忘れ去ってさえいなければすぐに通信を切り、今の彼女への敬意が大暴落することを未然に防ぐことが出来たかもしれないのに。自分は間違えてしまった。その結果。
「め、メス豚って罵ってくれない?」ハァハァ
なんと大の大人が五歳児に罵るようにお願いしてきた。しかも五歳児に見せてはいけないような顔で。
それはもう『見せられないよ』が介入するレベルの顔だった。
自分の中の彼女への敬意がどんどん落ちていく。それに合わせて彼女に向ける視線も冷たい物になっていく、変わっていくのが自分でもわかるくらいに。
優香さんは自分に向けられる視線が変化していくに従って体が震えたり、身悶えたりしだす。最終的に、目は潤み、口から涎を垂らして恍惚とした表情でこちらを見ており、まるでご主人様からの躾を待ち望んでいる下僕に見えた。
普通ならこのまま通信を切ればいいのだろうが、将来同じような事があるかもしれないので予行練習として割り切り、優香さんの願いには叶えてあげようと思う。
別に彼女の事は嫌いではない。こんな正体不明の五歳児で戦艦を持っているのに警戒することなく、彼女なりの接し方で対応してくれた。だがその接し方で彼女の評価は無いに等しい評価となってはいるがマイナスにはなっていない。もしマイナスになるならその人の事が嫌いな場合だろう。よって今現在の彼女への評価は有能なのだろうがあきれた人である、まぁ元からあきれた人の評価だったので変わってはいないが。
そんなあきれた人の評価である優香さんの願いを叶えてあげる為自分は、優香さんの事を汚物と思い、生理的嫌悪感を全く隠そうとせずに表情や目、声に出しながら彼女を見て
「変態」
言った瞬間に通信を切る。何だかホーリー・モノポリーとの通信の時と同じ疲労感が襲ってくる。
≪…沈めますか?≫「キュイ?」
アウラが提案し、ムーも『やっちゃう?』と言っている気かするがもちろん却下する。
それにしても、この世界の女性はあれ程までに性欲に愚直だとは思わなかった。だがそれを満足させることが出来れば、それだけ自分に執着させメロメロのラブラブなハーレムを作る事が出来るかもしれない。そう思うとこれから先が大変楽しみだ。
それから約二時間半後に陣形の形成が完了。御影は長門の後ろに着き、周りに偵察艦や駆逐艦、軽巡、重巡艦の輪形陣の形で元帥閣下が待っているらしい無人島に向けて出発した。
アウラは橙のラテン語aurantiacoからとっています。




