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海の覇者  作者: リック
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第11話 取り調べ

アウラに異世界の人間であることを打ち明ける部分を加筆しました。



「…すまなかったね」

「…」ブンブン


 刑事ドラマでよく目にするような取調室の内装の部屋で、入り口の反対側に自分は座り、入り口に近い席に座り自分と向き合うように座っている男性の謝罪の言葉に首を横に振って動かすことで返事をする。

 今いるのは先程二人の女性海兵さんに案内された部屋―どうやら取調室らしい―。違いは聞き取りする人が男性に変わったことくらい。

 この部屋に案内された時には誰もおらず、席に座って待っていると女性二人が入って来たので、自分は挨拶をするため席から立ち上がった。

二人の女性は部屋に入り扉が閉まると、鼻息を荒くしながら二手に分かれて徐々にこちらに近づいてきた。

挨拶をしようと立ち上がったはずなのに、逃げるための姿勢となっているのとは何故だろうか?

とにかく身に危険が迫っていることは明らかなので徐々に下がっていると、ハリセンを持った二十代後半くらいの男性が現れ、女性二人を(はた)いて連行していった。

 呆気にとられていると、先程の男性が戻ってきて、さらにもう一人部下のような人も一緒にやってきたのだ。そして今の状態になっている。


「怖かっただろう?今この艦隊は海外との演習を終えて帰還していた途中でね、疲れとかもあって少々荒れているんだ。本当にごめんね?」

「ダイジョウブデス」


 ハリセンの男の人はそう言うが、あれを少々というならばもっと酷い状態はどうなるのか…想像もつかない。


「まずは自己紹介をしようか僕は神護正彦、彼は私の部下の杜宮彰だ」


 正彦と名乗った男性は微笑んで挨拶をし、もう一人の彰という男性はこちらを見て無表情で一礼した。


「すまないね。彼は余り愛想が良くないんだ。でもいいやつだから怖がらないであげて欲しい」


 そう自己紹介をされたのでこちらも一礼をする。その後、席に案内された。


「さて、さっそく本題で悪いけど。いくつか質問させてもらえるかな?」


 きた、出来るだけ怪しまれないように答えなければ。


「お名前は?」

「わかりません」

「両親、家族は?」

「わかりません」

「出身は?」

「わかりません」


 神護さんの目がスッと細められる。神護さんと自分の中間の位置―少し離れた場所―で記録を取っていた杜宮さんもこちらを怪しんでいる目で見てくる。

 そりゃ怪しいよね。出身はともかく自分の名前や両親、家族がわからない五歳児なんて。


「…どこかで頭とか打った覚えはないかい?」


 どうやら記憶喪失を疑っているみたいだな。ここは乗っておくべきだろう。


「ごめんなさい、何も覚えていないんです」

「…そうか、それはすまなかったね」


 …信じてもらえただろうか?


「あの艦とそのキュピルの事もわからないかい?」


 神護さんは頭にいるキュピルを見ながら尋ねてきた。


「あ、それはわかります」


 そう答えると、神護さんはわかるとは思わなかったらしく、訝しんだ目でこちらをみてきた。


「そ、そうか。それじゃあ、あの艦は誰の物で、何処に所属しているのかわかるかい?」

「えっと、あれは僕の艦になるのかな?所属はどこにも所属していないと思います」

「ん?あれは君の物なのかい?」

「たぶん」

「…どうやって手に入れたのか、教えてくれるかい?」

「ヒェッ」

「キュゥ」


 神護さんから威圧を感じる。五歳児に向けてはいけない程の威圧を放っており、キュピルも怯えているようだ。


「…神護外交理事官、子供を威圧してどうするんですか。キュピルも怯えていますよ」


 少し離れた場所で記録を取っていた杜宮さんから救いの声が掛けられた。


「む、私としたことが。ごめんね、つい出てしまったようだ」


 無意識で威圧するって、外交官は大変ですね。


「それで?教えてくれるよね?」


(…あれ?威圧まだ出ていますよ?杜宮さんまだ出ていますよね?)

 そう思いながら杜宮さんの方に視線を向ける。杜宮さんは溜息をついてそのまま記録を取る態勢へと戻った。

 自分はどうやら見放されたらしい。肩にポンと手を置かれ恐る恐る見ると、とてもいい笑顔の神護さんが威圧しながら


「教えてくれるね?」


 と再び尋ねてきたので自分は


「あい」


 素直に話すしかなかった。


 

アウラや機関の事は出来る限り伏せ、自分が気付いたらすでにあの艦の上に居たこと、登録をして自分の物にしたこと、人はおらず勝手に艦は動いているが自分の指示には従うこと、艦に御影と名付けたこと、キュピルを無人島でみつけ保護したこと、それにより海賊ホーリー・モノポリーに狙われていたこと、ここ約一週間の事を素直に話した。


「俄には信じられないが…どうしたものかなぁ」


 話し終わると神護さんは困った様子でゲン〇ウポーズをしている。


「あのぉ」

「ん?何かな?」

「僕はこれからどうなるんでしょうか?」

 

率直な気持ち、自分はどうなるのかがとても気になる。


「う~ん、それが問題なんだよね。君はどこにも登録されていないあの艦の所有者であるが、記憶喪失ときた。正直どう扱えばいいかわからない。何も考えずに君をそのまま保護すれば、あの艦やそのキュピルは善からぬ輩の目や耳に入り、絶対に奪おうとして君に危害を及ぼす。といった所までは容易に予測出来るんだが…やっぱり難しいなぁ~」


 やはり面倒なことになることは確定らしい。


「そうですか…キュピルだけでも保護して元の場所に戻してあげれませんか?」


 そう言った瞬間キュピルは頭の上で跳ねだした。


「仮にそうするにしても君はどうするんだい?このまま『はい、さようなら』としたとしても君のことはもう記録にとっているからね。余計な面倒ごとが増えるだけだと思うよ?」


 やはりこのまま別れるのはダメみたいだ。


「それに…」

「それに?」

「そのキュピルは君と離れるのが嫌みたいだよ?」


 神護さんはそう言うと、可愛らしい物を見るような目で頭の上の方、跳ねているキュピルを見ていた。

 抗議しているらしきキュピルを机に置き、尋ねてみる


「故郷に帰りたくないの?」

「…」ブンブンブン

「それならなんで嫌がるの?」

「…」ジー

「…やっぱり、僕と一緒がいいのかい?」

「キュイ、キュイ」コクコク


 嬉しそうに返事をするキュピルに、自分は左右の掌を机に置いて尋ねた。


「僕と一緒に居たいならこっちの手に、故郷に帰りたいならこっちの手に乗りな。でも居たい方を選んだらもう故郷には帰れないし、故郷を選んだら僕とはもう会えないよ。さあ、どっち?」


 キュピルに究極の選択をさせる、神護さんは事の成り行きを見守るようで静かにこちらを見ている。杜宮さんも同じようだ。

 キュピルは左右をウロウロし時折こちらの様子を見る。自分は目を瞑り、キュピル自身が選ぶように促す。


「キュ、キュィ~」


 なんとも悲しげな鳴き声を上げたキュピルを甘やかしたくなる衝動に駆られるが、心を鬼にして無視をする。

 すると片方の掌に乗った感触がした。


「本当にそれでいいの?」


 キュピルに確認をすると、掌の感触は無くなる。左右を行ったり来たりしている気配がわかるようになってきた時、再び片方の掌に重さと温かさを感じた。


「本当にいいの?」

「きゅい」


 確認すると元気のない返事が返ってきた。


「本当の本当にいいの?そっちを選んで…もう会えないんだよ?」

「ギュイ゛!」


 最後通告をするとキュピルは泣きながら返事をした。掌が徐々に濡れてきているのを感じる。

 自分は目を開けてキュピルと目線を合わせる。毛で隠れているが隙間から見えるオッドアイの瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ち、毛を濡らしながら掌へと落ちていく。

 キュピルを開いている手で撫でながら


「ごめんな。こんな選択させて。落ち着いたらお前の故郷に一緒に行こうな」

「!!…ギュイ゛~」


 自分はキュピルとそんな約束をした。



「で、結局僕はどうすればいいんです?」


 手の中にいるキュピルをあやしながら神護さんに尋ねる。


「そうだね、こうなったらそのまま――」

「ちょーと、待ったーー!!」


 神護さんのセリフを誰かが大きな声で遮ったかと思えば、いきなり取調室のドアが開けられた。入って来た人は、鼻息を荒げていた女性二人のうちの一人、海軍特有の白い軍服の袖や肩に階級章が着用されており、何本かの線の上に菊が付いているのと、胸にはいくつかの勲章が付けられているので偉い人であるとは思われる。


「…優香、入るならもっと静かに入りなさい」

「いつもの事じゃない。気にしないで」

「はぁ~」


 優香と呼ばれた女性と親しげに話している神護さんを眺めていると、女性が自分の隣までやってきて目線を合わせ


「初めまして、はおかしいかな?先ほどぶりね。私は岩戸鎮守府という所の一番偉い人で神護優香っていうの。この旗艦長門の艦長でもあるわ。よろしく」


 二十代くらいで黒髪のポニーテールが肩甲骨の高さまで伸びており、胸は美乳、スタイルもいい美人な女性が優し気な微笑みをしながら手を差し出してきた。

 神護という苗字を聞きまさかと思い、正面に座っている神護さんに目を向ける。


「…恥ずかしながら、私の妻だよ」


 神護さん―ややこしいので、これからは下の名前で呼ぼう―から答えを教えてもらい、再び女性へと目線を向けると、手を差し出したままニコニコとこちらを見ていた。

 自分は席を立ち、正彦さん方に向かい、その背に隠れた。


「どうして?!」

「当たり前だろう」


 そんなことを言う優香さんに冷静にツッコむ正彦さん、なんとなくこの夫婦の関係が見えたような気がした。


「私は友好を示そうとして握手を求めただけよ!」

「その前に鼻息を荒げてこの子を追い掛け回していただろう」

「あれはその子が逃げるから…」

「鼻息を荒げていたら怯えて後ずさるのは当たり前だろう」


 そんな夫婦漫才をキュピルを撫でながら眺めていると


「お二人ともいい加減にしてください」


 杜宮さんが止めに入った


「今は事情聴取の最中です。優香提督は勝手に入ってこないでください、これは報告物ですよ」


 杜宮さんがそう言うと


「あぁ、それの事なんだけどね」


 優香さんは、杜宮さんが事情聴取の記録を取っていたパソコンを奪うと、バチッという音がした瞬間、パソコンから白い煙が噴き出した。


「…どういうつもりですか?優香提督」


 杜宮さんの問いただす声に怒気が含まれている。


「見ての通りよ?記録なんて無い、私達は救難信号が出ていた海域に向かったけどすでにホーリー・モノポリーが沈め奪った後の為何も無く生存者はゼロ、我々はまだいたホーリー・モノポリーを捕まえた。それだけよ?」


 どこ吹く風でとんでもないことを言いだす優香さんに正彦さんも難色を示した。


「優香、これは幾ら君でも問題行動だよ。どうするつもりだい?」


 そう優香さんに正彦さんは尋ねると


「元帥閣下からの命令よ、その子に関する記録はすべて削除。削除された空白は捏造でもして埋め証拠を無くすこと。この子は厳重に保護して元帥閣下に任せることですって」

「げ、元帥閣下が!?」

「…それは本当ですか?」

「えぇ、無線で直接尋ねたらこう言われたのよ」

「…盗聴の恐れは?」

「ないない、うち独自の回線だからね。知っているのは私と元帥閣下と父様だけよ」


 なんだかすごいことになっている予感がする。でも気になることもある。


「あのぉ~」

「あら、なぁに?」


 優香さんが微笑みながらこちらを見る。


「船はどうなるんです?」

「それの指示もあったわ。『ドックに収容しろ、私はそこで待っている』ですって。そのドックの場所は岩戸鎮守府が担当している海域にある無人島。島全体がドックになっているんですって」


ほんと、いったいいつの間に。と優香さんが呟いた事から、彼女にも知らされていない秘密ドックの様だ。


「ま、そういうわけだから早速向かいましょうか。あ、そうだ。ついでに艦内を見せてくれない?敵対していないのは分かっているんだけど、一応ね?まぁ好奇心の方が強いんだけど…」

「それなら僕も案内してほしいな」


 どうせ逃げられないのだし、別にいいかと思ったので御影を案内することにしたがその前に


「何か服を下さい」


 何か着る物を所望します。


日常を過ごしながらの執筆活動は意外と大変だとやってみて思いました。

でも頑張って書いていこうと思います。

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